13.教会
ふわり、と。
頬を撫でる柔らかな熱にルナは意識の底から引き上げられた。
エデンの空調が作り出す設定された温度ではない、不規則で力強い陽だまりの温もり。
「……っ……」
ゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには見たこともない光景が広がっていた。
視界を埋め尽くすのは、飴色に焼けた木の天井。節の浮き出た梁からは、乾いた草花の香りと、陽光に温められた古い木の匂いが漂ってくる。
「……ここは……?」
ルナが掠れた声で呟くと、すぐ傍らで衣擦れの音がした。
「おや、目が覚めたかい?」
そこには、深い皺を刻んだ柔和な顔の女性が座っていた。古びた、けれど丁寧に手入れされた修道服。彼女はルナの様子を覗き込むと、驚いたように細い目を見開いた。
「意識がハッキリしているかい。珍しい……おまえさん、狂ってないねぇ」
「……あなたは?」
「私はアンジェ。この教会のシスターだよ。……あんた、名前は言えるかい?」
「ルナです……。助けてくれたんですね。ありがとう、アンジェさん」
ルナが弱々しくもはっきりと礼を述べると、アンジェは「あんた、良い子だね」と、まるで孫を愛でるような手つきでルナの頭を撫でた。その手の平の感触と体温の生々しさが、ルナに現実を実感させる。
「さて、そろそろ礼拝の時間だからねぇ。細かいことはその後、昼食のときにでも話すとしよう。ルナ、立てるかい?」
「はい……っ」
返事とは裏腹に、体に力が入らない。視界がわずかに揺れる。
それを見たアンジェは、すぐに自分の肩をルナに貸した。
「ゆっくりでいいよ。さあ、私についてきな」
アンジェに支えられながら、木造の廊下を進む。
一歩踏み出すたびに床がギシリと軋む。その不完全な音さえ、今のルナには愛おしく感じられた。
やがて辿り着いたのは、天井の高い大聖堂だった。
そこは、厳かでありながら、どこか母の胎内のような優しさに包まれていた。
高い窓のステンドグラスから差し込む光が、埃の舞う空気の中で極彩色の帯となり、ルナの頬を彩る。
正面の十字架の下では、神父が静かに祈りを捧げていた。
そして、並んだ木製の座席には、様々な人々が座っており、中には、あの輸送機に乗せられていた者の一部も座っていた。
(……あ。あの人たちも……)
しかし、何かがおかしい。
彼らは、最初からどこか空虚な状態であったが、その他の人々も、魂の重要なピースが欠け落ちてしまったかのような状態だった。
教会内には静かすぎる平穏が漂っている。
やがて、神父がゆっくりと十字を切って祈りを終える。
「さあ、礼拝の時間は終わりじゃ。食事にしよう」
その穏やかな声と共に、静止していた人々がゆっくりと動き出す。
ルナは、その光景に安らぎと、言葉にできない微かな違和感を抱きながら、アンジェに連れられて歩き出した。




