25.十字架の下で⑤
「いったい何なのだ、この娘は」
アルセーヌは思う。
エデン学園において初めて出会った時とは、魂の輪郭すら別人のようだ。
一体どれほどの修羅場を潜れば、これほどまでに迷いのない眼差しを手に入れられるというのか。
(……この娘の行動には、すべて意味がある)
先ほどのルリとの共闘、ルナはただ防戦に回っていたのではない。アルセーヌの生成する窓の耐久力を冷徹に測定していたのだった。
――『窓』はベレッタの弾丸五発で砕ける。
――左手の警棒による打突は、弾丸一発分に相当する。
――『パドロック』による施錠を防ぐため、銃口を晒すのは三連射が限界。
火力が足りないことは明白なはずだ。だが、それでも突っ込んでくる。
(何か、隠し球があるのか……?)
「ああああああっ!!」
ルナが獣のような雄叫びを上げ、地を蹴った。
ベレッタが火を噴き、三連射が正確に『窓』の一点を削る。彼女はすぐさま銃を背後に隠すと『窓』に肉薄、そのまま左手の警棒による二連打で、ひび割れた窓を猛然と叩き壊した。
――バリンッ!
砕け散ったガラスの破片が、ステンドグラスの光を浴びて虚しく散る。
(馬鹿な! このまま突撃する気か!?)
明らかにアルセーヌの生成速度の方が早い。盤面は彼が支配していた。
「根性や気合で打開できるわけがないぞ、小娘ッ!」
アルセーヌは次なる窓を、ルナの前方に実体化させる。
ルナは再度、身に隠していたベレッタの銃口を向ける――はずだった。
(何……!? 銃ではない!! あれは――!)
彼女の手に握られていたのは、不気味に揺れるオレンジ色の液体が入った球体。
防犯の知識に精通するものなら、その物体が持つ最悪の効能を、瞬時に理解できるだろう。
「……カラーボールッ!?」
ベチャッ
鈍い音と共に、『窓』へ鮮烈なオレンジの塗料が炸裂した。




