第4話 採る(4)
バイトギルドには、まだミイナさんがいた。隣の冒険者ギルドには、レティもいる。
「お帰りなさい」
ミイナさんの可愛い声。
思わず嬉しくなる。
「おい。レオン!」
「分かってるよミカ。そんなトゲトゲするなよ」
俺は農家のおじさんからもらったサインの入った紙をミイナさんに渡した。
「すごいわね。みんな頑張ったのね」
褒められて単純に嬉しい。
「で?なんでギルがここに来てるんだ?」
レティがジロリと視線を寄越す。
「ええと……。」
お兄さんを見る。
お兄さんはそっとギルの背中を押した。自分で言うように促したのだ。
ギルは下を向いている。
バイトを決める時にスリをしようとした。
俺たちがバイト代を稼いだら、今度はそれを強奪しようとした。
そんなこと、自分で言えるのかよ。
俺は、正直に言わない確率が高いと思っていた。
ミカだってそうだろう。
ミカはギルをじっと見ていた。
お兄さんはギルにどうして欲しいんだろう。
レティがギルの顔を見る。
「大分やられたね。痛かっただろうに。」
ふんと、鼻を鳴らす。かわいそうとなんて思っていない声だ。
「正直に言えないのか!俺が言ってやるぞ!」
「レオン」
俺を止めたのはミカじゃなかった。
お兄さんだった。
「だってさ。ひどいじゃないか」
「私たちには分からない事情もあるだろう。だから、まずは話を聞こう」
レティとミイナさんは頷いた。
ギルの弟が病気なのは本当だった。
「ギルの両親は、夏は出稼ぎに行ってるんだ。」
事情はレティもミイナさんも知っていた。
「生活のお金はあるんだけど、薬代はなくて。なんとかお金を用意しないといけなくて。」
ギルはまだ俯きながら話す。
レティはため息をついた。
「だからって、やっていいことと悪いことがあるだろう?」
「この子達が怪我をしなくて良かったわ。」
「お兄さん、すごいんだ!」
「バイトも、おまんじゅうも知らないのに、剣さばきが上手くて!」
「そんな……。必死だったんだ。」
お兄さんは目にかかる髪をふるふると揺らした。
「とにかく。」
こほんと咳払いしてお兄さんは続ける。
「ギルには、今回は私からコレだけ渡すよ」
ギルの掌に、さっきミイナさんから受け取った銅貨の半分を落とした。
「ええええ?」
俺とミカはびっくりした。
「レオンとミカには、相談も無くすまない。
最初、私にあげると言ってくれてたのだが、それでも、コレだけは渡したい。」
今度は俺とミカの掌に銅貨をいくつか落とした。
「お兄さん。残りは……。」
「残りは私の分。コレだけあれば、何か食べ物が買えるだろ?」
お兄さんの掌には銅貨が一枚だけだった。
「お兄さん。かっこいいとこ悪いけど」
俺は申し訳なさそうに切り出した。
「あらあら。これじゃあ、パンが一つ分ね」
ミイナさんが笑った。
「え?あんまり買えないの?」
「こいつは傑作だ!」
レティは大声で笑い出した。
つられてみんなで笑った。
お兄さんはパンがいくらするのか、わかっていなかったんだ。
「でも、その心意気は良いね。バイトギルドに入れておくにはもったいないね。
いつか、冒険者ギルドにおいでよ。こっちは男気あふれる奴らもいるぜ」
ニヤリとレティが笑う。
「お兄さん!このお金、もらえません!」
ギルが両手に銅貨を乗せたまま叫んだ。
「でも、子どもが今日みたいな悪いことを……」
「俺っち、もうしない!お兄さんに惚れた!着いて行きやす!」
「えええ?俺たちと一緒にいるの?」
「レオン!そんなこと言わないの!」
「俺っちだって、役に立つぜ?いつか冒険者になった時には、スリや鍵開けとか……」
「うわ。鍵も開けられるの?ヤバい。泥棒じゃん」
「レオン!そんなこと言わないの!」
「ギル。わかった。いつか君の手が必要になった時には一番に声を掛けさせてもらうよ」
優しいお兄さんの声。
「お兄さん……。俺っち、ファンになっちまいました。」
目を潤ませている。
ファン一号の枠が採用された。
「俺たちはお兄さんの保護者だからな!いいな!」
「だからさあ。何でその謎目線な訳?」
レティは呆れていた。




