43.ナビゲーター
「いやぁ~、さすがだね二人とも! 期待以上だよ。アタシは最初から君たちならできるって信じてたんだから、ホントだよ?」
アクアがこれ以上ないほど調子よく手を叩きながら出迎える。
先ほどまでの神妙な顔はどこへやら、その表情にはいつもの軽薄さが張り付いている。
「……一体何だったのよ、あの『特殊強化型』ってやつは。まさか、このバックルームにはあんなのがゴロゴロいるの?」
ルナが銃を収めながら、忌々しげに周囲を見渡す。
「まさかぁ、あれほどの個体はそうそういないよ。……でもね」
アクアの口角が、不自然なほど静かに吊り上がった。
「――『エデン』にはいるよ。しかも、あれ以上のやつらがね」
「……なんですって?」
絶句するルナに代わり、重々しい口調でアルセーヌが言葉を継いだ。
「……魂が肉体から分離しようとも、元はエデンの国民。エデンは彼らを保護する義務を負う。ゆえに、救済の道なき異形の魂たちは、エデンの最深部に投獄されることになるのだ。……これは政府がひた隠しにする、国民の誰も知らぬ秘匿情報だがな」
「そんな……。永遠に閉じ込められるっていうの?」
ルナの問いに、アクアはどこか遠くを見つめるような瞳で答えた。
「データ生命体に終わりはないんだ。産み出され、目的を与えられれば、達成しなきゃならない。……もし、それが呪詛だったとしたら? 人は死んで終われるけど、僕らは終われないんだ。永遠に運命を呪い続けなきゃいけない。地獄でしょ?」
アクアの言葉が、冷たい風のように白い空間を通り抜ける。
「だから、悪意を持った生成は産み出しちゃいけないのさ。それが創造者の責任。……まあ、これは人間に限らず、僕ら側にも言えることなんだけどね」
神妙な空気が場を支配する。ルナは、自分が対峙したあの二人の救われなかった時間を思い、沈黙に沈んだ。データとして生きるということの想像を絶する重責。
誰もが言葉を失っていた、その時だった。
「……さっ! ありがとーみんな! 本当によくやってくれたよ!感動した! 疲れたでしょ? 今日はもうおうちに帰って、温かいミルクでも飲んでゆっくり休んでよ。……それじゃ、アタシはこれで……!」
アクアは、抜き足差し足でそーっとその場を離れようと背中を向ける。
「――おい」
ガシッ、と。
ルナの容赦ない手が、逃げようとするバニーの長い耳を背後から掴み取った。
「アヒィィッ!? い、痛い痛い! 伸びる! 耳が千切れるぅー!」
「どこへ行こうっていうのよ、あんた」
ルナ、ルリ、アルセーヌ、そしてアンジェ。
全員の冷徹な、そして怒りに満ちた視線が、吊り上げられたバニーに集中する。
「「「「約束守りなさい!!」」」」
怒号が響き渡り、アクアの逃亡計画は一瞬で瓦解したのだった。




