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しりとりしたら、あいつの想いに気づいてしまった。~胸キュンしりとりは、罠?!~  作者: 歩磨(旧:あゆま3)


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13/22

⑬

ぐいぐい腕を引っ張られて、指先の感覚が怪しくなってきた。

なんでこんなに怒るのか分からない。

ただ、本城に勉強を教えてもらおうとしただけなのに。

凛が大股でずんずん進むから、同じ制服を着たヤツらをどんどん抜いていく。

俺らの剣幕に、道は勝手に開いていく。

モーゼじゃないし、そんな珍しいもんじゃない。見ないでくれ。

明日、噂とかになってなかったらいいな。絶対ケンカしてたって思われてる。


「凛、逃げないから離して」

「信用できな」


バッサリ切り捨てるように言い切られた。

さすがに、ちょっとイラっとした。

凛についていってたけど、足を踏ん張って、思いっきり腕を振った。

離してくれないって思ってたけど、案外あっさり腕が離れた。

ジンジンと指先に血が通い始めた。

もう片手で掴まれていたところを撫でた。


「そんな怒ることか?」

「……」


凛がゆっくり振り返って顔が見えた。

怖い顔してると思っていた。

絶対睨まれるって。

でも目に飛び込んできたのは、膜が張った瞳だった。

ぼんやりとした明りに照らされて、キラリと光っていた。

息が止まった。


「なんで俺を頼らない?」

「それは、悪いなって……」

「俺が一度でも、迷惑だって言ったことあるか?」


入学して、知り合ったばかりの頃から面倒を見てくれてた。

厳しかったけど、一度も迷惑とは言われたことはなかった。

唇が重すぎて、返事ができない。

遂に膜が決壊して、涙が凛の頬に落ちた。


「俺は、お前と一緒にいたい。ちょっとでも側にいたい」


凛が黙って、制服の袖口で目元を乱暴に拭った。


「俺が迷惑か?」


鼻をすする音を聞くと、鳥肌が立って背中がじっとりした。

ふと背後から無数の足音が近づいてきてることに気が付いた。

今度は、俺が袖口のボタンを握りこむように凛の制服を掴んだ。

くいッと引っ張ると、黙ってついてきた。

凛が泣いてるのを他のヤツらに見られたくなかった。どうしても。

気になって、後ろに首を回すと、凛は顔を伏せていた。

駅の光が目に入ると、歩幅を大きくして、何人も抜いた。

駅のホームについても、電車の中でも絶対に離さなかった。

車窓に映る自分の目と合って、握る手が震えていたのは、気のせいだと思う。


最寄り駅に着いて、近くの公園に入った。

明かりがあんまりなくて、暗かった。

滑り台の前で、凛のもう片方の袖口を握った。

ぐっちょり濡れていて、指がしっとりした。

凛の顔は伏せられたままだった。

何台もの車が、公園を照らして通り過ぎていった。

勢いでここに来てしまった。

なにも思い浮かばない。

凛もしゃべらないし……


「凛。」


凛の顔が見えた。

右目から一粒涙が零れて、吸い寄せられるようにそれを頬で吸った。

しょっぱかった。

凛も逃げないし、俺は唇を頬に押し付けた。

凛の頬は冷たかった。

唇で温めて、離した。


「……なんで?」


目には、もう膜が張ってなかった。

唇が開いたままで、白い歯が覗いていた。


「直感。」

「……なにそれ。」


俺もなにそれって思った。

凛に泣いて欲しくなくて、身体が勝手に動いた。

両手の力が抜けて、掌の中から凛の制服が離れていった。

濡れて光っている目元が気になって、人差し指で拭った。

凛の目が細められた。


「嫌だったか?」

「……さぁ?」


凛は逃げなかった。

そのまま続けた。


「お前、変わったな。」


俺の人差し指が、凛の右の目尻で止まった。

潤んだ瞳に俺が映っていた。

驚いたような顔。


「……そうか?」

「自覚なしか。悪魔みたいだぞ」

「……」

「離れていく気? 頷かせてみろって言ってたのに。」


腕が鉛をつけられたように重くなって、落ちた。


「離れる気はない。」

「そこは即答なんだ。じゃ、なんで?」

「……ごめん。」


凛が前髪を乱暴にかいた。

