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七百九十六話 天才、もしくはバカ

 ベティさんに報酬のドラゴン料理を提供したら、予想通りベティさんはリミッターが外れたがごとく食べまくった。そこまでは予想通りだったがヴィータが優秀過ぎた結果、ベティさんの吸収能力が限界突破し、食べた瞬間にお肉が付くレベルで脂肪を蓄え始めた。あわててヴィータに再調整してもらったが、ベティさんのリバウンド……怖いよね。




 ……自分が抑えきれるか抑えきれないか、それが問題だ。


 一回目の料理を主にベティさんが綺麗に平らげ、二回戦に挑む合間に山場がやってきた。


 そう、ラーメンだ。


 正直、ラーメンという言葉だけでテンションが上がるのに、そこにライトドラゴンの性質が加わってしまったら、自分が抑えられるかどうか自信が持てない。


 ダークドラゴンのお肉という鎮静剤を確保はしている。ただ、これでどれだけ抑えられるか。骨からとった出汁、これがライトドラゴンの性質をどれだけ維持しているかが問題だな。


 うん? トルクさんが味見をせずに料理を俺達に出すはずもないし、もしかしてそれほど問題ない……いや、トルクさんを参考にするのは危険だな。


 人気な宿屋のオーナー兼料理人なあの人は間違いなく様々なストレスを抱えている。でも、そのストレスを料理で発散しているタイプの人間だ。


 ライトドラゴンのお肉でテンションが上がっても、ただただ料理にのめり込むだけの可能性が高い。


 ……自分で試してみないと結論は出ないということか。


「おまち!」


 そんなことを考えていると、トルクさんが部屋に入ってきた。輝くラーメンをトレーに載せて……。


「ふわー、ラーメンが光ってますー」


 ベティさんの言うとおり、あきらかにお肉よりも輝きが強い。お肉よりも輝くスープって意味が分からない。あと、そんな輝くスープを見て引きもせずによだれを垂らすベティさんが更に分からない。


 あなた、数分前にテーブル一杯の御馳走を平らげたばかりでしょうに……。


 それにしてもなんでこんなに輝いているのか。自分の前に置かれたラーメンをみて疑問に思う。


 もしかしてお肉よりも骨髄とかに属性の力は溜まりやすいのかな?


 これ、どう考えてもヤバい奴だろ。


 とはいえ、ドラゴンラーメンという逸品を食べずに流せるほど俺の好奇心は死んでいる訳じゃないので、食べない選択肢はない。


 でも、まずはベティさんを生贄に様子を見よう。


「ふわーー。凄く、すっごく美味しいですー」


 あ、駄目だ。参考にならん。感動の言葉を上げた後は一心不乱にラーメンに夢中なのでテンションの違いが分からない。


 弟子達は……あれ? なんか恍惚としているんですが? もしかして美味しくて意識が飛んでる?


 ただ、悪くない情報だ。弟子達が恍惚としているのであれば、俺が乱れても印象に残り辛い。そして、俺も恍惚となるだけなら社会的地位は守られる。


 よし、俺も食おう。いや、先にダークドラゴンのお肉を食べて精神を落ち着けてからの方がいいな。


 精神を落ち着けて、乱れぬように心を強く持ちながらスープを一啜り…………おうふ、ヤバいなこれ、一口すすっただけなのに強烈な旨みが体全体に広がっている。


 そしてその広がりに釣られるように、俺の心が浮き立ち勝手に叫び出しそうになっている。


 叫びたい、絶叫したい、立ち上がって踊りだしたい、今ならサンバのリズムで……くっ、早くダークドラゴンのお肉を……危なかった、マジで危なかった。


「どうだ裕太、すげえだろ」


 ドヤ顔で自慢してくるトルクさん。でも、この味ならドヤ顔も納得できる。黒歴史を生み出しそうになる衝動さえ起こさなければの話だが。


「……信じられないくらい美味しいですね」


 コクとか深みとかそういうのを全部認識する前に強烈に叩き込んでくる美味しさだけど、美味しいのは間違いない。しかもこれだけ強烈なのに後味がスッキリとか意味が分からん。


「だろ、麺も凄いんだぜ、試してみてくれ」


 強面なトルクさんが子供が宝物を自慢するような顔で麺を勧めてくる。正直怖いんですけど?


 というか、時間がなかったはずなのに麺まで改良したんだな。まあ、今までの麺だとこの強烈なライトドラゴンのスープに釣り合わないと俺にでも分かるし、トルクさんが理解していないはずないよな。


 若干しり込みしながらお箸で麺を持ち上げる。なんか黒っぽい太麺だな。スープの旨味に対抗するために面を太くしたってことか。


 ……テンションの急上昇が怖いし、まずは一本だけ試してみよう。


 おそるおそる一本の麺を啜る。


 うん? 麺があまり滑らかじゃないな? でもその分スープが絡んで口の中に強い旨みが広がる。そして麺を噛みしめ……え?


「…………ト、トルクさん……これはいったい……」


 暴れ出しそうな自分の体を押さえつけながら質問する。


「驚いたか。実はどうやっても麺がスープに負けちまってな。だから麺にドラゴンの肉を混ぜてみたんだ。そしたら大当たりでな! 凄いだろ!」


 やはりそうか。麺が光っていたのはスープが絡んでいるからだと思っていたが、この親父、なんかお肉を麺にしやがった。


 たしかにこれならスープの旨味に麺が負けることはないけど、だからと言ってこんなことをする?


