幕間.怪異の誕生②
アンジェは懐かしむように目を細めた。
「そんな時さ。……隠居して、ただ腐っていたアタシの前に現れたのが、あのじいさんだったんだよ。坊やと一緒にね」
アルセーヌはエデンへの復讐を誓っていた。当時、エデンの武術大会でシステムごと他者を圧倒していたアンジェの噂を聞きつけ、なりふり構わず戦闘の指南を乞いに来たのだという。
「気持ちは分からなくもなかった。だが、闘争の場は甘いもんじゃない。ずぶの素人が復讐心だけで勝てるほど、この世界は優しくないからね。アタシは弟子入りを許すフリをして、何度も、何度も、こてんぱんにしてやったのさ。諦めさせるためにね」
だが、アルセーヌは折れなかった。
泥を舐め、地面を這い、肉体に相当なダメージを受けても、その瞳から光が消えることはなかった。
「……諦めないんだよ、あの人は。復讐に燃える凶悪な目をしていたけれど、その瞳の奥には兄さんと同じ……地獄のような努力を厭わない信念の光があった。しかも、じいさんも尋常じゃない努力家でねぇ。兄さんに負けないくらい、愚直に、真っ直ぐにね。……そんな姿を見せられて、アタシは年甲斐もなくときめいちまったんだよ」
アンジェはクスクスと、少女のような面影を残して笑った。
アルセーヌは、アンジェの教えを驚異的な速度で吸収していった。しかも単なる模倣ではない。彼は自分自身の専門知識やライセンスを基盤に、アンジェの武術を融合させ、独自の技術体系を構築してしまったのだ。
「ルナ、確かにあんたはじいさんに勝った。だがね、驚かないでおくれよ。……じいさんには、もう一段階上の『真の本気』がある」
アンジェは真剣な眼差しで、ルナを見据えた。
「あの人はアタシより強いよ」
ルナは言葉を失い戦慄した。ルリとの共闘により、なんとか打倒したあの圧倒的な力。
(……あれが……本気ではない?)
ルナを一撃のもと粉砕したアンジェをして、自分より強いと言わしめるアルセーヌの真の力。
その深淵に、ルナは背筋が凍るような感覚を覚える。
「アタシはね、兄さんから受け継いだロストライセンス『武術継承者』の権能をもって、あの人を免許皆伝とした。そして、新興武術として立ち上げさせたのが『アルセーヌ流近接格闘術』さ。あの人の技術を、正式に後世へと伝えていけるようにね」
アンジェは立ち上がり、ルナの肩に力強く手を置いた。
「ルナ。アタシたちにだって、エデンに対して因縁もあれば目的もある。……だから、あんたがエデンに乗り込むときはアタシたちも一緒だよ」
その言葉に、ルナは勇気が湧いてくる。
この二人が共に戦ってくれるのだ。
「……ありがとう、おばあちゃん」
ルナは深く頭を下げた。
大聖堂に差し込む光は、かつての絶望を溶かすようにルナを温かく包み込んでいた。




