27.十字架の下で⑦
「到達したッ……!! じいさんの防壁を本当に攻略しちまったのかい!? なんて子なんだいッ!!」
アンジェは叫んでいた。その瞳には絶対的な防御を打ち破ったことへの戦慄と、それを上回るほどのえもいわれぬ歓喜が渦巻いている。
ルナのセンスに恐怖しながらも彼女の口角は抑えきれずに吊り上がっていた。
「たどり着いた……! 喰らいなさい!!」
咆哮と共に、ルナは死神の如き踏み込みを見せた。マグナムの硝煙を切り裂き、左手の警棒がアルセーヌの肩口へと振り下ろされる。
狙いは筋肉の薄い剥き出しの鎖骨。
警棒で確実に無力化させるための冷徹な一撃が炸裂した。
――ビタッ。
骨を砕く音でも、肉を叩く音でもない。
吸い付くような不気味な感触。
(……ッ!? 衝撃が吸収された……?)
信じがたい手応え。
ならばと即座に右手のマグナムを零距離で向けようとしたルナだったが、その思考より先にアルセーヌの指先が彼女の腕に触れていた。
流れるような円の動き。
力感のない、けれど逆らえない関節の誘導。
「お嬢さん、少々距離を詰めすぎたな」
アルセーヌの氷のような声が耳元で響く。
刹那、ルナの右腕が背後へと捻じり上げられた。
「――『チェーンロック』」
ジャラッ、という冷たい金属音。どこからともなく出現した強固なチェーンが、関節を極められたままのルナの腕と胴体を、一分の隙もなく縛り上げた。
「くぅ……ッ!!」
拘束の苦悶に顔を歪めるルナ。
しかしアルセーヌは情けをかけない。
彼は手にしたステッキを流麗な動作で水平に構えた。
「アルセーヌ流近接格闘術――『三天死確』」
目にも留まらぬ高速の三連刺突。急所を正確に等間隔で撃ち抜く衝撃が、ルナの胴体を激しく叩く。
「あ……がはっ……!!」
肺の空気が強制的に押し出され、ルナの体は木の葉のように後方へと吹き飛んだ。
だが、逃げ道はない。吹き飛ぶ彼女の背後には、いつの間にか『窓』が音もなく聳え立っていた。
――ドォォンッ!!
背中を強打し、既に空気のない肺から音のない悲鳴が漏れる。
さらにアルセーヌは冷酷にステッキを真横に振った。
「――『レールスライド』」
轟音を立てて、ルナの正面から次なる窓が迫り来る。
「く……っ、あ……ああ……っ!」
――バァンッ!!!
ルナは二枚のガラス窓に挟み込まれ、瞬く間に捕獲された。
透明な檻の中で荒い息を吐きながらアルセーヌを睨みつけることしかできない。
自由を奪われたルナの前に、アルセーヌが悠然と歩み寄った。




