【STO:10】異世界カルチャーショックにご用心
吸血鬼の館。
そんな不気味な雰囲気を醸し出しているこの屋敷は、まさにその名を体現していると言っても過言ではない。
俺一人なら躊躇してしまいそうな屋敷たが、今回は魔王の娘とかいう心強い味方が居る。
あくまで精神的な話ではあるが、「魔王の娘」というかたがきがあると、仮に本当に吸血鬼が出ても大丈夫みたいな気持ちになる。
問題はその魔王の娘がポンコツであるという点だろうか。
「この墓とか、如何にも吸血鬼が居そうな感じしますよね。ゾンビが出て来そうだし」
「そうなのか?」
「そうですよ、だってほら、墓場と言えばゾンビじゃないですか?」
「ゾンビよりレブナントとして召喚した方が強いぞ?」
「そういう話じゃないんだけどね!?」
扉の前へと立つ、ゴールは目前ではあるが不気味とはいえ人の屋敷だ。ノックをして人の気配を探る。
ーー反応は無い。
扉を開けようとそっと手を伸ばす。
ーーベキり。
両扉の取っ手の片方がヘラリカの手に握られていた。
咄嗟に俺はヘラリカの方へと顔を向ける。ヘラリカと目が合った。
・・・なんで人ん家の扉を壊してドヤ顔してるんだろうこのポンコツ娘。
屋敷の中を覗くとホールになっており、奥に左右の二階へと向かう階段がある。天井にはシャンデリアが飾られ、炎とはまた違った明かりが煌々と輝いている。
「もうちょっと薄暗いイメージをしてたんだけどなぁ・・・」
吸血鬼の屋敷のような外観とは打って変わった内部の明るさに思わず頭を掻く。尤も、まだ吸血鬼が居ると決まった訳ではないんだけどね。
「よく死の森の最深部に存在するヴァンパイアであるサンフラワー・ライト・コロナティアの屋敷へと辿り着きましたわね」
前言撤回。吸血鬼の館でした。しかも
サンフラワー → 向日葵
ライト → 光
コロナ → 太陽の最外層
何この燦然と輝いた名前!?
眩しいわ!眩しすぎてキラキラしてるわ!何がって?ネームがだよ!
コロナティアと名乗る吸血鬼の少女は左右から中央へと合流する階段を一歩一歩降りていく。
碧い宝石のような瞳、眩しいオレンジ色も混ざったグラデーションの金色の髪。その髪を俺視点右側へとサイドテールの様に結び、なんかドリルみたくなっている。いわゆる縦ロールってヤツ。
結んだ反対側に小さな王冠みたいなものが、物理法則を無視してちょこんと乗っかっている。
服装はそう、スカートの長いゴスロリみたいな感じだ。レモン色のゴスロリ。ヘラリカの黒いチャイナドレスっぽい質素な服装とは正反対である。
まさに太陽を思わせるような外見の吸血鬼少女はホールへと降り切るとにっこりと柔らかな笑みを浮かべる。
そんな彼女に一歩ヘラリカが前に出る。
「お手洗いに行きたいのだが何処だろうか」
ーーそう、俺達は我慢の限界だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでは参りましょうか。オルディウスの死の森を抜けたその実力を!さぁ・・・っ!」
両手を広げ、嬉々として左右の手に光を集める吸血鬼の少女。
トイレを済ませた俺達には何が何やらわからない。
「・・・あのー・・・、なんかえらーい勘違いしてますが、俺達は・・・」
ヒュパッ
閃光のように飛ぶ左右の光玉はそれぞれ俺達へと向けて放たれた。
ーー直撃。避ける暇なんて無かった。俺は初めて魔法を受けた。そう、初めての死亡。
ーーそうなる筈だったのだ。
パシュッ
そんな針が刺さり破裂したような音を立てて光玉は弾け、目の前で霧散する。
「は?」
「へ?」
「む?」
ほぼ三人同時に疑問の声があがる。コロナティアが魔法を解除した訳でもヘラリカが何かした訳でもない。腕を組んだまま首を傾げている。
良くはわからんがどうやら魔法が失敗したらしい。
「じゃ、ヘラリカ様。後はお願いします」
「待て貴様。一応私は上司だぞ」
「やだなぁヘラリカ様。自分に戦う戦力あったら潜入調査なんてしてませんよぉ」
「ふむ、それもそうか」
言いくるめ成功!バレた時が恐いけど、それまでは虎の威を借る狐として生きていこう。
なにせワンパンで死ぬからな俺!
ツカツカと真っ直ぐコロナティアの方へと歩き出すヘラリカ。
そんなヘラリカに再び光の玉を作り出すコロナティア。
「『ライトアロー』!」
光の玉から光の矢が飛び出す。お前本当に吸血鬼?
