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七百九十七話 約束

 ベティさんの報酬のお食事会は。豪華な料理に加えて光を放つとんでもドラゴンラーメンまで出てきて、凄まじく美味しいけど精神の乱高下が凄まじいお食事会となった。俺的にはファンタジーなお食事会で少し大変だったが、他のメンバーは大満足だったので大成功だろう。




「朝ごはん、おいしいですーー」


 お食事会の翌朝、ベティさんと話をするために宿の食堂に足を運んだ。


 間違いなく居るだろうと分かっていたが、パクパクと朝食を食べ続ける姿を見ると不安になる。


 空の器を見るに、三回はお代わりをしているな。リバウンド……ベティさんの体重を俺がここまで気にする必要がない気もするが、まあ、打てる手は打っておこう。


「しあわせですー。もう一回お代わりしましょうかねー?」


 昨晩パンパンにお腹を膨らませて身動きとれなくなり宿に泊まったばかりなのに、なんで朝食をバンバンお代わりできるんですかね? 


 ……とりあえず、お代わりは止めるか。


「ベティさん、おはようございます」


「あ、裕太さん、おはようございますー。昨日は御馳走様でしたー」


 朝からたっぷり食べたからかベティさんはご機嫌だな。あと、ストレス発散も関係していそうな気がする。


 ライトドラゴンのお肉って、光属性の影響か、ストレス発散の効果がありそうなんだよね。


 俺は抑えめだったけど、それでも少し心が軽くなった気がする。


 闇属性は心の鎮静剤、光属性は心を高揚させて発散してスッキリさせる感覚だ。ベティさんもその影響を受けている気がする。


「あはは、喜んでいただけたなら良かったです。それでですね、少しお話があるのですが、お時間頂けますか?」


「うっ、お仕事のお話ですかー?」


 話があると言っただけなのに、一瞬で物凄く警戒されてしまった。失礼だな、まるで俺が会う度に仕事を押し付けてくる嫌な上司みたいじゃないか。


 あ、そういえば香辛料の調査を昨日お願いしたばかりだったな。ついでに会う度と言うほどではないが、高頻度で仕事を提供していた事実が有るような気がしないでもない。


 うん、これは言い訳できないな。ベル達と弟子達を置いてきて良かった。師匠がブラックの根本だと誤解されたら困るからね。


「仕事の話ではありませんよ。ただ、このままだと直ぐにベティさんが太ってしまいそうなので、お話ししておいたほうが良いかと声を掛けたんです」


 今のご時世だとパワハラ、いやセクハラか? まあ、そんな感じのデリケートな話題だが、この世界だとそこまでコンプライアンスが発達していないから、ある意味では楽だな。


「うう、せっかく自由にご飯が食べられるようになったのに、そんなこと言うなんて酷いですー」


 マーサさんが飛んできて怒り狂うから、目に涙をにじませないでほしい。あと、自由にも限度があるという話ですよ。


 朝から四回目の定食のお代わりに悩むベティさんでなければ、俺だってこんな余計なお世話はしないんだ。


「酷いことではなく、今のスタイルを維持できたらご褒美がありますよ、という話です」


 ベティさんの食欲を言葉で抑えられると思ってはいない。必要なのはご褒美になるご馳走だ。


「しかも、ご飯を食べないでということではありません。食べた分を運動するなら食べても問題ないです。スタイルを維持できればいい訳ですからね」


 維持……なんとなくだけど、商業ギルドが食いついてきそうだな。痩せる方式に関してはベティさんが無茶をしたからあまり情報を得られなかったかもしれないが、維持に関しては商業ギルドが食いついてくるかもしれないな。


