46.学園での戦い
「……ルナちゃん!?」
その声の主は、ヒナコだった。
ルナの記憶にある彼女は、いつも陽だまりのような温かな微笑みを絶やさない、おっとりとした少女だったはずだ。
だが、今そこに立つ彼女の顔は、幽霊でも見たかのように青白く、酷く憔悴しきっていた。
ルナの姿を認め、その瞳にぶわりと涙が浮かんだのも束の間。
「……その人達は?」
ヒナコの視線が、背後に立つアルセーヌたちを射抜いた。その瞳に宿ったのは、野生動物のような鋭い警戒心。
「大丈夫。この人達は私の味方よ。それよりもヒナコ、一体何が――」
「味方なのは分かった。……ルナちゃん、私についてきて。皆も。早く!!」
ルナの問いを遮るヒナコの言葉には、有無を言わせぬ切迫感が籠もっていた。
かつてのふんわりとした彼女の面影はどこにもない。ルナはそのあまりの豹変ぶりに気圧され、反射的に頷くことしかできなかった。
導かれるまま一行は走り出す。向かう先は、この街の象徴でもある『聖エデン学園』の校舎だった。
だが、進むにつれて違和感は異常へと形を変えていく。
今は白昼のはずだった。だが、グラウンドに人影はなく、体育館から漏れ聞こえるはずの喧騒も、教師の怒鳴り声すらも聞こえない。
それだけではない。
校舎へと続く道筋には、黄色と黒の虎柵が乱雑に設置され、戦時中の陣地構築を思わせる鋼鉄製の阻止アングルが、アスファルトに牙を剥くように突き刺さっている。
「じいちゃん。これは……」
「外敵から守ろうとしておるのか?」
「何やらきな臭いねぇ」
「ヒナコ!何なのこれは!? 皆はどこ!? なんでこんな柵が……!」
走るヒナコの背中に問いかける。彼女は振り返ることなく、引き絞ったような声で返した。
「ルナちゃん、皆は校舎の中だよ。それよりも早く!! 時間が無いわ!!」
ヒナコが空を仰ぐ。ルナもつられて視線を上げた。
そこで目にしたのは、光学現象の法則を無視した光景。
さっきまで頭上にあったはずの太陽が、目に見えるほどの速度で地平線へと滑り落ちていく。
澄み渡っていた青空は、瞬く間にドロドロとした血のような茜色に染まり、長い、影が地を這い始める。
「夜が、来る……!!」
ヒナコの悲鳴のような叫びが響く。
おかしい。これは明らかに異常だ。
急激に冷え込み始めた空気の中、ルナの背筋に嫌な汗が流れた。




