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しりとりしたら、あいつの想いに気づいてしまった。~胸キュンしりとりは、罠?!~  作者: 歩磨(旧:あゆま3)


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4/21

④

すぐ自分たちの番になって、お賽銭の5円玉を放り込んだ。

気持ち的には500円のつもり。

軽い音がして、二礼二拍手をした。


ーー赤点回避できますように。コレ、絶対。

メンバー入る。全国行く。結果出す。

…… 

お願いします!



最後、言いかけたけど言葉が浮かばなくて頭を下げた。

ちょっとひっかかたけど、詰んでたし。

横目で隣を見ると、凛はまだ手を合わせていた。

本殿の奥にある鏡を見た。

なにも映し出していないように見えた。

もう一度目を凝らしたけど、やっぱり見えなかった。

肩を落として、凛を置いて列を外れた。

少し先の公園で弁当を食べることになっていたので、同じ体操服を追いかけた。

社務所の前を通り過ぎたところで、リュックを引っ張られた。


「うわっ!」


後ろにバランスを崩して、背中がぶつかった。

顎を上げると、凛のむっとした顔が逆に見えた。


「なんで待ってくれないんだ?」

「え?」

「目開けたら、いなかった」

「……」


近い。

凛がもうちょい屈んだら、ちゅーしてしまう。

引き結ばれた薄い唇ばかりに目がいった。


「悠希?」

「あ、うん……まだ時間かかりそうだったから。後ろも詰まってたし」


瞳がいろんなところに動いた。

でも、凛の眉と目の距離が縮んでいったのは見えた。


「悠希ー! 凛ー! お前らなにやってんだ! 遅いぞー!」


急いで身体を反転させて、凛を振り払った。

前を向くと、先頭のクラスで俺らより先に走っていった橋田だった。

高めの声を張り上げながら、片手を挙げて走ってきた。

さすがセッター。気が利きすぎる。


「おー! お前元気だな!? さっきまで走ってたんだろ?」

「最初だけな。途中から、副担が挫折して歩きになった」

「よかったな!」

「だろ! 階段ランとか死ぬかと思った」

「ははは!」


俺は橋田と肩を組んで、歩き出した。

橋田は俺より小さくて、肩の位置がいい。

腕の乗せがいがある。

俺らが数歩進んだところで、橋田が振り返った。


「凛ー! なにしてんだ! 早く来いよ!」

「ん? おー!」


橋田が俺に顔を寄せた。


「あいつ、なんかあった?」

「……さぁ? 願い事、長かったけど」

「あー、そういうことね」

「は?」


橋田がニヤリと笑うと、肩が離れていった。

俺の腕置き場が。


「早くいこうぜ! あいつら寝る」

「写真撮れないじゃん!」


橋田が砂利を鳴らしながら走り出したから、追いかけた。

ザクザクと小気味よい音が3つ並んだ。

1つだけ、リズムが遅れていって、俺は足を止めて振り返った。


「凛?」


まるで小さな子供の様に、不機嫌なオーラを全身から醸し出していた。

拳を握って、地面を睨みつけていた。

周囲を見ると、凛をジロジロ見ていて、放ってはおけなかった。

俺は砂利をすり足でわざと蹴りながら、ゆっくりと近づいた。

指が回り切らない、手首を握った。

他は細いのに、ここだけ太いな、と思った。

顔が上がることはなかった。


「……ごめん」

「なんで?」

「凛が元気ないから」

「ふーん」

「みんな寝るから、早く行こうぜ?」

「……」


腕を引いたけど、一歩も動こうとしない。

チクチクと周囲の視線が刺さる。

背中がじっとり湿ってきた。


「後で話すから」

「しっかりな?」


語気が強すぎる。

もう一度周りを見ると、神社から同じクラスのヤツがこちらに歩いて来ているのが見えた。

さっきより強く凛の手首を自分の方に引き寄せた。


「わかったから」

「約束な?」

「おう」


手首を俺が離したら、逆に凛に手首を遠慮なしに締め上げられた。

橋田たちの方に大股で歩き始めた。

指がめり込んだ自分の手首を見ながら、それについていった。

痛いけど、痛いとは言えなかった。


「おせーぞ! 待ちくたびれたー!」

「クラス離れてるから、当たり前だろ!」


濱の声が聞こえて、凛の影から叫んだ。

無駄に美しい顔が見えて、ちょっとほっとした。

三人ともレジャーシートの上で胡坐かいてスマホいじっていたけど。


「さっさと撮るぜー!」


西尾がレジャーシートから一歩も動かずにスマホを掲げた。

