勇者田中の無双ハーレム伝説
は市役所の『地球産ダンジョン』第一層。
そこには、佐藤とは打って変わって華やかで賑やかな一団の姿があった。
「よしっ! 俺が先陣を切るから、みんな安心して後ろから付いてきて!」
声の主は、佐藤と同じ職場の後輩であり、勝手に仕事現場を自分ルールで改変して周囲を困らせている「DIY社員」こと田中だ。
田中は現在、ダンジョンショップで購入した「勇者っぽい装飾の付いた両刃の長剣」を腰に差し、ドヤ顔で胸を張っていた。
田中がダンジョン登録時に発現させたジョブ
——それは、確率数万分の一と言われる超レアジョブ**【勇者】**だった。
「流石は田中さん! レアジョブの勇者様は頼りになりますね〜!」
「マジでカッコいい! マッチングアプリで田中さんとパーティー組めて超ラッキーだったわ!」
田中の後ろから黄色い歓声をあげるのは、探索者専用マッチングアプリ『ダンカツ!』で知り合った初対面のメンバーたちだ。
【田中パーティーのメンバー構成(全員レベル1)】
1. 田中 / Level: 1 / ジョブ: 勇者 (万能アタッカー)
2. 伊藤 / Level: 1 / ジョブ: 戦士 (前衛・可もなく不可もない物理職)
3. リサ / Level: 1 / ジョブ: ヒーラー (後衛・基本回復職)
4. マミ / Level: 1 / ジョブ: 魔法使い(後衛・攻撃魔法職)
「ヘヘッ、まあ俺に任せておけって! 現場の仕事も俺流のやり方でサクッと変えて成果出してきたし、勇者の力があればダンジョンなんて楽勝だからよ!」
職場での迷惑な単独行動を「俺流の改革」と盛大に勘違いしている田中は、女子メンバーの前で鼻高々に調子に乗っていた。
しかし——彼らはダンジョン初日のこの段階で、まだ気づいていなかった。
毎夜一人で侵略型ダンジョンに飛び込み、バット一本でゴブリンを粉砕しまくる佐藤の「異常性」と、自分たちの「経験値効率の劣悪さ」に。
経験値のシステムこうなっている。
レベルアップ条件: 100 EXP(固定)で1レベル上昇。
そして地球産ダンジョンの階層別モンスター経験値は、下の層に降りる事に1上がるようになっている。
1層 スライム 経験値1
2層 レッサーウルフ 経験値2
3層 ゴブリン 経験値3
4層 スケルトン 経験値4
というふうに、下に行けば行くほど経験値は高くなる。
そして、パーティを組むと、経験値は貢献度に関わらず均等に分配される。
つまり、田中のパーティだと、スライムを1匹倒すと、1の経験値を4人で均等に分配するので、1人0.25の経験値しか得られないのだ。
1層のスライム(1 EXP)を倒したところで、4人パーティーでは**1体につき「0.25 EXP」**しか入らない。レベル1からレベル2に上がるまでに、実に400体ものスライムを倒す計算になるのだ。
ちなみに佐藤は知らないが、魔物使いのメリットとして、従魔は主人が獲得した経験値と同等の経験値を得られるというメリットがある。
「う〜ん……スライム倒しても、全然うまくないっすね……」
戦士の伊藤が首をかしげる。
「チマチマ1層でスライム叩いてられるかよ! 一気に下へ行こう! 階層が深い方が経験値が良いに決まってる!」
初日にもかかわらず調子に乗った田中は、パーティーを率いて第3層まで強引に降りてしまった。
第3層。緑色の不気味な小鬼——【ゴブリン】が姿を現した。
「キャーッ! 気持ち悪い! 人間みたいな顔してる……!」
「うぐっ……これ、本当に斬るのかよ……?」
初めて見る人型モンスターの生々しい姿に、後衛の女子たちや伊藤が嫌悪感と抵抗感で青ざめる。
佐藤にとっては「理不尽な上司や無能な部下の顔を重ねて殴り倒す最高のストレス解消相手」でしかなかったゴブリンだが、普通の一般人にとっては「人間に似た生き物を殺傷する」という心理的ハードルが重くのしかかるのだ。
「へ、へんな顔して怖気づくなよ! 俺が手本を見せてやる!」
田中は勇者補正の高いステータスと勇者っぽい長剣でゴブリンを何とか撃破したものの、女子たちの悲鳴や介抱に時間を取られ、1体を倒すだけでも大騒ぎだった。
【田中のステータス(レベル1)】
田中/レベル1/勇者
HP: 15(基礎10+ジョブ補正1.5倍)
MP: 15(基礎10+ジョブ補正1.5倍)
身体能力: 15(基礎10+ジョブ補正1.5倍)
免疫: 15(基礎10+ジョブ補正1.5倍)
思考力: 15(基礎10+ジョブ補正1.5倍)
スキルポイント: 0
所持スキル: なし
※全ステータスが均一に「1.5倍」される優秀な初期数値。しかし、全方位に平均して伸びるため「突出した強み」がなく、今後の育成次第では器用貧乏に陥るリスクを秘めている。
さらにその後、調子に乗って第4層へ足を踏み入れてみたものの、現れた【スケルトン(4 EXP)】は全身が硬い骨で覆われていた。
「ていやっ! ……くそっ、剣が弾かれる!?」
田中の装飾長剣では骨を粉砕するのに時間がかかり、レベル1のパーティーでは戦闘自体は安全にこなせても、時間あたりの効率が劇的に悪化することが判明した。
「ダメだ、4層は硬くて効率が悪い! 当分は3層でゴブリン狩りだな!」
結局、田中たちは3層に引き返し、チマチマとゴブリンを狩ることにした。
だが、4人で割ればゴブリン1体につき、たったの**「0.75 EXP」**。
佐藤が夜な夜なポッケ(魔石吸収)と共にゴブリン1体で**「3EXP」**を獲得し、一人で何十体と倒し狂っている裏で、田中たちはダンジョン初日の探索を終えても数ポイントの経験値を分け合うのが限界だった。
「まあ安全第一だし? 田中さんカッコいいしイイよね〜」
「おう! 俺についてくればハーレム探索者ライフ間違いなしだって!」
今はレアジョブの万能さとチヤホヤ感で誤魔化せているものの、効率の悪さや田中の自己中心的な自己流の仕切りに対し、パーティー内に少しずつ不穏な不和の種が芽生えつつあった。