長い前髪が目を隠した。


「正直、凛のこと、好きかわかんない」

「ここまでしといて?」

「それは、身体が勝手に……俺も訳わかんなくて、困ってる。」

「もう好きだろソレ。」


ぐっと胸が詰まった。

長い沈黙が俺と凛の間に落ちた。

自分でもびっくりするくらい慎重になってた。

軽い気持ちで決めてもいいはずなのに、どんどん頑なになっていく。

じっと見ていたら気になって、凛の前髪を摘まんで左右に分けた。

さっきよりはマシくらいにしかならなかった。


「なぁ、もう一回泣いたら、ちゅーしていい?」


目をぱちくりさせた。

なんて言った? 幻聴か?

さっきまでの重い空気が吹っ飛んでいった。

冗談かと思ったけど凛のまっすぐな視線が刺さって、顎が引いた。

ガチのヤツだ。


「いや、それは……」

「さっき、直感でしたんだろ?」

「……」

「ワンチャンわかるかもよ?」


凛の顔から腕を下ろした。

公園のフェンスの向こうで、スーツを着たおじさんが通り過ぎているのが見えた。

通り過ぎるのを目線で追った。


「外はちょっと……」

「……それって」

「え?」

「それって、いいってこと?」

「……ん?」


凛がきつねにつままれたみたいな顔をしてて、理解が追い付かなかった。

ふと、思い返した。

俺、嫌だとは言わなかったような……?

と、いうことは……?

首の後ろから熱が上がってきて、頭の先まで熱くなった。

絶対に顔が真っ赤になってる。

首を筋が張るまで右に振った。


「ちょっと待って! 一瞬で涙出すから!」

「やめろ! 泣かんでいい!」

「悠希から手出して来たんじゃん!」

「出してねーよ!」

「あ! 見て見て! 涙出た!」

「怖っ!」


確かに涙が目尻から落ちていた。

こんな簡単に泣けるなんて、俳優になれるんじゃね?

まさか、さっきも……? いやいや、ガチ泣きだったって。たぶん。

凛が両腕を伸ばしてきたから、寸のところで飛び退いた。

凛の腕が空を切って、自身を抱いた。

湿度高めの目で睨まれた。

いや、普通に怖いって。

俺の頬が引きつるのが分かった。


「家着いたら、いい?」

「しないしない!」


顔の前で手を振った。

凛の目が本気すぎた。

そんな目で見ないで欲しい。

心臓が苦しくなるから。落ち着いてくれ、心臓。


「なんでも、挑戦したほうがいーぜ」

「それ、必要?」

「絶対必要」


言い切られた。

これ以上話してたら、言いくるめられそうだった。

俺の奥歯がぎりって鳴った。


「赤点!」

「は? 赤点?」

「赤点取りそう……」

「どんな想像してんの?」

「ぐっ……」

「まぁ、いっか。早くいこーぜっ」


強引に手を握られた。

しかも、指を絡めて。

逃げようと指を動かしたけど、小さく凛が「赤点。」なんて低い声で言うから大人しく握られた。

なんだ、この手。無駄にあったかいし。

っていうか、まだ返事してない! 俺!

凛が鼻歌を歌いながら、つないだ手をブンブン振って歩き始めた。

楽しそうな凛に俺は無抵抗でついていった。


「その鼻歌やめろよ」

「なんで? 悠希が好きな曲じゃん」


遠足の時に聞いてた、アニメのOPだった。


「そうだけど、嫌」

「いろいろ頑張ろうな?」

「……」

「返事は?」

「ハイ」


圧が強すぎる。

いろいろってなに?

勉強だけで終わらないような気がするのは、俺だけでしょうか?

頭痛がする。なんでこうなった。

歩幅を合わせて、公園を出た。

早歩きなのは、凛のせい。

上着のポケットが震えた気がしたけど、あえてスマホは見なかった。


公園からしばらく歩いて、分かれ道まで出た。

当たり前のように凛の家の方に引っ張られた。無言で。

珍しく、凛の手が湿っていた。

つられるように俺も湿っていって、拭いたい衝動にかられた。

俺がお願いしても、絡む指を解いてくれなさそうだなって思った。

だから凛から言うかなって期待したけど、なにも言わなかった。


空を見上げると、月が流れの早い雲に隠れていた。

指先で、自分の唇をなぞった。

かさついていたから、唇を舐めた。


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