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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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44.ナビゲーター②




「うぅぅ……っ。せっかく休めると思ったのに! 今日からエロキャラゲットの期間限定イベント開始だったのにぃぃ!!」


 アクアが『研究室』の机に座り、端末を猛烈な勢いで叩ながら、ルナたち四人のエデン行き許可申請を処理していく。


「ねぇアルセーヌ、そもそも何でアクアの許可がいるの? アンジェも力ずくで行こうとしてたし……」


 ルナが不思議そうに首を傾げると、即座にアクアが噛みついた。


「ナビゲーターがいるでしょ! アンタにはッ! 休日返上だ~、もう、嫌だよぅ……っ」


 ひとしきり喚き散らした後、アクアは急に「スンッ」と感情を殺した無表情になった。

 虚空を見つめ、焦点の合わない瞳でブツブツと独り言を漏らし始める。


「……いいんだ、アタシがやれば。アタシが頑張れば、みんな死なずに済む。アタシが頑張れば、全部丸く収まる。代わりなんていくらでもいる。休むなんてありえない。あはは、アタシ、すごく頑張ってる……」


 その不気味なほどに従順で乾いた独白に、ルナたちは一瞬言葉を失う。




「……不法侵入者である我々が、エデンで『殺害』されれば現実の肉体も死に至る」


 アルセーヌが空気を変えるように、静かにルナへ説明を続けた。


「緊急時には、避難できるように彼女にバックドアを構築して貰う必要がある。そのための許可だよ。それに、不正アクセスの初心者には、秘匿回線で彼女が直接ナビゲートをすることが決まりとなっている」


「……なるほど」


「ほら、手続き……終わったよ。そこに並んで」


 アクアの覇気のない声と共に、研究室の壁面に巨大な出入口が生成される。

 無骨な金属扉の中央には、蛍光塗料をぶちまけたようなけばけばしいピンクと黄色の配色で、『GO TO EDEN』の文字が浮かび上がっていた。

 フォントの端々には不自然な光沢エフェクトが施され、まるで安っぽい深夜のバラエティ番組のテロップのような、空々しい活気が漂っている。


「準備はいいよね。アクセスポイントは初心者の思考に合わせるよ」


 ルリ、アルセーヌ、アンジェは慣れた足取りで扉の前へ進む。

 最後尾に立つルナは、思わずゴクリと喉を鳴らした。普段、現場では物怖じしない彼女も、未知の領域である不正アクセスでの『エデン』へのダイブには、隠しきれない緊張が指先に表れていた。


 そんな四人の背中を見据え、アクアの瞳が不意に冷徹な光を宿す。

 その声は、もはや愚痴をこぼしていた先ほどのものではない。


「さあさあ、お立ち会い。

――時計の針は進み出す。

穴の底、あるいは空の果て。君たちが望んだ『楽園エデン』の扉は、今この瞬間に開かれた」


 ガシュン、と扉のロックが外れる。

 隙間から溢れ出したのは、純白の暴力的な光。


「――時計の針は止まらない。

急いで急いで。ここから先は大変さ。ぐずぐずしてたら遅れちゃう」


 扉が開く。光が周囲へ溢れ出す。


「――時計の針は戻らない。

皆様せいぜい良い旅を。……簡単に帰れるなんて、思わないことだね」


 背中を押されるように、ルリたちが光の中へと消えていく。

 最後に残ったルナが、決意を込めて一歩を踏み出した。

 視界がホワイトアウトする。

 ルナの意識は加速し、情報の海へと溶けていった。

 背後で扉が重く閉まる音と同時に、消え入りそうな呟きが光の中に溶けて消えた。



「……残業代、でるかなぁ」




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