第9話 勘違い(4)
「旦那様……」
玄関に立っていたのは、白いエプロンをつけたお婆さんだった。
おじいさんよりもお年寄りにみえた。
「誰?」
俺の質問に、おじいさんは「婆やだ。元、お手伝いさんじゃ」と返事した。
「あの……。」
言いにくそうに婆やは手を揉んでいる。
「どうしたんだい?」
おじいさんは、尋ねた。
「あの……奥様がお亡くなりになって、私、すごくショックで、あの、
家から出れなくなってしまって。」
辛そうに、エプロンの裾を握りしめている。
「もうじき一年になって、ようやく、旦那様のことが気がかりになって。
私、なんの挨拶もせずに、休んでしまいました。
奥様は亡くなる時に旦那様のことを気にかけていたと言うのに!」
婆やは小さくなって謝っている。
「ワシは……。婆やは、妻とあまりにも仲が良かったので、妻のいないこの家には、もう来る理由もないと思っていたんじゃ」
おじいさんは一息ついて、小さな声で続けた。
「妻のいないこんな家、喜んで来たい場所じゃないじゃろ? ワシは偏屈じゃし」
それから、婆やの顔を見た。
「でも、また来てくれるのかね?」
おじいさんの顔が、嬉しそうにほころんだ。
婆やの顔も、パッと明るくなる。
「来させてくださいますか? 奥様の思い出の詰まったこの家に、通ってもよろしいのでございましょうか?」
「ハア、ハア、ハア、ハア、……。ただいまああ。
もう、この犬ったら、喜んで走るものだから、本当に大変でした。」
「あら、旦那様、犬の散歩は婆やの仕事には入りませんですよ?」
「お兄さん、そうだってさ!」
「ハア、ハア、何のこと?」
みんなで大笑いだった。