そんな光の矢など歯牙にも掛けず全身するヘラリカ。俺なら一発で死んでる。
「こんなものか?貴様の魔法は」
首をかしげ、光の無い緋色の双眸をコロナティアに向ける。何故後ろに居るのにそれがわかるのかとか細かい事を気にしてはいけない。
「わたくしの『ライトアローサンフラワーショット』を浴びて無傷とは流石ですわね」
おい待て、そんな魔法の名前じゃ無かったろ絶対。
「ならばこれなら如何です?」
次は光の玉を8つ同時に作り出すコロナティア。正直異世界の吸血鬼が闇や氷属性の魔法じゃなく光属性を使うとか軽くショックなんだが。
「しかし吸血鬼が闇ではなく光の魔法を扱うとは実に滑稽な話だな」
あ、やっぱ闇属性の魔法が主体なんだ。この子がおかしいだけか。
どうにも初めて会う種族が全部同じなんて思い込んでしまうのも異世界ならではの先入観だよなぁ。
そんな事を考えている矢先ーー
「『ライトトラクト』ッ!」
不意に光の玉が飛び交い、ヘラリカの前で爆ぜる。それも8連続で。
「むっ」
ふらつくヘラリカ。ただダメージがあると言うよりは・・・
「眩しくて目眩がする、面倒な魔法だな・・・」
「こ、此れも効きませんの!?」
驚くコロナティア。どうも先程からこの太陽吸血鬼、あまり戦いの経験が無いんじゃないかと思う。
と、言うのも攻撃方法はただ魔法をぶつけるだけという単純な攻撃だからだ。
「次は此方から行くが構わないか?」
「まだですわ!わたくしの最大の魔法が残っておりますの!」
「よし、ならばそれを受けてから此方から行くとしよう」
とはいえ、ヘラリカの魔法による抵抗力も逸脱しているのだろう。魔王の娘は伊達じゃないと言うことか。
「これがわたくしの最大魔法・・・っ!『ノヴァストライクサンフラワースペシャル』ですわっ!」
明らかにサンフラワースペシャルは要らないだろと言うツッコミを心でしつつも押し黙る。
だって怒らせて俺にターゲット変更されたら恐いし。
光玉の周りに公転軌道を描いた小さな光玉が二つ交差して飛び交い、その中心は光をより強く凝縮したような輝きを放っていた。一言で表現するならーー
「その光玉は触れたモノを消滅させますわよ!」
ーーヤバイんじゃね?
しかし特にヘラリカが動じた様子も無い。腕を組んだまま、その光玉に触れた。
「ふむ、残念ながら私を消滅させるには至らなかったようだな」
が、無傷。魔法が弱いのかはたまたヘラリカが特別魔法に強いのかはわからない。しかし、あの光の熱で床が焼け焦げている事から俺は後者なのだと頭で理解する。
「そ・・・そんな・・・」
本当に最大級の魔法だったのだろう、愕然とした表情でヘラリカを呆然と眺めている。
「では、私の手番だな?」
そうコロナティアに訊ねるも返事が返って来る事は無く、それを肯定と受け取ったのかヘラリカは一瞬構えたかと思うとーー
ミシっ・・・
ーー骨が軋むような音を立てて左の拳がコロナの腹部に沈む。見事な正拳突き。身体の体重が全て拳一つに乗ったようなそんな重い一撃。
「か・・・は・・・っ」
不思議な事に拳を埋められた相手は吹き飛ばされる事も貫かれる事も無く、そのままよろめきながら床に沈む。
「ほう、一撃じゃ倒せなかったか」
感心したように顎に手を当てて頷く。
「ヘラリカ様、お見事です」
「まだ倒して居ないのだが・・・?」
「もう十分でしょう、あちらのお嬢さんは一番強い魔法を使ってもヘラリカ様に傷一つ付けられなかった訳ですし」
「ふむ・・・それもそうか」
そう言うと胸の大きさを誇張するかのように腕を組んだまま、頭部目掛けて踏みつけようとした脚を引っ込める。
「大丈夫ですかね、コロナティアさん」
そう言うと俺はコロナティアの身体を支えてやる。いや、吸血鬼だから倒した方が良いんだろうけど、なんかこう、罪悪感がね?
「ま・・・まさかこのわたくしが手も足も出ないなんて・・・」
わなわなと身を震わせ悔しそうに唇を噛むコロナティア。そりゃ吸血鬼と魔王の娘じゃなぁ・・・。
「仕方ないですわ。負けは負け、敗者は勝者の言いなりになるものですわ。さぁ、煮るなり焼くなりわたくしの身体を好きになさると良いですわ」
マジで!?
これは遂に童貞卒業!?異世界で童貞卒業しちゃう!?
うん、無理。ヘラリカ様がこっち見てる。
「おい貴様」
わかってます!ほんの出来心なんです!だからそんな怒らないで!?
「吸血鬼は煮るのと焼くの、どっちが美味いんだ?」
「・・・はい?」
あの戦いぶりを見て忘れてたけど、この子ポンコツだったんでした。まぁ、お腹空いたって事でしょうね。
「では我々を客人として招いていただけますか?どうやらヘラリカ様は大変空腹のご様子ですので」
「・・・わかりました。今すぐ作らせますわ」
は?作らせる?嫌な予感がするのですがそれは。
コロナティアがパンパンと手を叩くと、影が黒くなり中から腕が伸びて人が這い出てくる。
下級の吸血鬼と言った所だろう。メイド服を着た青白い顔の女性が頭を下げて屋敷の奥へと消える。
「それではヘラリカ様とお付きの方。暫し此方でお寛ぎくださいませ」
吸血鬼少女はそう言ってお辞儀をすると、そのまま屋敷の奥へと俺達を案内するのだった。




