039
機械兵同期信号解読作戦――
ヴァリドの兵隊長カルナは、前に並んだ戦士達を見渡し、低い声で告げた。
「我々の任務は、機械兵同士の“同期信号”の解読だ。
我々ヴァリド族の中でも、特に周波数感知能力の高い者を選抜する。
前衛、リュド。
左右翼、サルナとヴェル。
後衛、ドゥラ。
中央統合、エルド。
――以上の五名を選抜とする」
選ばれた五名は胸に手を当て、その後両腕を左右に広げた。
その表情には誇りと緊張が入り混じっている。
カルナは続けた。
「解読作業はひし形の圧縮陣形で行く。
この陣形が最もコンパクトに展開でき、なおかつ差分を正確に取れる。」
ヤマトが一歩前に出た。
「どんな形にしろ真正面から行くのは危険だ。
第2棟の前は機械兵が多すぎる。
裏手の樹林帯から回り込んだ方がよさそうだな。
もし裏手にも見張り兵がいれば、そいつから同期信号を読むのが手っ取り早いだろう。」
レンも手を挙げ、ヤマトに同意する。
「遮蔽物が多い方が、僕たちもやりやすいですしね。
万が一相手にバレても、樹林帯側に逃げれば追手も巻きやすい。
反対方向に逃げれば第1棟側にも敵を寄せずに済むかな」
カルナが頷く。
「樹林帯ではおそらく機械兵のセンサーも鈍る。
見つからない確率も上がるだろう。
ただ一つだけ注意すると、樹林帯の所々に生えているひと際背の高い樹木――
ヤヌには気を付けないとならない。樹の真下に入ると猛毒の棘が降ってくる。」
ヤマトが頷いた。
「決まりだな。じゃあ――第1棟を出てまずは裏手に回る。
樹林帯に入って、第2棟裏手に着陸している船の見張り兵を探しターゲットにする。
樹林帯ではヤヌに注意する。一人はヤヌの判別を重点的に行いながら進む。
タイチ、その役目お願いできるか?」
「あぁ、分かった。見つけたらすぐ報告するよ」
「よろしく頼む。
それと兵隊長、信号を解読するのにはどこまで近づいて、どのくらい時間がかかるか分かるか?」
「おそらく30mくらいまで近づけばいけるだろう。
サンプリングにかかる時間は十数秒程度だ。
ただし、サンプリング中に相手が干渉に気が付く可能性もある。
もし気が付かれたら、即座に対象を破壊しなければすぐに取り囲まれるだろう。」
「そうか、もしバレたと感じた時はすぐに言ってくれ。
その時はお前らも頼んだぞ。」
ヤマトは、ヴァリドの選抜隊、そして、リク、レン、カイト、リョウの方に向かって言った。
全員が頷く。
「……じゃ、みんな心の準備はいいか?いくぞ」
短い返事がいくつも重なり、同期信号解読部隊は第1棟の壁沿いへと身を滑らせた。
足音を殺し、影から影へと移るようにゆっくり進む。
建物の角を回り、死角に入ったところで、ヤマトは手で合図し、樹林帯へと身を沈めた。
薄暗い紫樹木の間に入ると、空気がひんやりと変わる。
ヤマトが前に出て、低く言う。
「俺が前を行く。リク、後ろを見てくれ」
「はい」
リクが素早く隊列の最後尾へ移動する。
中央にはタイチが位置し、周囲の木々を一つひとつ確かめながら進む。
少し進んだ所でタイチが小声で言った。
「あそこに1本生えているな。……周りに比べて明らかに幹が太く、赤黒い」
ヤマトが振り返って応じる。
「みんな、タイチが言ってる場所よく覚えておけよ。
万が一散開して行動する羽目になったとき、くれぐれも誤って樹の下に入らないようにな」
「いや、まて、奥の方にももう一本ある。……意外と多いかもしれんな」
ヴァリドの戦士エルドが、タイチが見つけた方向を指し示すように言った。
