嵐のように去っていった……
自分に虚しくなり始めた頃、1つの考えが頭に浮かんだ。
(そっか、死んだバアちゃんが向こう岸にいるってことはまだ死んでないのか!)
起き上がってもう一度向こう岸を見てみると、バアちゃんはニッコリと笑って今度は手招きをしていた。
「いや、まだ死なねーからっ!」
思わず叫んでしまう。
と、バアちゃんの顔はみるみるしょんぼりしていってしまい、肩を落とし帰ってしまった。
なんとなく罪悪感に悩まされつつも、考えていくしかない。
(えーと、とどのつまり俺はまだ死んでおらずに生と死の狭間にいるってことか……?)
そこまでは何となく察しはつく。
だが、それにしては自分が死にかけた記憶というものがない。それどころか……
(あれ……?俺……何してたんだっけ)
所々記憶が抜け落ちている。
バアちゃんの記憶が残っているということはそこまで酷いものではないと思う。が、
(俺の名前は……なん……だっけ?)
自分の名前がどうしても思い出せない。
「モヤモヤするなぁ……一番大事なところっ。一番大事な所が抜けてるよっ……あ、俺ツッコミ上手かったんだな」
頭を抱えつつもそんな間抜けなこと考えている辺り心の余裕はそこそこあるのだろう。
名前だけが出てこないのだ。
学校での出来事もある程度、人並みに覚えているのに、だ。ぼんやりするところはややあるが……。
そういえば、友達の名前も覚えていない。
名前だけが思い出せない。
顔は浮かんでくるのに。
(仕方ない……。
出てこない名前より出られるかもしれない案を考えよう。)
先ず「三途の川」といえば向こう岸は死んでる人の世界でこっちはまだ生きてる、ってイメージだ。大体の三途の川を見た人っていうのは追い返されて勝手に帰還しているような……。
(こっちの方の描写はあまりなかった気がする)
そう思った自分はバッと後ろを振り向いてみた。そこには、
「うわっ!?!?」
そこには美しい少女がたっていた。
「い、いつからそこに?」
今にも飛び出そうな心臓を必死に静めて尋ねる。
背後に立っていたのはブロンドの髪をしたの方で軽く結んでいる蒼い目をした少女。蒼い目は爛々と水晶の様に輝き、鼻は高く、唇は淡い桜色をしている。肌は陶器のように白い。あり体にいうと美少女だ。
自分の様子が可笑しかったのか、その瞳を半月型に細める少女を見て、顔に熱が集まっていくのが分かる。
まるで、天使。
「つい、先程から」
声さえも澄んでいる。
「そ、そっか……で、君はなんで後ろに……?」
それに比べ、自分の声は少し掠れていた。
「私は、ここの世界の住人よ。新しい旅人が来たので見に来たの」
「この世界……?」
「そうよ、貴方はなんでここに来たの?未練でも残っていたの?」
「いや……自分は……」
「名前はなんていうの?私はエルよ」
人の話を聞かない子である。
「……い……だ」
「え?」
「わからないんだ」
名前がわからないと正直に答える。
もしかしたら、彼女なら分かるかもしれないと思ったからだ。
すると、彼女の目がきらめいた。気がした。
「名前がわからない……?もしかして……!!」
「え、俺のことしってんの?」
「ノワにしらせないと!」
「え、いや、だから人の話を……いっちゃった……」
自分のとめる間もなくいってしまったエル。が、きっとノワという子なら分かるのだろう。
エルが駆けていった方を向くとそこには、
「村?」
灰色が基調の村が広がっていた。




