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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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32.Re start




 意識の底、深い闇の中で、ルナは遠く響く声を聞いていた。

 それは現実のものか、それとも消えゆく記憶の残滓ざんしか。


「……この子ならエデンの深淵に届きうるんじゃないかい?」


「……私は負けた身だ。これ以上、何も言うまいよ」


「ばあちゃん。僕も賛成」


 聞き慣れた、けれどどこか重みを含んだ三つの声。

 まどろみがゆっくりと剥がれ落ち、ルナが重い瞼を開くと、視界に飛び込んできたのは教会の自室、見慣れた天井だった。

 部屋には、窓から差し込む夕刻の柔らかな光を背負って、三人の影が立っていた。

 アンジェ。静かな威厳を湛えた神父。そして、正体はルリである小型のヒト型ロボットラピス。


「おや……ようやく気付いたかい、お寝坊さん」


 アンジェが椅子に深く腰掛けたまま、不敵な笑みを向ける。

 ルナは混乱する頭を押さえ、恐る恐る自分の記憶を、これまでの出来事を思い返した。


「おばあちゃん……。私の記憶は……まだあるみたいだけど。私はこれからどうなるの?」


 敗北の味はまだ舌の上に苦く残っている。

 アンジェは笑みを消し、射抜くような視線でルナを見つめた。


「ルナ。もう一度だけ聞くよ。……やっぱりあんたはエデンへ行くつもりかい?」


 静寂が部屋を支配する。ルナはベッドの上で上体を起こし、真っ直ぐにアンジェを見返した。


「……エマを助けたい気持ちは変わらない。ごめんなさい、おばあちゃん。たとえ今ここで記憶を消されてしまうとしても。……自分の気持ちに嘘はつけない」


 悲壮な決意。だが、それを聞いた三人の顔に落胆の色はなかった。

 アンジェは大きくため息をつくと膝を叩いて立ち上がった。


「心配無用だよルナ。……これは、アタシたち『家族』で決めたことだ」


 彼女は窓の外、遥か遠くに聳えるエデンの影を見据える。


「あんたの記憶はそのままさ。そして、エデンへ行くことも許そう。……ただし!」


 アンジェが突きつけたのは、厳格な条件だった。


「三週間。あんたを更に強くする。……エデンの奴らに無様に殺られないためにね」


「……っ。ありがとう、おばあちゃん。みんな……!」


 ルナの瞳に熱いものが込み上げる。

 それは安堵だけではない、皆に自分が認められたことへの歓喜でもあった。




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