第5話 届ける(1)
「なあ、ミカ。俺たち、昨日もここに来たよな?」
「もう、あんなに歩いてきたのに、レオンたら、まだ寝てるの?
顔洗って来た?歯は磨いた?」
「ミカあ。顔洗い忘れたあ」
「こら。僕はお母さんじゃないんだよ。しっかりして」
レオンとミカの後ろにはお兄さんがいた。
「おはようございます。ミイナさん、レティ。」
「おはようございます。みなさん」
「よう。今日も来たのか」
今日もミイナさんは可愛い。
横でミカが変な顔をしたけど、俺の顔は緩んで戻らなかった。
昨日は働いたけど、お兄さんはバイト代の半分をギルにあげてしまった。結局、パン一つしか買えなかったのだ。
「今日は当面の食料代を稼がないとだからな」
俺はお兄さんに念押しした。
「ギルならもう、あそこにいるぜ。仕事を探してる。」
レティがニヤニヤして指をさす。
そこには昨日、俺たちからスリをしようとしたり、バイト代を強奪しようとしたギルがいた。
お兄さんにお金をもらってから、なぜか、お兄さんのファン一号になったんだ。
ギルはお兄さんの顔を見ると素早い動きで敬礼をした。
「おはようございまする!」
戸惑う俺たち。
「あ、ああ。おはよう」
「弟さんには薬買えたの?」
「お兄さんのお陰です。お礼は言い足りません。有難うございまする。今日も朝からお兄さんに会えて、俺っちは幸せ者でござる」
「なんだその言葉は?」
俺は呆れた。
「きっと、丁寧語と敬語が上手く言えなくて時代劇みたいになってるんじゃないかな?」
そっとミカが答えた。
ギルはニコニコだ。
「今日はどんなバイトにするんでござるか?」
「ええと。何にしようか。」
「これはどうかな?」
衝立に求人票が貼られている。
俺とミカが選んだのは、牛乳配達のバイトだった。
「どれどれ?」
ギルが覗き込んだ。
「おい、昨日みたいに取るなよ?コレは俺たちがやるんだ」
「いやいや失礼。このバイト先と同じでござるなと思って。」
ギルが持っている求人票は、牛の世話だった。
「おんなじ人が牛乳配達と牛の世話の求人を出してるんだね」
「一緒に行くのは嬉しいでござる」
「決まりだね」
「仕方ないな。まあ、仕事は別々だしな」
こうして俺たちは郊外の牛小屋まで行くことになった。




