市役所ダンジョンへ
市役所の地下特別口へ向かう。重厚なセキュリティゲートにスマホをかざすと、ピッと電子音が鳴った。
『佐藤健一様、入ダンを確認しました。ご安全に』
階段を下りていくと、そこには人工的な照明と、磨かれた岩肌が広がる広大な洞窟空間——地球産ダンジョンの第一層があった。
「ここが地球産のダンジョンか……。空気が澄んでいて、環境整備が行き届いているな」
管理されている地球産ダンジョンだけあって、通路は広く、足場も整っている。佐藤は肩からバットのカバーを外し、握り心地を確かめた。
『ぶにゅ〜……』
前方から、奇妙な水音が聞こえてきた。
現れたのは、淡い青色に濁ったゼラチン質のアメーバ状の生物——スライムだ。体長は五十センチほどで、半透明の体の中央に、赤く輝く親指大の「核」が浮遊している。
「なるほど、講習で聞いた通り第一層はスライムか」
佐藤はバットをじりじりと構えた。スライムがゆっくりとこちらへ這い寄ってくる。
「ふっ!」
べちんッ!!
高精度に計算されたスイングが、スライムの体を正確に捉えた。バットの芯が半透明な体を突き抜け、内部の赤い「核」を見事に粉砕する。
『ぶにゅっ……!?』
核を失ったスライムは一瞬で崩れ去り、青い液体は光となって消滅した。後に残されたのは、小さな濁った魔石がひとつだけだった。
「……うーん」
佐藤は足元の魔石を拾い上げ、バットを見つめて首をひねった。
「倒せる……難なく倒せるんだが……」
手に残る感触は、ただの「ぷにぷに」「べちゃべちゃ」だ。
あの夜、理不尽な上司や無能な部下の顔を重ねたゴブリンを、硬質バットで「ドゴォッ!」と完璧なミート音と共にぶちのめした時の、全身を突き抜ける脳汁の噴出がない。
「物足りない……圧倒的に爽快感が足りない……!」
ぷにぷに弾けるスライムを数匹倒しながら、佐藤は深々と溜め息をついた。
彼が求めているのは、過酷な会社生活で溜まりに溜まった怨念を叩きつける「骨のある相手」なのだ。
(地球産ダンジョンの深層に行けばゴブリンがいるらしいが……初心者指定のここではスライムばかりか。やっぱりあの『侵略型』の殺伐とした空気と、キーキーうるさい緑の奴らが恋しいな……)
安全第一を誓ったはずの佐藤の中で、どこか歪んだ「ゴブリン狩りへの渇望」が静かに頭をもたげ始めていた。




