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七百九十話 困るらしい

 妖精の雪島での遭難を防ぐため雪の大精霊のところに向かった。働きたくないと渋る雪の大精霊をなんとか説得し、無事に雪島をドームで覆うことに成功する。色々と思うことが多い交渉だったが終わりよければすべて良しだ。まあ、終わりに少しケチがついちゃったけどな。




 雪島から戻り、ジューン姫にも結果を知らせておこうと楽園食堂に立ち寄ったのだが、お説教が継続中だったので後回しにすることにした。


 お説教の邪魔をしてはいけないよね。じっくりたっぷりお説教をしてあげてほしい。


「裕太、これからどうするの?」


「んー、少し疲れたし家で休むよ」


 体力的にはそれほど疲れていないのだが、妖精の凍死騒動から雪の大精霊の交渉と地味に精神が疲れている。まったりのんびりしたい気分だ。


「そう、じゃあ私は酒蔵に顔を出すわ」


「了解。あ、雪島をドームで覆ったことを精霊達に伝えておいてくれる?」


 小さな子でも精霊ならどうにでもなるだろうが、念のために知らせておくべきだろう。


「分かったわ」


「お願い」



 シルフィと別れて家のリビングのソファーに深く座って力を抜く。


「コーヒーでも飲むか」


 少し休んでコーヒーを入れて、コーヒーを啜りながら再び体の力を抜く。


 ふとリビングの隅に置かれているハンドベルが目に留まる。


 これまでもベル達は楽しそうにハンドベルを練習していたのだが、妖精の歌と踊りに刺激されたのか更に熱心に練習するようになった。


 やはり劇場が必要だろうか?


 劇場にハンドベルだけではなく様々な楽器を用意して、ベル達以外にも音に触れられる環境を用意するのはアリかもしれない。


 難点を上げるとすれば、遊びに来るチビッ子達は交代制で、触り程度しか楽器に触れられないということだが、まあ、なにかしらの切っ掛けになるのであれば無駄ではないか。


 ルビー達だって聖域に来る前も色々と苦労しながら料理に打ち込んでいたんだ。本当に気に入れば自分でなんとかする道を探すだろう。


 そしてなにより……村に劇場があるとか……なんかカッコいい。


 よし、作ろう。さすがに最後に回すけど、フィオリーナに良い感じの劇場を造ってもらうことにしよう。


 そうなると、劇場で使う楽器や楽譜も必要だな。本集めと同じくマリーさんにお願いすることにしよう。


 マリーさんにはお酒に本に楽器と色々と任せ過ぎな気がしないでもないが、まあ、本やお酒と違って数と種類が限られているから大丈夫だろう。


 雪島を封鎖したし、これで流石に妖精が死にかけることはないよな?


 光エリアで目がやられて転げまわっている妖精とか、闇エリアの洞窟で迷子になる妖精とかの報告は受けているが、こちらは対処可能だし、さすがの妖精も火のエリアで無茶をしたり、水に溺れたりするようなことはまだないので、おそらく大丈夫なはず。


 火と水は普通に妖精界にも存在するだろうし、強烈な光や、珍しい雪でもないかぎり死にかけるほど興味を惹かれることはないはずだ。たぶん。


 よし、そうだよな、いつまでも見守っていられないし、本格的に妖精が楽園に来るようになったらまたしばらく警戒が必要になる。


 あと三日程度様子を見て迷宮都市と王都に顔を出すことにしよう。


 迷宮都市でいつもの用事を済ませて王都に、それ以外に何かやっておくべきことはないか?


