23.十字架の下で③
「二人とも、もうおしまいかな?」
アルセーヌの宣告が冷たく響く中、膝をついていたルリが苦悶の表情を浮かべながら立ち上がり、ルナの元へと移動する。
「ルナ、手を出して……! 今、外す!」
ルリが残像を伴う指捌きで南京錠に触れる。カチリと硬質な音が響き、ルナの右手とベレッタを貫いていた『パドロック』が瞬時に霧散した。
自由になった手を振り、ルナはこびりつくような激痛を意識の外へ追いやる。
「……ルリ、何なの? この出鱈目な能力は」
ルナは視線をアルセーヌから逸らさぬまま低く問いかけた。ルリは自身の肩を回しながら苦々しく答える。
「……じいちゃんは『ライセンスホルダー』なんだ」
以前、ルビー教官から聞いたことがある。 VR世界がAIの完全管理に移行したことで、人間が持つ必要のなくなった各種資格……通称『ロストライセンス』だ。
現在では取得不能なそれらの資格は、所有者に対して、その職能に対応する絶対的な『権限』を付与する。
ルナは冷や汗を流しながら、ベレッタのマガジンをリロードする。
「じいちゃんは『鍵師』と『インテリアコーディネーター』……二つのロストライセンスを持つダブルホルダーだ」
「鍵師はなんとなく想像がつくけど……インテリアコーディネーターって何なの?」
「壁や家具を自在に配置・構成できるんだ。さっきから生成している壁は防弾強化ガラス製の掃き出し窓。……二つのライセンスを合わせた能力『モデルルーム』。じいちゃんを中心とした一定の空間内なら、視界に入るあらゆる内装を書き換えられる。無機物であれば、鍵などの部品を後付けすることも自由自在だ」
「……反則ね、本当に」
ルナは吐き捨てるように言った。自分たちが戦っているのは、ただの戦士ではない。この空間のルールを書き換える演出家なのだ。
「鍵の設置には、発動の瞬間にわずかなタイムラグがある。……ルナ、動きを止めないで。あと、銃もすぐに隠した方がいい。視認されなければ鍵の取り付けはできないはずだ」
「了解。……やってみるわ」
ルナは半身になり、己の体を遮蔽物にしてベレッタを隠した。引き金を引くその一瞬まで、銃をアルセーヌには見せない。
そして、空いた左手には、鋭い風切り音と共に【伸縮式強襲用特殊警棒】を展開する。
ルナは警棒を低く構えた。
その光景を見ていたアンジェが、膝を叩いて快哉を叫ぶ。
「アハハハ! いいねぇ、ルナ! じいさんの能力を聞いたのに即座に近接武器を生成するなんてね。手をロックされても警棒ならそのまま殴り倒せるって訳かい?」
アンジェはニヤリと口角を上げ、獲物を見定める猛禽のような目でルナを見つめた。
「キマってるねぇ、ますます気に入ったよ。……あんたが男だったら、惚れてたところだねぇ!」
その言葉を背に受け、ルナは返答せずアルセーヌを黙って見据える。
「……ほう。賢い判断ではあるが、そんなもので、私の窓を割ることができるのかな?」




