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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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26.十字架の下で⑥




「ちぃッ……!」


 透明であるはずの窓が、どぎついオレンジ色の塗料に染まり、アルセーヌからの視界を完全に遮断した。


 ルナは、汚された遮蔽物の裏に身を隠し、予測不能なタイミングで左右、時には上方から身を乗り出しては、ベレッタに火を噴かせる。

 正確な三連射が『窓』を確実に削り、破壊速度が格段に跳ね上がった。


 アルセーヌは負けじと新たな窓を生成する。

 だが、ルナの破壊速度はその上を行っていた。

 しかも彼女は、単に破壊を繰り返すわけではなかった。

 破壊した窓の近くにある別の窓へ、迷うことなく次なるカラーボールを投げつける。

 弾ける塗料。透明な障壁は、即座に彼女を守る暗幕へと変わる。

 彼女はその暗幕を渡り歩くように、一歩ずつ着実に、アルセーヌとの距離を詰めていった。


「……なんて賢い子だい」


 アンジェから思わず独り言が漏れる。

 力での突破ではない。

 与えられた状況、生成可能な道具、そしてこの空間の性質――すべてを瞬時に咀嚼し、最適解を導き出している。


(天性の発想力!鍵の生成を封じたッ!……だが、それでもまだ足りないねぇ。じいさんは、ただ窓を置くだけの男じゃあない)


 ルナは遮蔽物から身を乗り出し、再び銃声を響かせる。

 三連射を終え、彼女が再びオレンジの影に身を隠した、その瞬間だった。


「こざかしい! 隠れても無駄だ!……『レールスライド』!!」


 アルセーヌの苛立ちが空間を震わせた。

 ルナが隠れていた窓が、まるでレールの上を走るように、猛烈な速度で真横へとスライドしたのだ。

 遮蔽物を剥ぎ取られ、ルナは無防備な姿を晒すはずだった。しかし――。


「何ぃ……!?」


 アルセーヌの驚愕が大聖堂に木霊した。

 スライドした窓の裏には誰もいない。

 ルナは鋭く動く窓の動きに合わせ、サイドステップにより窓の裏へと隠れ続ける。




「なっ……読んでたというのかい!? じいさんの行動をッ!!」


 アンジェの背筋に冷たいものが走った。

 『レールスライド』は初見であったはずだ。

 しかもこの極限状態の中、窓が移動するという可能性を予測し、その挙動に合わせて動くなんて……。


「……じいさんであれば、窓を動かすことくらい可能だと……そう予想して動いたっていうのかい!?」


 アンジェの瞳に初めて恐怖の色が混じる。

 目の前の少女は、戦いの最中に進化し続け、神の如き洞察で未来を掴み取ろうとする底知れない化け物へ変貌を遂げようとしていた。


「クッ、隠れ続けながら撃つというのならば……窓の密集する地点へと移動させるまでッ!」


 アルセーヌは焦燥を押し殺し、再び『レールスライド』を発動させる。

 遮蔽物の移動により隠れるルナを追従させ、再び防壁の枚数を確保しようと試みる。


 ……が、その時。


「……ッ!?」


 驚くアルセーヌ。

 ルナは隠れることをやめていた。


 スライドするのは窓のみ。その場に現れたルナはアルセーヌへと走りだし、銃口を向ける。

 だが、その手に握られていたのは、先ほどまで連射により、防壁に傷を刻んでいた黒いベレッタではなかった。


(あれは……44レミントン・マグナム!?)


 明らかに巨大な銃身。ルナにはおよそ似つかわしくない、暴力の化身のような大口径拳銃。


 ――ドンッ!!


 鼓膜を震わせる咆哮。

 凄まじい反動リカイルで、ルナの華奢な両手が高く跳ね上がる。

 それと同時に、絶対の信頼を置いている窓が、たったの一撃で、粉々の結晶となって霧散した。


(一発でッ……!? マズい!)


 計算が前提から崩壊していく。

 アルセーヌは必死に、ルナの突撃路を塞ぐよう窓を生成した。しかし、ルナは止まらない。


 ――ドンッ!!


 二枚目が砕け、銀の硝煙が舞う。


 ――ドンッ!!


 三枚目が弾け、破片が周囲に飛び散る。

 距離はもう、わずか数メートル。

 もはや洗練された機能美など何もない。あるのは、ただ破壊された無力なガラスの残骸のみ。


 そして。

 四度目の咆哮が、大聖堂の空気を爆ぜさせた。


 ――ドンッ!!!


 ついに、アルセーヌまでの全ての防壁を食い破り、硝煙を纏った死神が到達する。

 至近距離。逃げ場のないゼロの領域。

 アルセーヌを見るルナの瞳には、勝利への確信が宿っていた。




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