22.十字架の下で②
「……最初にお会いした時から随分と変わったのう。これほどまでにお転婆であったとは」
硝煙の向こう側で、アルセーヌが静かに語りかける。
張り詰めた緊張感が大聖堂を満たし、ルナの指先は次の弾丸を解き放つべくトリガーに吸い付いている。その時――。
「アハハハハ!」
場違いな、けれど快活な笑い声がアンジェから弾けた。
「いいねぇルナ! あんた素晴らしいよ。VRじゃあ、こんなに戦えるんだねぇ。じいさん、こりゃ計算違いじゃないのかい?」
アルセーヌは無言のまま、モノクルの奥で冷徹な光を湛えている。アンジェは愉悦を隠そうともせず言葉を継いだ。
「しかもこの子、アタシへの警戒も一切解いちゃいないよ。いつアタシが横から食いついても対処できるよう、神経を張り巡らせてる。じいさんの攻撃を避けられたのも、最初からこの場にいる全員を疑っていたからさ。……そうだろ、ルナ?」
ルナは答えない。ただ、獣のような鋭い眼光をアルセーヌに固定したまま、背後のアンジェをも視界の端に捉え続けている。
「安心しな。アタシは誓って参戦しないよ。ルナ、思いっきりやってみな!」
アンジェはニヤニヤと楽しげに、観戦者の立ち位置へ退いた。
ルナは、わずかに、けれど力強く頷く。
刹那、ルナが動いた。
足元に次々と実体化する銀色のクレセント錠。それをステップで紙一重にかわしていき、弾丸の雨をアルセーヌへと叩き込む。
その猛攻に呼応し、ルリが『差し足』を起動した。
直角、急旋回。方向転換を伴う超加速が、大聖堂に藍色の残像を幾重にも描く。
ルリは四方八方から、岩をも穿つ『突き破り』を繰り出した。
――ガギンッ! ガキィンッ!
アルセーヌはその都度、冷徹に透明の防壁を張り替える。だが、ルナの弾幕とルリの抜き手、二人の力押しが重なり、防壁は次々と砕け散った。
張り替えの間隔が、目に見えて短くなっていく。
(……いける!)
ルナが確信し、ベレッタの残弾を叩き込もうと指に力を込めた、その時。
「……『パドロック』」
アルセーヌの掠れた声が響いた。
カシャン、と。重厚な金属音がルナの目の前で鳴る。
「……ッ、がぁっ!?」
激痛。ベレッタのスライドを通過するように実体化した「南京錠」が、ルナの右手と銃を貫き、無慈悲にロックした。指も、銃の機構も、物理的に固定され動かない。
一方、超加速の最中にあったルリにも、アルセーヌの魔の手が届く。
突撃の直線上、ゼロ距離に突如として生成された透明な防壁。
「がはっ……!?」
高速で防壁に激突したルリが、肺の空気をすべて吐き出しながら床に転がった。
「ルリ……っ!」
右手を封じられたルナが叫ぶ。
アルセーヌは優雅にステッキを突き、乱れた様子もなく二人を見下ろした。
「二人とも、もうおしまいかな?」




