第2話 名乗る(1)
「お兄さん、これからどうするの?」
ミカが心配そうに聞いた。
昼食は、レオンとミカは家からパンや、ヤギの乳を持ってきた。
二人と一人はひとしきり食べた。
お腹が満たされたら、今後についての話しが、あがって来たのだ。
「お金は?」
レオンが一応聞いた。
グレイは、慌ててポケットをひっくり返す。
綺麗に何も入っていなかった。
ハンカチ一枚もなかった。
一番ガッカリした顔をしたのはグレイだった。
「何もない……。」
「困ったねえ」
「ところで、お兄さんはこれから、どうする予定なの?ええと、旅の途中?」
「あ……いや。でも、まあ、もう少しこの辺りにいようとは思っているんだけど……。」
口ごもるお兄さんは、小屋の中を見回した。
「ここ、いたら怒られるかなあ」
水車小屋で過ごそうと思っている様だった。
レオンとミカは思わずお互いを見た。
今までこんなところで住んでいる人なんて、見た事なかった。
でも……。
「少しなら、いいんじゃないか?」
俺は小さな提案をした。
「だって、これ、確かに村のものだけど、ほとんど手入れもされていないボロ小屋じゃん。
盗まれるものもない。
掃除して、軽く草取りでもしてくれれば、むしろ村のみんなも感謝するんじゃないか?」
俺の言葉に反応したのはミカだった。
「そうだね!それはいいかも!
大人にも聞いてみようか?
ダメとは言わない気がする!」
物凄く良いアイデアだったみたいだ。
「良かったーーー。」
お兄さんは大きな息を吐いた。
「お兄さん。これで住むところと、水の確保はできたね」
「水?」
「だって、生活するには水は大事でしょ?」
「あ、ああ。そうか?」
「川だから。
ここの川は綺麗だから。飲める。
俺たちも喉が渇けば飲むよ。
夏だから体も洗える。
洗濯もしちゃえ。」
「そうかあ!君たち頭良いねえ!
本当だ。考えれば考えるほど、生活しやすそうだ。
それにここには藁だけど、布団もある!」
「お兄さん。あとは、お金の問題だね。」
「それが、難題かも。」
三人で腕組みしてしばし考えた。
一番に手を打ったのはミカだった。
「お兄さん、働いたら?」
「働く?」
「お金稼ぐんだから、働くのが早いと思うんだ。」
「お兄さん、今まで、何してた人?」
「仕事、したことある?」
「……仕事?ええと。」
俺とミカの質問に、お兄さんは固まってしまっていた。
「はい。ないんだね。」
「ないのかあ」
俺とミカはどんどん話を進めていった。
お兄さんの顔を見れば、ないのは明白だ。
一体どんな暮らしをしてたのか気になるところだが、目下の問題は仕事をしてお金を得て、食べ物を買うことだ。
「バイトだね」
「バイトだな」
俺とミカは頷きあった。
お兄さんにはバイトで働いてもらうのが一番だと決まった。
最初お兄さんは不安そうな瞳だったが、覚悟を決めた様に握り拳を作った。
「バイト……?
よし、わかった。私はバイトで働くぞ!」
「「その息だ!」」
「で、バイトってなんだ?」
お兄さんはバイトを知らなかった。
「バイトを知らないって王子様かよ」
「家の手伝いをしてたんでしょ?」
「なんだよ。いいじゃないか」
俺とミカはクスクスと笑ったから、お兄さんは、拗ねてしまった。
そんな顔を見てまた、三人で笑ってしまった。
なんだか、最初怖いんじゃないか思ったのが、嘘みたいだった。