「……ドラゴンのお肉ですか?」


「いえ、今回はお魚です」


 ベティさんがションボリした。昨日あれだけ食べたのに、まだ食べたいのか。さすがドラゴンだな。


「ベティさん、祝福の地って知っていますか?」


「? なんかどこかで聞いたことがあるきがしますー……ああ、スピネル王国にある特別な場所だって聞きましたー」


 知っているのか。さすが商業ギルドの職員だな。


「そうです。その特別な場所にある特別な湖で獲れるお魚が美味しいんですよ。さすがにドラゴンのお肉ほどではありませんが、興味ありませんか?」「興味ありますー」


 のんびりタイプのベティさんだが、今回の返事はすさまじく早かったな。食事に関しては反射神経が俊敏になるのかもしれない。


「では、そうですね……」


 あれ? どれくらい維持できたら報酬をわたせばいいんだ?


 長すぎるとやる気を失うし、短すぎると意味がない、というか報酬を繰り返しわたさないと無駄になる。


 明確に100日とか期限を定めてもその時に迷宮都市に居るかどうか分からないし、地味に面倒だ。


「……俺達が次から5回迷宮都市に訪れた時に維持できていたらご馳走しますね」


 5回ならだいたい50日から100日くらいで落ち着くだろう。


「…………」


「……どうかしましたか?」


「5回目から現れないとかありませんよね?」


 真顔で聞かれた。ベティさんの真顔って地味に珍しいし、語尾も伸びていないので本気の質問なんだろうな。


 自分の信頼のなさが泣ける。


「心配しなくてもお魚を提供するくらいで逃げるほど困っていませんよ」


「ああ、そうですねーすみませんでしたー。ドラゴンのお肉を御馳走してくれる裕太さんが、そういうことをするわけありませんよねー。そういう詐欺を聞いたことがあったので疑ってしまいましたー。ごめんなさいー」


 ペコリと頭を下げるベティさん。ちゃんと謝れるベティさんは偉い子だね。


 ん? 俺も日本でそういう感じの詐欺を漫画で見たことがある気がする。たしか警察官の漫画の型屋だったかな?


 もしかしたらあの漫画と同じようなことが、この世界でも起こっているのかもしれない。そうだったらベティさんが警戒するのも分からなくはない。   


「気にしなくていいですよ」


「ありがとうございますー。それで、そのお魚はどのくらい美味しいのですか?」


 え? 言葉で説明する感じ?


 ……まあ、しっかり説明しておいたほうが、ベティさんの抑止力になるだろう。俺の語彙の全てを駆使して、ベティさんの脳内をお魚天国にしてあげよう。




 ***




 しっかりたっぷり説明して、ベティさんの脳裏に祝福の地の焼き魚を刻み込んだ。


 これで少しはリバウンドの危機を抑えられるだろう。まあ、あくまでも少しだから、継続しての観察が必要だ。


 さて、ベティさんの洗脳は完了した。


 時間が空いたしベティさんの問題が片付いて明日には王都に向かう予定だから、みんなでメルのところに顔を出すことにするか。


 妖精達が心配だからできるだけ行程を切り詰めないとね。



「メルちゃん!」


 メルの工房に入り、キョロキョロとお客が居ないことを確認したあとに、キッカがメルに駆け寄った。


 ちゃんと他人が居ないことを確認してから駆けよるのがキッカらしい。


「メル、メラル、メリルセリオ、久しぶり」


 弟子達や精霊達に囲まれてワチャワチャしているメルとメラルとメリルセリオに声を掛ける。


「あ、お師匠様。お久しぶりです」


「裕太、久しぶりだな」


「あむ!」


 メルはキッカだけだがメラルはベル達に取りつかれているから少し大変そうだ。


 俺もベル達を装備し慣れているけど、メラルは俺よりも体が小さいしフクちゃん達も参加しているから体の面積がほとんど埋まっている。


 まあ、それはそれで可愛らしいけどね。あと、いつも一緒のはずのメリルセリオまでメラルに張り付いているのは少し意味が分からない。


 もしかして、メラルは自分のお兄ちゃんだ! 的な感情なのかな? 赤ん坊にしては無愛想で職人っぽい気質のメリルセリオだけど、もしそうだとしたらかなりキュンとしてしまう。



