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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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12.出会い




 ――ドォォォォォォォォン!!


 乾いた地平線の彼方、エデン国との国境を分かつ巨大な障壁の方向から、空気を震わせる衝撃音が響いた。


「……廃棄か? ここ暫くは無かったのだが」


 荒野に佇む古びた大型輸送車の傍らで、一人の老人が呟いた。日に焼けた深い皺に、煤けた祭服。彼はその手にある古びた聖典を閉じると、隣に立つ女性へ視線を送る。


「準備をしましょうかい、じいさん。――坊やも行くよ」


 修道服を着た老婆が、背後で待機していた小型のヒト型ロボットに声をかけた。


 大型輸送車は唸りを上げ、砂塵を巻き上げながら荒野を走り出す。目的地は明白だ。 

 過去何度もエデンから投擲されている輸送ロケット。内部構造により『荷物』の損傷は最小限に抑えられてはいるが、このロケットは着陸機能を有していない。

 したがって、高い高度から地上に落下し、先端から地面に突き刺さる形で到達する。


 ーー通称『竹林』。


 今回放たれた輸送ロケットからは、狼煙のような黒煙が柱の様に天を突いていた。

 やがて輸送車が煙の根元に辿り着くと、地表に突き刺さった鋼鉄の円柱から、回収を促すかのように、灯火が不気味に点滅していた。ーー荷下ろしの合図だ。


 プシュゥゥ……


 焦げ付いたハッチが開き、内部の拘束ベルトが解除される。

 途端、暗い船内から這い出てきたのは、エデンという理想郷から吐き出された『荷物』たちだった。


「今のところ九名かね?」


「ええ。大半は大人しいが……いきのいいのもいるねぇ」


 輸送車から降り立った高齢の神父とシスター、そして無機質なはずなのにどこか愛嬌のある動きをする小型のヒト型ロボット。

 彼らが近づくと、精神を病んだ『荷物』の一人が、突如として身を震わせ、天を仰いで絶叫した。


「ああぁ、あ、ガァァァァッ!! ギィ、ィィィィィーッ!!」


 言葉にならない、粘りつくような剥き出しの狂気。男は白目を剥き、指を鉤爪のように立てて、目前のシスターへと躍りかかった。

 しかし、老シスターは眉一つ動かさない。彼女は流れるような手付きで男の腕を取り、その狂った力をいなすと、一気に地面へと叩き伏せた。


 一瞬の制圧。弱々しい女性高齢者とは思えない静かなる強さ。

 神父たちは怯える人々を宥め、一人ずつ丁寧に輸送車へと誘導していく。

 シスターは、傍らのロボットに優しく語りかけた。


「坊や。まだ奥にいるかもしれない。中を見てきておくれ」


 ロボットは電子音を一度鳴らすと、傾いたロケットの内部へと足を踏み入れた。

 焦げた匂いと、暗闇。その最奥の座席に、彼女はいた。

 ボロボロになった手、涙の跡がこびりついた頬。

 一人の少女が、力なく座席に沈み込み、気を失ったまま項垂れている。

 ロボットのセンサーが彼女の顔を捉えた瞬間、その駆動音が微かに震えた。


「……!? ……この子は……」


 その合成音声には、驚きと深い慈しみが混じっていた。




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