 妖精が意外に食べるから、食料関連も多めに仕入れておくか。


「ゆーたーー」


 遠くからベル達がこちらに飛んできているのが見える。シルフィ達の家ほどではないが、窓を大きくして置いて良かったな。


 そういえば窓で思いだしたが、水中回廊的なことができないか考えていたんだよな。


 ……これはさすがに後回しにしよう。今の状況で手を出すのはキャパオーバーになる。おっと、念のために窓を開けておくか。


「おやつー」「キュー」「ただいま」「くくくぅ」「ねんりょうほきゅうだぜ!」「……」「あう!」


 ベル達は意外と律義で玄関をちゃんと利用するお行儀の良い良い子達だが、偶に実体化を解いて窓から侵入してくることもある。


 そういう時は、俺が家でのんびりしている時や、おやつタイムでテンションが上がっている時が多い。


 そして、今回は両方だから確実に窓から飛び込んでくると思っていたが、予想通りだった。


「今日のおやつは何が良い?」


「あいすー」「キュキュー」「ぷりん」「くぅ!」「くれーぷだぜ!」「……」「あう!」


 俺の質問に元気に答えてくれるチビッ子達。まあ、半分以上が分からないから毎回質問の後に手持ちのおやつを全放出するんだけどね。


 ちなみに、言葉が理解できるベル達のリクエストも、大量に放出された甘味を目の前にして変更されることは多々ある。


 ベル達が戻ってきたということはそろそろジーナ達も戻ってくるはずだし、また賑やかになるな。




 ***




「では、出発しますが、みなさんのことは残っている大精霊にお願いしてありますので、何かあったら相談してください」


 見送りに来てくれたジューン姫に挨拶と注意事項を伝える。


 この三日、細かい問題はそれなりに起きたが、大きな問題は起こらなかったので迷宮都市に向かっても大丈夫だと判断したからだ。


 細かい問題に関してはおそらく変わり者の妖精が飽きないかぎりなくならないので、その時その時で対処することにしている。


 ちなみに、細かい問題の中で一番大きかった問題は、雪で閉ざされたドームが妖精達の好奇心を刺激してしまい、なんとか侵入できないかと試みる妖精が増えたことだろう。


 ドームの上から中が覗けるし、雪しかないと説明もしてあるし妖精も理解しているのだが、侵入が拒まれたのであれば、侵入して見せようということらしい。


 本当に変わり者というのはこちらの予想通りに動いてくれない。


 空っぽの宝箱だと分かっているのに、なぜ多大な労力を消費して開けようとするのか理解できない。未知ならわかるよ? ロマンだもん。


 そもそも本命の凍死しかけた妖精が迷子紐でがっちり拘束されているのに、別の妖精が食いつくのが予想外なんだよね。


 これまで雪島にほとんど興味を示していなかったのに、急に好奇心を刺激されないでほしい。切実に。


「ええ、宰相と相談して問題を起こした妖精はしっかり対処することにしたから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」


 ジューン姫が俺の心を軽くするように説明してくれるが、そんなにってことは少しは心配しなければならないってことだよね。


「ええ、ありがとうございます」


 まあ、それでも罰則が強化されたことは朗報だし、俺達が迷宮都市や王都に滞在するくらいの間なら大きな問題は起こらないと信じよう。




 ***




「え? これ、誰からの手紙ですか?」


 不安を抱えつつも迷宮都市に到着し、トルクさんの宿に一旦落ち着いてからさっそく行動を開始した。


 普段であれば翌日から行動すればいいやとのんびりするのだが、今回は切り詰められるところは切り詰めて旅行するつもりだからだ。


 だから、なんか宿の受付に居たマーサさんが見違えるほどになっていたとしても、軽く質問するくらいで抑えた。本格的な質問は夜にでもするつもりだ。


 そしてジーナにも実家に顔を出すようにお願いした。


 ジーナの母親であるダニエラさんもダイエットに参加しているはずなので、こちらの結果も把握しておきたかったからだ。


 そして俺は別行動でポルリウス商会に到着。マリーさんとソニアさんは居なかったものの、俺を知っている店員さんが対応してくれて、いつもの取引に加えて楽器の購入についても対応してくれることになった。


 話が終わり、後は商品を下ろして購入品と廃棄予定物資を受け取るだけだったはずなのだが、なぜか手紙を渡された。


「マリー店長からです」


「……読まなきゃダメですかね?」


 まあ、ポルリウス商会だからマリーさんからの手紙の可能性が高いのは理解していたが、だからこそ読みたくない。 


「お願いします」


 まあ、店員さんの立場だとそう答えるしかないよね。諦めて手紙を開く。


 〝助けてください〟


 おおう、凄くシンプル。


 そしてシンプルなのに凄く困っていることが伝わってくる字面だ。


 マリーさんに何があった……ああ、チョコレートか。王妃様に献上したチョコレートが気に入られて困っているのだろう。念のために確認しておくか。


「王妃様関連ですよね?」


 店員さんが深刻な表情で頷いた。やっぱりか。別の要件の可能性も考えたが、これなら急がなくてもいいな。


「分かりました。迷宮都市で用事を済ませてから王都に行く予定ですので、その時にポルリウス商会に顔を出します」


 店員さんが、え? すぐに行ってくれないんですか? 王妃様案件って理解しているんですよね? という顔をしている。


 でも、俺、王妃様とはあんまり関係ないし、迷宮都市の用事も大切だから仕方がないよね。マッサージチェアについては終わったことなので考えないことにする。


 さて、今日中に迷宮のコアに廃棄予定物資を届けるところまでは終わらせておきたいから、さっさと荷物を受け取ってしまおう。




 ***


 


「師匠、あたしの母親もなんか凄く綺麗になってた……」


 迷宮のコアに廃棄予定物資を届け、宿に戻ってきたらジーナから深刻な顔で告げられた。


「えーっと、母親が綺麗になっていたら困るの?」


 そもそも、ジーナの母親だけあって元が綺麗だったし、トルクさんには必要な栄養だのなんだのを素人知識だが提供してある。


 基本的に油と糖質を少なめにして野菜多めでバランスよくというシンプルダイエットだけど、迷宮都市は肉類が豊富で食が偏り気味だから割と効果があると思っていた。


「困る」


 断言された。


「……なんで?」


「親父が更にウザくなってた」


「あー……え? なんで? ジーナにはあんまり関係ないんじゃ?」


 ピートさんは元々ジーナに対して過保護な親父さんだったから、ダニエラさんが綺麗になっても変わらないのでは?


「おふくろが綺麗になって、客がおふくろに注目するようになって警戒しまくってる。だからあたしへの干渉も激しくなった」


 げんなりして微妙に片言になるジーナ。相当面倒くさかったらしい。


「……用事を済ませたら直ぐに王都に行くから、それまで我慢してくれ」


 時間を置けばピートさんも落ち着くだろう。たぶん。


 ふう、後でトルクさんと会って話を聞く予定だけど、詳しく情報を得ておかないととんでもないことになりそうだな。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
宿屋のマーサさんが美女化か。 恰幅の良い肝っ玉母ちゃんだったから、ちょっとイメージ湧かないなぁ
最近妖精のお守りの話が続いたから、マリーさんの自分勝手を懲罰する展開なら大歓迎。くれぐれもあっさり便宜を図ったりしないでほしい。ポルリウス商会は得しすぎてるから少しは痛い目に会うべきなんだよ
これでベティだけタプタプだったら笑う いや厳しく監視されてるらしいし大丈夫だとはおもうけども
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