18.施設
深夜の礼拝堂は、昼間の温もりとは正反対の、凍てつくような静寂に支配されていた。
高い天窓を抜けた月光が、色鮮やかなステンドグラスを透過し、不規則な極彩色の影を大理石の床に落としている。その光景は、まるで神の沈黙を可視化したかのように美しく、そして冷ややかだった。
「こっちだよ、ルナ。足元に気をつけて」
ラピスの小さな体躯が、月明かりを浴びて鈍く光る。彼は迷いのない足取りで、教会の最も神聖な場所――祭壇へと近づいていった。
「えっと……ここを、ヨイショっと!」
ラピスが小さな手で祭壇の縁を掴み、渾身の力で押し込む。
ズズ、と。重厚な石の擦れる音が静寂を切り裂き、祭壇が滑らかに横へとずれた。そこには、闇の奥へと続く細い階段が、ぽっかりと口を開けていた。
「ラピス、これ……何なの……?」
「大丈夫。僕を信じて、ついてきて」
ルナは息を呑みながらラピスの後を追って階段を下りた。
一歩下りるたびにカビ臭い地下の空気は消え、代わりにオゾンと微かな機械の駆動音が混じり始める。
やがて辿り着いた最下層。そこには銀色の重厚な電子ロック式のドアが威圧的にそびえ立っていた。ラピスが慣れた手つきで認証をパスすると、プシュッという排気音と共にドアが開く。
眼前に広がったのは外地の古びた木造教会にはおよそ似つかわしくない、あまりにも近代的な、そして「エデン」の技術体系を彷彿とさせる清潔な空間だった。
「……まさか。これって……」
ルナの喉が引き攣ったように震えた。
青白いLEDが点滅する室内に整然と並んでいるのは、十数基の『リンク・クレイドル』。
VRへと魂を接続するための、純白のログイン端末――。
エデンへ入国可能な禁断のパスポートが、そこには眠っていたのだ。
「ルナ。……行こう」
ラピスが振り返り、ルナの手を引く。
エデンの管理から逃れたはずのこの場所で、再びその「檻」へと繋がる装置を目の当たりにし、ルナの胸には言いようのない戦慄と、激しい鼓動が渦巻いていた。




