31.闘いの終わり
「アルセーヌ。私たちは行かせてもらうわ……エデンへ」
肩で息をしながらも、ルナは毅然と言い放った。足下では、膝をついたアルセーヌが苦悶に顔を歪めている。
「それは……ならん。行かせるわけには……グゥッ!」
「ルリ、一緒に行きましょう」
ルナはアルセーヌに背を向け、変身した姿のまま、大聖堂の出入口へと足を踏み出そうとした。
だが、その背中を、氷のように冷たく、けれどどこか楽しげな声が引き止めた。
「――まちなぁ」
アンジェだった。
彼女はゆっくりと立ち上がると、首の骨を鳴らし二人を射抜くような鋭い眼光で見据えた。
「あんたの記憶のことについては、アタシは口を挟まないよ。だがね、エデンへ行くことはダメだ。……許しちゃおけないねぇ」
「おばあちゃん……止めても無駄よ。今の私達にはどんな攻撃も効かないわ」
「『絶対回避』ってわけかい?だがねぇ、残念だけどじいさんに勝てたのは、ただの相性だよ」
アンジェの放つ威圧感が、大聖堂の空気を物理的に重く変えていく。
「あんたたちのその力……実のところ、そんなに大層なものではないよ。いいかい、どうしてもエデンへ行きたいのなら、アタシを倒して行きな。……やれるもんならねぇ!」
「ルリ、時間がない。一気に終わらせるわよ!」
ルナは『レディ・ブルーキャット』の形態を維持したまま、爆発的な加速でアンジェの懐へ飛び込んだ。
「『キャットネイル』――ッ!!」
藍色の鋭爪がアンジェの体を切り裂かんと突き出される。
どんな反撃が来ようとも、今の自分なら霧のようにすり抜けられる。
勝利を確信し、ルナは爪を振りかざした。
――しかし。
アンジェは避けようともしなかった。
それは、あくびが出るほどにゆっくりとした動作だった。
ただルナの体に触れようとするだけの力みのない拳。
だが、その拳は、高速のルナの爪が届くよりも先に、吸い込まれるようにルナの腹部へと触れる。
「……え……何で……?」
――ドォォォォンッ!!!
大聖堂の空気が爆ぜるような、凄まじい衝撃音。
「……あぁ……」
触れられた瞬間、全身の細胞が同時に破壊を叫ぶような圧倒的な質量の暴力。
ルナの意識は激痛を感じる間もなく、深い闇の底へと暗転した。




