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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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19.発覚




 無機質な機械音だけが響く地下室。

 ラピスは迷いのない手つきで一台の『リンク・クレイドル』を起動させた。淡いブルーのインジケーターが脈動を始め、暗い室内を照らし出す。


「……これを使って、ルナ。僕、先に行って待ってるから」


 ラピスはそう言うと、自らの頸部の端子に使い込まれたLANケーブルを直接差し込んだ。その瞬間、彼のレンズから光が消え、意識がネットワークの彼方へと吸い込まれていく。


 ルナは困惑していた。なぜ、清貧を旨とする教会の地下に、エデンと直結するような最新設備があるのか。だが、今はその謎よりも、目の前にある希望を掴むしかなかった。


「……ログイン!」


 視界が白濁し、重力から解放される独特の浮遊感。

 再び目を開けた時、そこは現実のそれよりも遥かに高く、厳かな静寂に満ちた仮想の大聖堂だった。ステンドグラスからは神々しい光が降り注ぎ、空気さえも高純度のプログラムに洗浄されている。


「ルナ、こっちだよ!」


 祭壇の影から、ラピスが手を振っていた。

 

「ここはまだ外地のローカルサーバー内なんだ。この大聖堂の出口からバックルームに移動すれば、そこからエデンのメインサーバーへ繋がるパスが見つかるはずだよ」


「ラピス、ありがとう……。でも、どうしてそんなことを知っているの? この場所は一体……」


「そんなこと今はいいじゃないか。エマを助けにいくのが先決でしょ? ほら、これが出口の扉……なんだけど……あれ?」


 ラピスが駆け寄った巨大な二枚扉。そこには、赤く点滅する電子錠が不気味に浮かび上がっていた。


「エ〜ッ!? 戸締まりされてる! なんでだよ、いつもは開いてるのに! ルナ、僕がなんとかするからちょっと待ってて」


 ラピスが必死に扉のインターフェースに触れ、ハッキングを試みる。その背後、誰もいないはずの大聖堂の奥から、コツ、コツ……と規則正しい足音が響いてきた。


 ルナが反射的に振り返る。

 光の向こうから歩いてきたのは、鮮やかな黄色のラインが入った黒いジャージに身を包んだ、凛とした佇まいの美女だった。腰まで届く艶やかな黒髪をなびかせ、その双眸はルナを射抜くように鋭い。


「……あんた達、悪いことは言わない。今のうちに現実へ戻りな」


「……誰!?」


 ルナが呆然と問いかけると、ハッキングの手を止めたラピスが驚愕の声を上げた。


「ばあちゃん!? なんで、ここに……!」


「ええっ……おばあちゃん!? まさか、アンジェなの……?」


 あの腰の曲がった老シスターからは想像もつかない全盛期の肉体を備えたアバター。

 アンジェは苦々しげに顔を歪めると、二人の前に立ちはだかった。


「早くおし。今ならまだ間に合う。あの人が来る前に戻れば」


「……いや。もう間に合わないよアンジェリク」


 天井まで響くような、重厚で冷徹な声が降ってきた。

 大聖堂の祭壇前。逆光の中に立っていたのは、モノクルを光らせシルクハットを深く被った一人の老人。

 その姿は、教会の神父からは想像もつかない、漆黒のインパネコートを纏った怪盗そのものであった。




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