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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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33.意識




 それからの日々は、表面的には以前と何ら変わらない穏やかなものだった。

 現実世界でのルナは、教会での掃除などの日課をこなし、合間に肉体的なトレーニングを行って体力を養う。

 木漏れ日の中で汗を流すその姿は、どこにでもいる健気な少女そのものだ。

 だがたった一つだけ、決定的に変わったことがある。


 VR内での戦闘訓練。

 場所は電子の海、仮想空間の中に構築された静謐な大聖堂。


 今日は「神父」――アルセーヌによる修行の日だった。


「始めようルナさん。ルリ、お前も並びなさい。彼女の相手を務めるんだ」


 アルセーヌの穏やかな声が、高い天井に反響する。ルナはルリと並び、真剣な面持ちで対峙した。


「まず最初に伝えておくが、このVR空間において力の源泉となる専門知識、あるいは現実を塗り替えるほどの強固な意志……。これらは、三週間という短期間で劇的に変わるようなものではない」


 アルセーヌは、ゆっくりと二人を値踏みするように見渡す。


「むしろ、今の君は普通のプレイヤーと比べれば十分すぎるほどに強く、その発想力と応用力は天才的とすら言えるだろう。君はすでに武器を揃えている」


 そのままアルセーヌは慈愛に満ちた、けれど底の知れない笑みを浮かべて続けた。


「それならば、これから君は何を身につけるべきか? ……答えは一つ。『意識』だ」


「意識……?」


 ルナが小さく首を傾げる。

 アルセーヌは手にしたステッキの先で、自らの額を軽く叩いた。


「実のところ、君と私の力に絶対的な差など存在しないのだ。ただ、決定的に違うのは、意識の向かう方向……すなわち『外的意識』と『内的意識』」


 アルセーヌの瞳が鋭い観察者のものへと変貌する。


「私はこれから、得意分野である『外的意識』の極意を教示しよう。……もっとも、君のような才知に溢れた娘なら、説明を聞いただけで習得してしまうかもしれないがね」


 静寂の中で、ルナの背中に緊張の汗が流れる。

 大切なのは力ではなく、意識。



「いいかな?私と君の能力は極めて似通っている。本質的には同質のものだ。私は鍵や家具を生成して戦い、君は警察装備を生成して戦う。……間違いないかな?」


「ええ。そう言われると……種類は違うけれど、物を生成して戦うっていう点は同じね」


 ルナは納得して頷く。

 だが、アルセーヌはステッキを軽く回し、核心を突いた。


「では、なぜ意志の力に大差がないのに、生成された物体の『自由度』がこれほどまでに違うのか?」


「自由度……?」


 ルナは困惑した。警棒、手錠、盾。どれもイメージ通りに生成でき機能もしている。

 更に言えば、これらの装備に電撃等の特性だって付与できる。

 これ以上にどんな自由があるというのか。


 アルセーヌは、まるで幼子に読み聞かせをするような優しい声音でヒントを与えた。


「――警察が使う装備というものは、果たして『身に付けるもの』だけなのかな?」


(……あっ……そうか……!)


 思考の霧が晴れる。

 アイデアが濁流となって溢れ出した。


 警察官という言葉、装備という言葉。それらが持つ固定概念に無意識のうちに縛り付けられていた。

 警察という組織が持つリソースは、個人が携行するものに留まらない。

 まして、一対一で直接相手をするだけが警察の業務なのだろうか?


「気付いたようだね。やはり君は天才だな。アンジェリクが目をかけるのも理解できるよ」


 アルセーヌは満足げに目を細めた。


「大局を意識しなさい。個を離れ、場を支配する『外への意識』を。そうすれば君は、私と同じように……あるいは私以上に、この空間を自在に書き換えられるようになる」


 ルナが瞳を輝かせ、新たな可能性に震えている横で――。

 ルリが不満げに頬を膨らませた。


「……じいちゃん? 結局どういうことだよ。武器とか防具は、装備して使わなきゃ意味がないんだぜ」


 その言葉を聞いたアルセーヌは、深く、それは深くため息をついた。




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