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しりとりしたら、あいつの想いに気づいてしまった。~胸キュンしりとりは、罠?!~  作者: 歩磨(旧:あゆま3)


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2/21

②

それから一人でしばらく歩いて、やっと石段の前についた。

山の頂付近に木々の隙間から神社の赤い建物がちょこんと見えた。

あそこまで行かないといけないのか、と息が漏れた。

周りの会話から、ここからは1時間くらいで神社まで着くらしい。

みんな下を向いて、黙々と足を持ち上げていた。

先に行っていたはずの凛が待っていて、なぜかニヤニヤしながら俺の隣に寄ってきた。


「なー面白いことしようぜ!」

「急になに?!」

「いやー階段だから」

「関係ある?!」

「こんな時こそ、やっぱ楽しい方がいいかなって」

「だから、うざいって!」


俺は凛を置いて、先に登り始めた。

古い石段はところどころコケが生えていて、表面が凸凹していて手で削ったような跡があった。

段が高めで、本当に足を持ち上げないと上がれなかった。

そんな中、少し先を歩いていた隣のクラスの女子5人グループが異常な盛り上がりをしていた。

腕を大きく振ったり、大笑いしていた。

凛がそのグループを指さした。


「悠希、アレやろう?」

「あいつらなにしてんの?」

「胸キュンしりとり」

「は?」


凛の顔をまじまじと見た。

俺と目が合うと、笑みが深くなっていった。


「……まじ?」

「遠足は、楽しくだよ!」

「つか、どうやってやるんだよ!」

「んー、なんかね、推しのアイドルとかに言われたい言葉でしりとりしてるみたい」

「推しか……」


ふと頭によぎったのは、バレー漫画の主人公だった。

男だし、胸キュンとは違う。なんか、熱いみたいな。

ころころ頭の中で転がしてみたけど、ぱっとしなかった。

頭にかぶったタオルで顔を拭いて、隣を見た。

凛の瞳は一点の曇りもなかった。

言わないだけで、空気を読めということかと一人で納得した。

まだ1年の付き合いだけど、なんとなく読めた。


「じゃ、はじめるぞー!」

「お、おい!」

「筋肉すごいね」

「ちょっ! 推しに言われてもキュンとしない! ははは!」


俺は漫画の主人公でイメージしてしまって、最初から腹を抱えて笑った。

凛は口をとがらせて、ぶすっとした。

小さく「すまんすまん」といいながら、手を縦にして振った。


「次、悠希の番」

「えー? ん……ね、ねー、寝顔いいな!」

「寝顔見せるの?」

「な、なんだよ……!」


凛の視線が痛い。

汚いものを見るような目で、凍った。

沿道に立ち並ぶお店のおばあちゃんが、「今日は遠足?」って聞いてくれて、なんとか溶けた。


「いつも寝てるだろ!」

「あー、授業中? そうだね。いつも寝てる」

「だろ? 隣の席が推しとか最高じゃない?」

「男じゃねぇか!」

「現実はな!」


凛はくすっと笑って、前を向いた。


「な、かー……泣いてもいい?」

「こわっ! 全然胸キュンじゃない!」

「ある意味、胸キュンだろ」


にやりと笑って、親指を立てていた。

俺は足が上がり切ってなくて、階段の角に躓いた。

隣にちょうどいい高さの肩があったから、掴んで足を次の段に乗せた。

さっさと肩から手を離して、距離を取った。


「おまえ、なんかエロいぞ!」

「俺、そんなこと一言も言ってないけど。 なに考えてんの?」

「じゃ、なんだよ?」

「んー……好きすぎて泣く?みたいな?」

「重すぎんだろ……」


もう一歩分凛から距離を取った。

他人の距離になったと思う。


「次、い、だぞ」

「い? んっと……いつか、一緒になりたい」

「あーいいね。プロポーズ!」

「感心するな!」


凛に寄って、胸に手の甲で突っ込みを入れた。

ちょうど前にいた女子たちを抜いて、先に進んだ。

女子たちは息を切らして、もうしりとりはしてなかった。

首を後ろに捻って下を見ると、みんなおなじような顔でだれも喋ってなかった。

副担任なんか、どこで調達したのか杖まで持っていた。


「また、い、だね」

「おう。」

「いいよ、一緒になろう」

「は?」


凛が俺に言った。

まるで、トスが自分にアガった瞬間のような、そんな顔で。

胸が急に強く打った。

ゾーンに入ったときのように、全てがゆっくりになった。

あ、これ、正真正銘のガチだ。


どこからかソースの香りが漂ってきて、現実に引き戻された。

まぶたをなんども下して、凛の顔を細切れにした。


「……返事するなよ」

「なんで?」

「しりとりだろ」

「だって、プロポーズされたから」

「……恥ずいヤツ」


タオルで日差しを遮っているはずなのに、顔がじりじりと焼けるような熱を持った。

体操服の胸を掴んで、パタパタと2、3回引っ張った。

人生初のプロポーズを凛にしてしまうなんて胸がモヤついた。

しかも、成功してしまったし。なんだこのしりとり。


「あっちー……」

「悠希、胸キュンした?」

「うっせー! お前は何してもズルいな!」

「え? まじでキュンした?!」

「うぜーよっ!」

「ははは!」


リュックから、水筒を出して麦茶を飲んだ。

氷がまだ溶けてなくて、傾けるとカランと音がした。

冷たいお茶が胸を落ちていった。いくばくか、支えがとれた。

また水筒をリュックに戻してチャックを閉めていると、凛が首を傾げていた。


「人生初のプロポーズ?」

「そうだろ普通」

「いや、保育所とかで約束しなかった?」

「それもカウントする? ないけど……」


凛の目が半月になっていった。

俺はリュックを背負いなおした。


「初プロポーズ貰ってしまったな!」

「きっしょ!」

「悠希から言ったじゃん!」

「しりとりだろ!?」

「あはは!」


凛にリュックを思いっきりバンバン叩かれて、肩を組まれた。

壊れる。じっとりした目を見上げた。

同じタイミングで足を上げて、石段を一段一段上がっていく。

鳥居を一つ抜けると、急に場の空気が変わった気がした。

ひんやりしたような、張りつめたような。

すっと引き締まって、背筋が伸びた。

凛の腕が引いた。


「悠希」

「なに?」

「ここの神様、女の神様なんだって」

「へー」

「ラブラブカップルとか、嫉妬して縁切っちゃうらしいよ」

「そうなんだ」


凛が急に5段先まで駆け上がって、振り返った。

不思議と、他の奴らが近くにいなかった。

凛が足を止めて、俺も止めた。


「俺ら、まだカップルじゃないから大丈夫だね」


風がふいて、鮮やかな緑色の葉っぱが眩しい桜の木が揺れた。

サワサワという音だけが耳に入った。

頭に掛けていた、タオルが飛ばされた。

ふわりと凛の足元に落ちて、顔を見上げた口元がゆっくりと弧を描いた。


「帰るまでに、頷かせるから」


凛の後ろには、光が差していた。

俺は目に光が入って、ジワリと目の縁が濡れた。


「邪魔なんだけどー! 歩けー!」


女子が俺にキンキン声で叫んだ。

凛の背中は既に小さくなっていた。

タオルを拾って、汚れを払った。


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