第5話 届ける(3)
ハアハア。
「あの丘の家が最後の配達先だ。」
カタカタカタカタと空の牛乳瓶が揺れる。
家の前に、おばあさんが日向ぼっこしてた。
「牛乳でーす。」
「配達に来ました!」
おばあさんの皺が動いた。
目が開く。
寝ていたのかもしれない。
「おお?今日はいつものおじさんとは違って、子どもだのう」
「おじさん、腰が痛くて休んでます。」
「僕たちバイトです」
「そんなことより、おじさんは、おばあさんにも『おじさん』って呼ばれてるの?」
コソッと俺がミカに笑った。
「ん?あやつの名前はもう『おじさん』としか呼ばれておらんの……。本当の名前は『オーディー・サーン』じゃ。」
「そんなかっこいい名前なの?オーディー・サーンおじさん?」
「ぷふふ。笑っちゃあいけないけど。」
「おや。人の名前で笑うとは、お主たちはまだ世間を知らんな」
おばあさんはにっこりしながら、安楽椅子から立ち上がろうとした。
「あぶない!」
おばあさんはよろめいた。
でも、俺が手を伸ばすより早く、お兄さんの手がおばあさんを支えた。
「ありがとうよ。助かった。転んでは怪我をするところだったよ」
おばあさんはお兄さんを見た。
途端にきらりと目が大きくなった。
「お前さん。名前は?」
「え?ええと。」お兄さんは口ごもる。
「グレイです。」
「苗字は?」
「……エリオット……です。」
「エリオット・グレイ……。」おばあさんはフンと鼻を鳴らした。
「聞いたことがある名前じゃな。はて、どこで聞いたのか……。」
「おまえさんの瞳がグレイじゃな。」
などと独り言を始めた。
「おばあさん、考え事もいいんだけど」
「牛乳はどこに置けばいい?」
俺たちの声で我に返ったおばあさんは、ドアを開けた。
「そこのテーブルに頼むよ。
ああ。クッキーがある。それをあげよう。お腹がすいただろう。こんな丘の上まで運んでくれてありがとうよ」
俺たちはお礼を言って、別れた。
「これ美味いなあ」
「僕ちょうどお腹すいてたんだ。」
俺とミカはそんな話をしていた。
でもお兄さんは静かに黙って荷台を引いていた。
いつもならニコニコと話を聞いて相づちを打ってくるのに。
「お兄さん、大丈夫?」
「疲れたの?僕たちよりも力仕事だったもんね。もうすぐ着くから頑張って」
「あ、ああ、大丈夫だ」
俺とミカは、ちょっと心配になった。
でも、牛小屋はもう目の前になっていた。
「おにいいさーーん!レオン!ミカ!」
ギルの声が聞こえた。




