【STO:11】異世界の風呂で混浴を期待するのは間違っているのだろうか
案内されるまま食堂へと向かう。今更だが吸血鬼の食べ物と人間の食べ物って違うよね?
「あの、ちゃんと人が食べれる物ッスよね?」
「当たり前ですわ。自分が食べれないモノを出すつもりは無いですことよ」
「血のスープとか毛細血管のパスタとかそんなん無いですよね?」
「えっ」
「えっ」
慌てて普通のメニューに変更してもらい、出された料理も見た目はちゃんとした料理だった。危なかったわ、マジで危なかった。
「うん、美味い」
どこぞのグルメ漫画の様な感想をつぶやきながら食事を進める。
塩味の効いた豆の入ったトマトスープ(トマトだよね?血とか混ざって無いよね?)に、赤ワインを使った牛肉のステーキ(多分牛じゃないんだろうなと思うけど牛肉って事にしよう。いや、してください)。
イギリスパンのような丸いパンが籠に入れられ、取って食べれば濃厚なコクのあるチーズの風味が口いっぱいに広がる。
あの店の料理も美味しかったが、この料理も中々に美味しい。
他にもレタスやトマトが使われたサラダに、フォークを突き刺せばザクッと音が立つミートパイなどが置かれている。
どれも素晴らしい料理なのだが、先ほどの件でやっぱり何か入ってるんじゃ?と言う邪推が拭いきれず、素直に味を楽しむ事が出来なかった。
「ほはわり」
口をハムスターのようにしながら肉を咀嚼し皿を出すヘラリカ。さっきからこの人肉しか食べてないんですが。ほら、コロナティアさん苦笑いしてる。
しかし明日からまたあの死の森を歩くと思うと気が滅入る・・・まてよ?
「コロナティアさん、シグマルの魔石って持ってませんかね?」
「ありますわよ?」
やはりそうか、そりゃそうだよね。死の森であるならばこんな新鮮な野菜は採れない。家庭菜園?墓場はあっても草木は無かった。それなら近くの街にワープして食料を仕入れている筈と睨んだ訳だ。
「それなら幾つか都合付けてくれませんかね?代金はお支払いするので」
無論ヘラリカが。
「勿論構いませんわ、お金など不要ですの。好きなだけ持って行ってくださいまし」
「じゃあ全部くれ」
全部持ってったらコロナティアが街に行けなくなるんでやめたげてください。ほら、なんかちょっと泣きそうな顔してる。
「全部持ってったって荷物の邪魔になるだけですよ。換金するにしたって金貨が多いと邪魔でしょう?」
「ふむ、確かに」
説得すればあっさり引き下がるヘラリカ。素直でいいんだけど、魔王の娘としてどうなのよそれ。
「何れにせよ此れであの森を歩かなくて済みますねぇ」
「うむ、道中用を足す場所が無いのは困るな」
この人との会話はどうしてもキャッチボール出来ない。話しかけたらバッティングしてくるようなそんなん感じですわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食が終わり、風呂を借りる。
思いっきりくつろいで見えるか?その通りだ。
だって万が一襲われても勝てないし。それにーー
「ふふん、見せてやろう。コレが水切りの真髄だ」
ーー何故かこのダメリカ様も一緒に御入浴遊ばされている訳で。
ドヤリカ様はバスタオルを胸に巻き、石鹸を片手に何やらドヤ顔している。
ーーおわかり頂けただろうか?思春期真っ盛りな俺は彼女より先に風呂から上がる事が出来ない。
そして水切りと言いつつ何故か投球フォームをしているアホリカ様。
零れそうなのに零れない胸。見えそうで見えないタオルの中。違うそうじゃない。
明らかに俺に目掛けて石鹸を投げる気満々なアレをどうにかせにゃ、俺はこの風呂の湯を赤く染める事になる。
それはつまりどう言うことか?
俺の異世界生活が「風呂場で魔王の娘のお遊びにより死亡」という不名誉極まりない終わり方を迎えると言うことだ。
ーーなんとしてでも避けねばなるまい。
彼女は俺に石鹸を投げるのを見せたいのだ。おそらく説得による阻止は不可能だろう。
つまり俺はあの目にも止まらぬ速さで吸血鬼を悶絶させた程のパワーとスピードを兼ね備えた、石鹸という名の凶器を回避せねばならないのだ。
ーー振りかぶった腕がゆっくりと降りてくる。人間集中力が高まると世界がゆっくりと見えるとは聞いたが、今まさにそれを体現している。
見える・・・見えるぞ!
これは俺の顔面に当たる!
咄嗟に俺は上体を反らせる。全ての動きがスローに見える。石鹸が手元から放たれーー
ジュッ
ーーそんな音がした。石鹸が消えたのだ。このスローな世界から突然。俺はヘラリカの手から目を離していない。
ーー俺はちらりと後ろを見た。
頭があった場所の壁に焼け焦げたような穴が空いている。
何が起きたかわからない。
理解が追いつかない。
石鹸は何処へ消えた?この壁の穴は何だ?
わからない
わからないわからない
「私の水切りはすごかろう?」
自慢気に胸を張り、文字通りその豊満な胸を誇張するヘラリカ。
・・・このバカは何時かブン殴ってやろう。




