ポッケ
「よし、今日からお前の名前は『ポッケ』だ!」
自室の机の上、ぷるぷると揺れる従魔スライムに向かって、佐藤は宣言した。
「スライム」と呼び続けるのも味気ない。「ぷるりん」「ぷるのすけ」「スラリン」「ライム」……色々と候補を考えた結果、辿り着いたのが【ポッケ】だった。由来はもちろん国民的アニメの『四次元ポケット』からだ。
「お前は将来、動く超大容量リュックを目指すんだ。いいな、ポッケ?」
《ぷる〜?》
ポッケは明後日の方向を向いて体を揺らした。
目標が決まり、佐藤は育成方針を以下の2点に絞った。
1. 【MP】を重点的に伸ばす:将来『収納』を覚えた際の容量を増やすため。
2. 【思考力】を重点的に伸ばす:意思疎通を図り、複雑な指示を理解させるため。
「何はともあれ、思考力を上げないことには始まらない……」
そう考えた佐藤は「幼児の子育て」のようなトレーニングを開始した。
子供用の絵本を読み聞かせたり、毎日根気強く話しかけたり、モデルとなる本物のリュックを見せてイメージさせたりした。同時に、佐藤自身も基礎ステータス向上のために毎日の筋トレ(腕立て、腹筋、背筋、スクワット)を始めた。
ダンジョン探索者としてのルールに従い、佐藤は市役所のダンジョン探索課へ赴き「従魔申請」を行った。
従魔を連れ歩く場合、武器と同じように『ダンジョンシール(目印)』を装着させ、主人が誰であるかを明示する義務がある。ゴーレムやドラゴンなどの大型魔物の場合は地上を歩かせられないため『従魔空間』という格納スキルが必要になるが、ポッケは指示を出せばゼラチン質を縮めてバスケットボール大になれたため、トートバッグに入れて簡単に持ち運べた。
だが——問題はそこからだった。
「よし、ポッケ。バッグに入れ」
《ぷる〜》
ポッケは指示を無視して壁に向かってすりすりと歩き出した。
「おい、そっちじゃない。バッグだ」
《ぷる?》
ポッケの【思考力: 1】とは、人間で言えば**「赤ちゃんと同等」**の知能だ。
指示を出しても理解できず、途中で遊んでしまう。
(あかん……いつか『収納』スキルを取れるポイントが溜まったとしても、こんな赤ちゃん状態のポッケに魔石や荷物の管理なんて出来ないんじゃないか?!どこかに落として無くされる未来しか見えないぞ……!)
そう痛感した佐藤は、まずはレベルを上げ、ジョブポイントと思育トレーニングで**【思考力】の最終ステータスを「5〜10」まで引き上げる**ことを最優先目標に掲げた。
(思考力が「5」になれば人間の小学生レベルになり、まともな指示や『収納』の管理ができるようになるはず)
「焦らず行こう……まずはポッケの知能向上だ!」
目標が明確になったことで、佐藤の毎日の日課である「会社帰りのゴブリンヒャッハー」は、これまで以上に精が出た。
数日後。連日のゴブリン討伐と日々のトレーニングの成果が実を結び、佐藤のレベルは【8】、ポッケのレベルは【5】へと到達した。
溜まったジョブポイントを、佐藤は【身体能力】にさらに「0.3」割り振り(合計+0.7補正で倍率は×1.4へ)。
ポッケのレベルアップで得たジョブポイント(4 Pt)は、すべて【思考力】に「0.5」注ぎ込んだ(倍率は×0.1から×0.6へ)。
さらに、毎日の絵本の読み聞かせや語りかけといった「子育て」の成果により、ポッケの基礎ステータスの【思考力】が「1」から「2」へと自力で上昇していた!
佐藤は新しく更新されたお互いのステータスウィンドウを呼び出した。
【佐藤健一のステータス】
佐藤健一/レベル8/魔物使い
HP: 7(基礎7+ジョブ補正0.7倍)
MP: 12(基礎10+ジョブ補正1.2倍)
身体能力: 18(基礎13+ジョブ補正1.4倍)
免疫: 6(基礎5+ジョブ補正1.2倍)
思考力: 14(基礎12+ジョブ補正1.2倍)
スキルポイント: 8
所持スキル: 従魔契約
※レベルアップと筋トレにより基礎身体能力が12➔13に上昇。ジョブポイント(累計7 Pt)を「身体能力」に振り、倍率が「×0.7」から「×1.4」へ大幅アップ!
【ポッケ(スライム)のステータス】
ポッケ/レベル5/スライム
HP: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
MP: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
身体能力: 1(基礎2+種族補正0.1倍) ※下限値適用
免疫: 20(基礎10+種族補正2.0倍)
思考力: 1(基礎2+種族補正0.6倍) ※2×0.6=1.2 から端数切り下げで「1」のまま
スキルポイント: 2
所持スキル: 触手、吸収
※絵本や語りかけ等の教育により基礎思考力が「1」から「2」へ上昇! ジョブポイント(4 Pt)をすべて「思考力」に振り、倍率を「×0.1」から「×0.6」に伸ばしたものの、端数切り下げ(1.2 ➔ 1)のため最終ステータスは依然として「1」のまま。したがってポッケの知能に目立った変化はなし!
「……よし! 俺の身体能力は18まで上がったぞ!」
自分の順調な成長に満足しつつも、佐藤は抱え上げたポッケの顔(のような部分)をじっと見つめた。
計算上は思考力倍率が伸びているものの、端数切り下げルールによってポッケの最終思考力は**「1」のまま微動だにしていない**。
「《ぷる〜?》」
相変わらず、ポッケは佐藤の鼻の頭をぺちぺちと触手で触りながら、赤ん坊のように無邪気な音を立てているだけだった。
「……道のりは長そうだが、『吸収』のおかげでポッケに魔石を食わせれば経験値は2倍だ。思考力5を目指して、ガンガン倒してガンガン食わせるぞ!」
《ぷるっ!》
意味も分からず元気に揺れるポッケを抱え、佐藤は社畜のストレスを発散しつつ、相棒を一人前に育てるための爆速レベリングを誓うのだった。




