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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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24.十字架の下で④




 二人はアルセーヌへの攻撃を繰り返していく。

 ルリのアドバイスにより、手足への施錠はかわすことができた。だが、火力が足りない。

 アルセーヌの窓を削ることはできる。だが、あと一歩及ばない。

 張り替えられる窓を破壊しきるには至らなかった。


「……埒が明かないッ。ルリ、実際のところどうなの?勝てるの? あの化け物に」


 ルナは隠した銃のグリップを握り直し、低く問いかけた。視界の端では、アルセーヌが悠然とステッキを弄んでいる。


「ルナ……正直に言っていいかい? かなりキツイ」


 ルリの答えは、あまりにも率直だった。けれど、その瞳には諦めの色は微塵もない。


「あれだけ格好つけといてそれ?……でも、キツイってことは無理じゃないってことよね?」


「ああ。しかも、ルナがいてくれるなら可能性は跳ね上がる」


 ルリはアルセーヌに悟られぬよう、秘匿通信でルナに策を伝えた。


「じいちゃんの権能『モデルルーム』には、広いけれど射程がちゃんとある。僕はその射程の外まで下がり、力を溜める」


 ルリは更に説明を続ける。


「射程外から距離を稼ぎ、全速力で突撃すれば、あの強化ガラスを貫くことができる。……前は、何枚も『窓』を重ねられて、ギリギリで止められたけどね。……でも、今の僕の最高速度なら……いけるはずだ」


「……わかったわ。その間、アルセーヌをこっちに釘付けにしておけばいいのね」


「頼む。……武装構築と踏み切りの力溜め、加速距離を確保するためのルート設定。……二分だ。二分あれば、僕は重力を振り切れる」


「了解。……行って!」


 刹那、ルリは弾かれたようにバックステップを踏み、大聖堂の深奥へと姿を消した。

 アルセーヌの射程外。そこでルリは、猛禽が今にも飛翔せんとするが如く両手を広げ、深い前傾姿勢を取った。


「――裏奥義『強手ごうしゅ』!!」


 ルリが低く咆哮すると、その右腕を覆う藍装束の布地が生き物のように蠢き始めた。幾重にも重なり、硬質化し、超高速で回転を始める。それはまさに、あらゆる障壁を粉砕するためのドリルへと変貌を遂げていた。


 一方、大聖堂の中央に残されたのは、右手に銃を隠し左手に警棒を握る少女一人のみ。


「作戦会議は終わったかな?」


 アルセーヌが、楽しげにモノクルを指で弾いた。


「ルリは射程外かね。狙いはみえみえだが……。まさか、お嬢さん一人で私を止められるとでも? 」


「……二分」


 ルナは呟く。アルセーヌには届かぬ、自分自身への誓い。


「……できないと思うの?……ならば、私を捕まえてみなさい。神父様」


 ルナの瞳に、不屈の戦士の火が宿る。

 対するアルセーヌは、わずかに首を傾げると、優雅に漆黒のインパネスコートを翻した。


「ほう。……それではお嬢さん、あなたの心を盗んで差し上げよう」


 その言葉を合図に、静止していた世界が劇的に変貌した。

 アルセーヌの周囲に、無数の『窓』が実体化した。

 ステンドグラスを透過した極彩色の光が、ガラス窓に反射して乱反射の渦を巻く。

 光の粒子は万華鏡のように大聖堂を埋め尽くし、神々しくも残酷な光の檻を形成していた。


 ルナの孤高なる二分間。その幕が、今切って落とされる。




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