異変レベリング
ダンジョン探索を始めてさらに2日が経過した。
毎日「1日1レベルアップ」を日課に掲げ、黙々とレベリングに励んだ結果、佐藤のレベルは**【10】、ポッケのレベルは【9】**へと到達していた。
佐藤は獲得したジョブポイント(2 Pt)をすべて【身体能力】に注ぎ込み(倍率は×1.4から×1.6へ向上)、ポッケのジョブポイント(4 Pt)もすべて【思考力】に注ぎ込んだ(倍率は×0.6から×1.0へ向上)。
【佐藤健一のステータス】
佐藤健一/レベル10/魔物使い
HP: 7(基礎7+ジョブ補正0.7倍)
MP: 12(基礎10+ジョブ補正1.2倍)
身体能力: 20(基礎13+ジョブ補正1.6倍)
免疫: 6(基礎5+ジョブ補正1.2倍)
思考力: 14(基礎12+ジョブ補正1.2倍)
スキルポイント: 10
所持スキル: 従魔契約
【ポッケ(スライム)のステータス】
ポッケ/レベル9/スライム
HP: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
MP: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
身体能力: 1(基礎2+種族補正0.1倍)
免疫: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
思考力: 2(基礎2+種族補正1.0倍)
スキルポイント: 6
所持スキル: 触手、吸収
※ジョブポイントの集中投入により倍率が「×1.0」へアップ! 端数切り下げの壁を突破し、最終思考力がついに**「2」**へ成長! 赤ん坊から「幼児」へと着実に知能が上がり始めている。
だが、この夜の【侵略型・ゴブリンダンジョン】第一層は、いつもと様子が違っていた。
これまでは数体が散発的に這い出てくるだけだったが、洞窟の奥から整然とした足音が響いてきたのだ。
現れたのは、通常のゴブリン2体、そして1段階進化個体である**【ゴブリンウォーリア】、【ゴブリンアーチャー】、【ゴブリンメイジ】**の計5体で構成された部隊だった。
「チッ……前衛と遠距離魔法・曲射の組み合わせか。上位種が統率をとっているのか……?」
後ろで杖を構えるメイジか、弓を引くアーチャーが司令塔だと佐藤は推測した。
しかし、前線のゴブリンたちには高度な連携指示を完璧にこなす知能がなかった。
前衛のウォーリアとゴブリンたちが功を焦って一斉に突撃を仕掛けてきたため、佐藤は圧倒的な身体能力でそれを容易く回避。次の攻撃体制を整える前の大きな隙を逃さず、バットのフルスイングで各個撃破していった。
「甘いんだよッ!」
ガゴォォオンッ!!!
ウォーリアの頭部を粉砕し、そのまま詰めてきた後衛のメイジとアーチャーを叩き潰す。
戦闘が終わった瞬間、佐藤は思わずニヤリと笑った。
(美味い……! 美味すぎる……!)
ゴブリン2体(EXP 3×2 = 6)
ゴブリンウォーリア(EXP 8)
ゴブリンアーチャー(EXP 5)
ゴブリンメイジ(EXP 6)
合計経験値: 25 EXP
「1回の戦闘で経験値が25も入るのか! これを4回繰り返せば、たった1時間で1レベル上がる計算だ!」
(※スライムのポッケには、討伐分25 EXPに加え、魔石5個分の吸収経験値[3+3+8+5+6 = 25 EXP]が入るため、1回の戦闘でなんと合計50 EXPも入る爆速成長に!)
明日は幸いにも仕事が休みの土曜日。
「この確変ボーナスタイムを逃す手はない!」と、佐藤は目を爛々と輝かせて狩りを続けた。
レベルが上がるたび、佐藤は【身体能力】の倍率を、ポッケは【思考力】の倍率をガンガン上げ続けていった。
激闘が始まって3時間が経過した頃。
ゾーンに入っていた佐藤の前に、突如として暗闇から無数の赤い目が浮かび上がった。
現れたのは、先ほどと同じ編成のゴブリンパーティーが**【3組同時に15体】**。
『ガアアアッ!』
「なっ……包囲された!?」
3組のパーティーが佐藤を取り囲むように展開していた。
1部隊目が突撃し、避けた瞬間に2部隊目の矢と火球が襲いかかり、体制を崩したところへ3部隊目が追い打ちをかける。途切れ目のない**「3連の波状攻撃」**だ。
「くっ……おおおっ!」
致命傷だけは紙一重で回避するものの、擦り傷や打撃の被弾を免れない。
休む間のない連続攻撃に、佐藤の集中力が削られていく。
(攻撃に移れない……! どこかで一テンポ作らないと……!)