眠たそうな目でぼぉっとした顔してるけど、こういう時は早い。

ちなみに、コートに立つと人が変わるタイプだ。

ささっと集まって、画面を見た。

画面には、でかい男どもがギューギューになって、もちゃもちゃしていた。

前にアスリート3人組で固めて、俺と凛が後ろに並んだ。

むさ苦しい。

凛が俺の腰を掴んで、ぐっと引き寄せた。


「うぇ?!」


シャッター音が響いた。


「おい悠希! 顔!」


画面を見た。

さっきのは絶対俺だけが下を向いてた。


「すまん!」

「いくぞー!」


引き寄せる力が強まったけど、腰をくねらせて隙間を開けた。

不自然じゃないくらいの間隔が開いた。

ピースを掲げて、笑った。

凛、片手ハートするな。

シャッター音が連続で鳴った。



「後で送るわー」

「おー!」

「お前らここで弁当食う? 俺たち寝るけど」

「いや、あっちで食べるわ」


俺が近くで食べる気満々で返事しようとしたけど、その前に凛がきっぱり断った。

逃げようと思ったのに。

顔を見る前にまた手首を掴まれて、公園の奥へ奥へ進んで行く。

大きな楠の横を通り過ぎて、階段を下りた。

この時点で、もう誰もいなかった。

まだ凛は迷いなく進んでいて、藤のアーチを潜ってさらに階段を登ると、開けた。

葉桜に囲まれた、展望台に着いた。

町が一望できて、学校も小さく見えた。

ミニチュアの電車が横切って行った。

誰もいない、ベンチに掛けるとやっと手が退いた。

手先にやっと血が通い始めた。

じっと見つめられる。

まるで閉じ込められたかのような錯覚を起こした。


「凛?」

「食おうぜ!」

「お、おう」


凛はリュックを下ろして、さっさと特大の弁当とおにぎりを出していた。

俺も倣って、取り出した。

弁当箱を開けると、オムライスがドンと真ん中に鎮座していて、隙間に唐揚げとブロッコリー、トマトが詰め込まれていた。


「うまそー!」


凛の箸が伸びてきて、唐揚げを一個取られた。

口にほうり投げる瞬間が、無駄にスローに見えた。


「うわああ! 俺のからあげぇええええ!」

「ふぅめぇー!」


大好きな唐揚げが一個消えた。

あと3つあるけど、消えた。

泣きそうだ。今日の部活、頑張れないかもしれない。頑張るけど。

凛の弁当を覗くと、ぎっちぎちにご飯が詰められた日の丸弁当だった。

端の方におまけ程度にだし巻き卵といんげんの胡麻和え、サバが入っていた。

俺の先が割れたスプーンが止まった。


「お前の弁当じいちゃんだな」

「和食と言え!」

「なんか取る気失せた」

「しゃーねーなー! 口開けろ!」


凛が出汁巻き卵を俺の口元まで運んで、唇をツンツン押し付けた。

顔を背けた。


「いーよ!」

「口開けろ!」


逆に逃げても、出し巻きが追いかけてくる。

その時、盛大に腹が鳴った。

腹を抱えて、口の端が片方だけ上がった。


「腹減ってるんだろ?」

「……」

「ほら、あーん」


胸を鳴らしながら、口を開けた。

口の中にねじ込まれて、箸が抜かれた。

ただの出し巻きじゃなくて、クリーミーな感じがした。

柔らかくて、口の中で解けていって溶けた。


「うまっ!」

「よかった」

「お前のばぁちゃんうまいな!」

「いや、俺だから」

「……は?」

「動画見て作った」


ほっとしたみたいな、穏やかな顔だった。


「めっちゃ早起きした。これだけだけど、作ったのは」

「すげぇな! こんなん作れんの?! 天才じゃね?」


自分で作るなんて、その時点で天才だ。


「好き?」

「うん。好きだけど」


凛が頬を染めて、目が線になるくらい、顔をくしゃくしゃにして笑った。

ちょっと胸キュンした。しりとり終わったのに。

じわじわと顔に熱が集まってきた。

ぽっかりと開いた唐揚げの隙間を見ながら、手うちわでパタパタと仰いだ。


「ちょっと意識した?」

「バカか!」


オムライスにスプーンを突き刺した。

卵を突き破ると、真っ赤なチキンライスが出てきた。

大きな一口を頬張ると、大好きな鶏肉がゴロゴロ入っていたのに一切味がしなかった。

かぁちゃん、ごめん。凛の出し巻き卵の方がうまかった。 

それと、唐揚げ、もっと入れて欲しいな。

お茶で、若干芯が固いブロッコリーを流し込んだ。

ちょくちょく突き刺さる視線を無視して、唐揚げを突き刺した。


桜の葉が揺れて、影が俺の手を撫でているようだった。

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