 お肉を麺にするとか、漫画で出てくるとんでもアイデアだぞ。実際地球に肉麺があるかしらないけど、思いついて実行するのは天才かバカくらいの……ああ、トルクさんは料理バカだったな。


 うん、納得。


 それにしてもこのラーメン破壊力があり過ぎる。スープだけでサンバを踊りかねなかったのに、麺と一緒に食べたらサンバの後にボサノバをかましてしまいそうだ。


 まあ、ぶっちゃけ、ボサノバがどんな音楽か知らないから不可能だけどね。


 それよりもどうする? こんなラーメンを一気に啜り込んだら本気で踊りだしかねない。


「言葉を失う美味さか。当然だな!」


 いや、質問はしたはずだけどね。でも、考え込んで黙っていたのは事実なので頷いておく。しかしこのラーメン、完食可能なのだろうか?


「トルクさん! お代わりおねがいしますー」


「おう! だが、料理はまだあるぞ? 大丈夫か?」


「大丈夫ですー。なんだか無限に食べられそうなんですー」


 俺が目の前のラーメンという名の劇物をどう処理するか悩んでいる間に、ベティさんがお代わりを要求した。


 本気で意味が分からない。ストレス発散が過食だと無限に食べられるようになるのか?


 思わず室内なのに遠くを見ようとしていると、ラーメンに興味津々でヨダレを垂らしているベル達が視界に入った。


 なるほど、盗み食いをしたいのだけど、さすがにラーメンだとバレそうだから盗み食いができないって感じか。


 今のベティさんなら目の前で盗み食いをしてもバレそうにないのだが、ベル達の盗み食いにかけるプライドが、安易な妥協を許さないのかもしれない。


 麺を一本つまみ、ラーメンどんぶりの縁にそって載せたあと、ベル達に向かって頷く。


「きゃふーー」


 俺の意図を理解したベルが、大喜びで突撃してくる。そしてどんぶりにとりつき、縁に載せられた一本の肉麺をちゅるんと吸い取る。


「おいしーーー!」


 モグモグと麺を噛んだベルが大興奮で手足をワチャワチャさせる。とても可愛い。でも、これを俺がやると犯罪レベルの痛さを晒すことになる。気をしっかり持たないとな。


 気をしっかり持ちながら再び麺を一本縁にのせる。


「キュー!」


 次はレインが突撃してきた。そして器用に麺を吸い取り、ヒレをパタパタさせて大喜びする。レインってイルカの口なのに、どうやって麺を啜ったんだろう? 謎だ。


 続けてトゥル、タマモ、フレア、ムーンも麺を啜り、大喜びしている。


 さて、じゃあもう一周行くか。




 ***




「ねえ、ヴィータ。ベティさん、大丈夫かな?」


 食事が終わり、シルフィとヴィータにお酒を提供しつつ質問する。


 ベティさん、結局ラーメンを三杯食べて、二回目の料理の数々もたらふくお腹に詰め込んで、最終的に動けなくなりこの宿に泊まっている。


 あの調子だと今日リバウンドを免れたとしても、明日にはリバウンドしていそうで怖い。


「あの様子だと駄目じゃないかな?」


 お酒を飲みつつ爽やかに残酷なことを言うヴィータ。でも、俺も同感なので否定できない。


「なんとかならないかな?」


 ちょうどいい量を食べたら、それ以上料理を食べられなくするようにできないかな? まあ、できてもヴィータならやらないか。


「僕だと体の仕組みを変えてしまうことになるからね。一日限定とかならともかく、長期にわたってはあまり楽しいことではないね」  


 やっぱりか。俺が契約者として強くお願いすればやってくれそうではあるが、ヴィータに不快な思いをさせてまでやるべきことではない。


「裕太が気になるなら、太らなかったら美味しい物を食べさせてあげるって約束すればいいんじゃない?」


 凄い勢いでお酒を消費していたシルフィがアドバイスをくれる。一応、話は聞いていてくれたらしい。


「そんなことでリバウンドを防げるのかな?」


 いくらベティさんでも、そこまで単純とは思えない。


「裕太が出すご褒美次第ね。あの子の興味が引けたらなんとでもなるでしょ。あと、ベティはかなり単純よ」


 そういえばドラゴンの三種盛りで幽鬼になるまでダイエットしていたな。ベティさん、凄く単純だった。


 そうなると、何を御褒美にしてベティさんのリバウンドを抑制するかだな? もう一回ドラゴンのお肉でも通用しそうな気がするが、さすがに高級品を何度も提供するのは違う気がする。


 でも、簡単に食べられるような品だと抑止にならないから地味に難しい。


 あ、ドラゴン三種盛りほどの破壊力はないけど、ちょうどいいメニューを思いついた。


 明日の朝にでもベティさんに話を持ち掛けることにしよう。


 …………俺が開発した鶏の皮のパリパリが原因とはいえ、ここまで俺がフォローする必要があるのかという疑問はあるが、まあ、乗り掛かった舟だし、少なくない苦労もかけているし、それなりに良い子だからこれくらいなら構わないか。


8/11日本日、コミックブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第86話が更新されました。

裕太の止めと失態、色々と盛り沢山ですのでお楽しみいただけましたら幸いです。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
出汁取りに色々勿論肉を使ったって作品はあったが……斬新革命的過ぎる
鰹節が骨系の出汁に負ける(多く入れるとスープがドロドロになったり粉っぽくなる)から 出汁粉末と、冷ました出汁汁混ぜて麺打った奴は居た。
中華一番であった、牛肉を筋に沿って麺状にしたやつを思い出した。
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