焦りが生まれたほんの一瞬の隙。
左側から、ゴブリンアーチャーが解き放った鋭い矢が、佐藤の無防備な首筋に向かって一直線に迫った。
(しまっ——!)
回避が間に合わない。そう確信した刹那。
佐藤の胸元にブローチのように張り付いていた青い物体——ポッケが、突如として自らの意志で動き出した!
ポッケは溜まっていたスキルポイントから即座に**【硬質化】(3 Pt)**を取得!
自身のゼラチン質を極限まで硬化させ、佐藤の首筋を覆うように滑り込んだのだ!
ガギンッ!!!
鈍い金属音が響く。
ポッケのゼラチン質が肉体盾となり、矢の威力を殺したのだ。
《ぷる……っ!》
衝撃でゼラチン質の一部が弾け飛び、ポッケ自身もダメージを負う。だが、その瞳(のような核)はしっかりと佐藤を見つめていた。赤ちゃんレベルだと思っていた相棒が、命がけで主人を守った瞬間だった。
「……ポッケ……ッ!」
ハッと目が覚めた。
足引っ張りだと思っていた相棒が、自分の命を救ってくれたのだ。
「ポイントが惜しいとか言ってられるかよ……ッ! 俺も本気で行くぞ!!」
佐藤は温存していた自身のスキルポイントから**【身体強化】(3Pt)**を即座に取得・発動!
ズドッ……!!!
全身の筋肉が膨張し、圧倒的なパワーとスピードが身体を駆け巡る。
身体能力20超えのベースに【身体強化】が上乗せされた佐藤は、もはや人命救助用の重機並みの暴威となった。
「ウオオオオオオアアアアッッ!!!」
相手の攻撃を正面からバットで叩き落とし、強引に肉薄!
ゴブリンたちの波状攻撃を強引な「ゴリ押し」で粉砕し、暴風のごときフルスイングで15体のゴブリン部隊を壊滅せしめたのだった。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
静寂が戻った洞窟内。
足元には山のような魔石と光の粒子。佐藤は肩で息を荒げながら、胸元のポッケを優しく撫でた。
「助かったぞ、ポッケ。よくやったな」
《ぷる〜……》
傷ついたポッケだったが、佐藤に褒められると嬉しそうに小さく震えた。
そこで、ゴブリンの湧きがピタリと止まった。
どうやら第一層に展開されていた先鋒部隊を完全に全滅させたらしい。
「ボーナスタイムは終わりか……」
佐藤が息を吐き出し、手に持っていたしっくり馴染む感触に目を落とした。
「……あ」
両手で握りしめていた相棒
——**【ジュラルミンバット】**の表面はボロボロに凹み、柄の根本から金属疲労でぐにゃりと大きく曲がっていた。
今にも折れそうで、ここまで持ちこたえて砕けなかったこと自体が奇跡と言えた。
「よく耐えてくれたな……お前がいなきゃ、俺は最初の一歩すら踏み出せなかった」
今まで社畜の鬱憤を共に晴らし、数々の死線を潜り抜けてきた相棒。
いよいよ寿命(交換時期)が来たのだと悟り、佐藤の胸にしんみりとした切なさがこみ上げた。
だが、同時に冷静な思考が頭をもたげる。
「……っていうか、普通ダンジョンに入る奴って、剣とか槍とかちゃんとした武器を買うよな?」
バットでゴブリンをぶん殴る快感に酔いしれ、ここまでバット一本で押し通してきた自分。
「俺、ただの馬鹿じゃねぇか……完全な脳筋だ……」
自分の極端すぎる武器選択にセルフツッコミを入れつつ、佐藤は折れかけたバットを大切に抱え、傷ついた相棒ポッケと共に、長かった激闘の夜を終えて帰路につくのだった。