「それでメル、仕事の方は問題ない?」


 ひとしきりワチャワチャして落ち着いたので、あらためてメルに話しかける。キッカがメルの隣にピトっと引っ付いているけど、まあ、問題ないだろう。


「はい。劣化ダマスカスの納品も順調ですし、ユニスちゃんやゴルデンさん達に助けていただけているので順調です。普通の鍛冶仕事も増えたんですよ!」


 元気に教えてくれるメル。


 ユニスはともかくゴルデン? ああ、あのメルの下働きになった鍛冶師達か。まっとうに働いている様子なのは安心材料だな。


 それとポルリウス商会のフォローもあるのだろう。


 なにより、普通の仕事が貰えず苦労していたメルを知っているから、普通の鍛冶仕事が増えて喜ぶメルの姿が見られるのは嬉しいな。


 メラルと契約して徐々に仕事が増えていたようだけど、やっぱり劣化ダマスカスが決め手だったのだろう。


 工房の外で騎士さん達がしっかり護衛をしてくれているようだし、メルに何かがあってメラルがブチ切れる未来が遠のいた様子なのも安心材料だ。


「それなら良かったよ。ところでメル、ストレス、いや、不安だったり忙し過ぎだったりで精神的に疲れていたりする?」


「え? 突然どうしたんですか?」


「なに、ちょっとした確認だよ。心の負担になっているようなことはないかな?」


「えーっと、よく分かりませんが、今は毎日がとても幸せなので、特に心に負担になっていることはないと思います」


 自信なさげに質問に答えるメル。まあ、心の負担なんてよっぽどじゃないと自分で認識できないか。でも、幸せという言葉が出たなら大丈夫だろう。


 よし、メルとメラルとメリルセリオの今日のお昼はライトドラゴンラーメン&ドラゴン料理に決定だな。




 ***




「おししょうさま、メルちゃんすごかった」


「……うん、すごかったね」


 幸せなら大丈夫だろうと、トルクさんに作ってもらって魔法の鞄に保管していたライトドラゴンラーメンとドラゴン料理をお昼に提供した。


 メル達も美味しいドラゴン料理を精神を乱高下させながら美味しく堪能した。


 とても楽しい昼食会だったのだが、やはりライトドラゴンのラーメンの破壊力はすさまじく、突然メルが、『お師匠様、鍛冶がしたいです!』と言いだし鍛冶場に直行。


 一心不乱に剣を打ち始めた。


 俺達はそのテンションについていけず驚いたが、メラルとメリルセリオはすぐにサポートに回り、どんどん素材が剣の形になっていった。


 とはいえ剣がそんなに簡単に完成する訳もなく、俺達はハイテンションで鍛冶仕事に打ち込むメル達を置いて帰ることにした。


 なんだか分からないが凄い剣が完成しそうな雰囲気だったので、次の訪問が少し楽しみだ。


 でも、やっぱりライトドラゴンラーメンは危険だな。


 フィオリーナの分も用意してあるんだけど、食べさせて大丈夫かな?


 フィオリーナの仕事柄、充実していたとしてもストレスが凄そうなんだよな。でも、ストレス発散にもなりそうだし、他人に迷惑を掛けない場所でならOKかな?


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
うっかり裕太がヴィータ御老公に助けてもらった世直しのヤツ 確かうなぎよりは美味しいんだっけ? 文から読み取るとドラゴンよりグレードが下がりすぎな気がするが大丈夫だろうか?
メルはともかくフィオリーナが突然ラーメン食えつって啜るかな?契約の頃に多少ダンジョン潜って一緒に食事したくらいじゃ
祝福の地ってなんだったっけ? と思ったけどきれいな湖というかモザイク模様のしゃれた街へ建物のデザインを見学に行ったところかー 可哀そうな村長さんのことしか覚えてないやw
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