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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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11.お荷物




 重苦しい電子音と共に、絶望の象徴だったドアが開かれた。

 ルナは眩い光に目を細め、救済者エイミットの出現を覚悟する。だが、現れたのは、感情を持たない数台の作業用ロボットだった。

 油圧の駆動音を響かせ、無機質な金属の腕がルナへと伸びる。


「……いやっ、やめて! 放して!」


 叫び、抗おうとするが、衰弱しきったルナの腕に力は入らない。それ以前に、ここはVRエデンではない。超常の身体能力も、異形を屠る技術も、現実世界の肉体では表現できないのだ。


 ロボットたちはルナの悲鳴をノイズとして処理し、その細い腕を強引に掴み上げると、有無を言わさぬ力で彼女を拘束した。

 引きずられるようにして連れ出された先は、どこまでも続く真っ白な、無機質な長い通路。

 その突き当たりに、それは待っていた。

 巨大な円柱を横に倒したような、鈍く光る鋼鉄の構造物。

 その入り口の前には、ルナと同じようにロボットに拘束された国民たちが列をなしていた。


「な……何なの、ここは……?」


 ルナの喉から、乾いた声が漏れる。

 列に並ぶ人々の姿は、凄惨という他なかった。

 ある者は、裂けんばかりの声を上げて存在しない敵に怯え、狂乱している。

 またある者は、魂が抜け落ちたかのような虚ろな瞳で、ただ一点の虚空を見つめ続けている。

 共通しているのは、その精神が完全に修復不能なまでに壊れ、異常をきたしているということだけ。


 ここは、エデンの廃棄物集積所なのだ。


 ルナもまた、その廃棄物として、構造物の内部へと押し込まれた。

 船内には、航空機の座席をさらに簡素にしたようなシートが整然と並んでいる。

 ロボットたちは事務的な動作で人々を座席に叩きつけ、幾重にも重なる頑強なシートベルトを装着していく。

 一度固定されれば、自分の意志で外すことはできない。

 全員が固定されたことを確認すると、ロボットたちは音もなく退出し、底面のハッチが重々しく閉じられた。


「何……? 一体、何が起きるの……!?」


 ルナの問いに答えるのは、不吉に鳴り響く警告ブザーと、感情を排した合成音声のアナウンスだった。


『――本艦は発射シークエンスに移行します。カウントダウンを開始。10……9……8……』


「発射……? どこへ……まさか……!」


『……3……2……1……0。点火』


 ゴォォォォォォッ!!


 鼓膜を揺らす猛烈な咆哮。ロケットのような爆発的な推進力が、機体を震わせる。

 次の瞬間、前方から強烈な重力加速度がルナを襲った。

 肺が潰され、視界が真っ赤に染まる。座席にめり込むような衝撃に、ルナは悲鳴を上げることすらできない。


 数分後、全身を苛んでいた重圧がふっと消え、代わりに奇妙な浮遊感が訪れた。

 重力から解放された、真空の静寂。

 だが、安息は長くは続かなかった。


 ――ドォォォォォォォォン!!


 先ほどまでの加速が嘘のような、前方からの凄まじい衝撃。

 何かに激突したのか、あるいは強引に捕捉されたのか。

 激しい振動が収まった時、ルナの意識の端で、冷たい機械音が告げた。


『――目的地に到着しました。荷下ろしを始めてください』




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