「海側に近づけば近づくほど多く生えている。そっちの方角は海の方向だ」
「なるほどな。じゃ、もし逃げることになったとしても、海側には逃げないようにしないとな。
逃げる時は山の方向に向かって逃げろよ」
「はーい。」
レンが軽い感じで返事をする。
他のメンバーも静かに頷いた。
その後もしばらく、ヤヌの位置を確認しながら慎重に樹林帯を進む。
やがて第2棟の裏側に近づき、木々の隙間から着陸している船が見え始めた。
「……ここから見えるだけでも3隻の船がこちら側に着陸しているな」
ヤマトが呟くと、カイトが目を凝らしながら言った。
「……手前の船の前あたりに機械兵が2体いるのが見えますね。
船の下の隙間から脚が見えてます。」
「……あぁ、確かにいるな。だが船の中にも兵がいて周囲を監視していた場合、
あそこに近づくのはリスクが高すぎるな」
ヤマトは視線を奥へ移し、紫の大きな葉をつけた植物の茂みを指す。
「あっちの船と奥の船の間あたりの、あの深い茂み……あそこまで行ってみるか」
隊は再び樹林帯の中を回り込み、音を立てないよう慎重に移動した。
深い茂みの手前でヤマトが手を上げ、全員が止まる。
「……よし。あそこにちょうど1体だけ見張りの機械兵がいる。ここからだと30mくらいか?
ここからいけそうか?」
ヤマトがヴァリドの選抜隊へ向け小声で確認する。
ヴァリドの選抜隊が静かに頷いた。
そして、カルナに言われたひし形の圧縮陣形に隊列を整える。
陣形の中心に立つエルドが、静かに息を整えた。
「……始める。援護を頼む。」
その声は囁きにも似ていたが、全員の意識をひとつに束ねる芯の強さがあった。
レンとカイトが同時に膝を落とし、裏手の見張り機械兵へ照準を合わせる。
リクとリョウは、陣形の外縁へ半歩だけずれ、万が一の接近に備えて周囲の気配を探った。
ヤマトは短く頷き、エルドへ開始の合図を送る。
沈黙――。
ヤマトたちには何も感じられない。
だが、ヴァリドの選抜隊の五人は、まるで深い水底に沈むように意識を集中させ、目に見えない何かを探り当てようとしていた。
8、9、10、11――
秒が進んだその時だった。
「……気付かれた!」
リュドの声が鋭く走る。
機械神兵がこちらへ振り返ろうとした刹那、
レンの銃口から白い電撃が閃光のように走った。
続いて、コンマ数秒の遅れでカイトの電撃が重なる。
二条の光は、機械神兵が視界に彼らを捉えるよりも早く直撃し、中枢回路を破壊した。
「よし、よくやった。信号の方はいけたか?」
ヤマトが低く問う。
エルドは額に汗を浮かべながら、短く息を吐いた。
「……何とか、ギリギリ解読できた。急いで戻ろう。
異変は機械兵同士で共有されたと思う。
落雷と判断してくれればよいが……すぐに周囲を調べ始めるかもしれん」
「あぁ、そうだな。目的は果たした。すぐ戻るぞ」
ヤマトの言葉に全員が頷き、
同期信号解読部隊は、来た道を乱さぬ足取りで一気に引き返し始めた。
しばらく進んだが追手の気配は感じなかった。
樹林帯は先ほどと同じようにひんやりと静まり返っていた。
隊は慎重さは崩さずに、確実に帰路を進んでいく。
ヤマトが少し歩調を落とし、エルドの横に並んだ。
「そういえば……俺たちが助け出されるより前に、救助された人間たちがいたよな。
あいつらは第2棟から助けたのか?」
「いいや。前の人も、お前らと同じ第1棟側から救助した。」
ヤマトは眉を寄せる。
「……あれ? 藤堂は確か第2棟で目覚めたって言ってたはずだが。」
エルドは思い返すように言葉を続けた。
「藤堂さんは……最初、一人で町の近くまで歩いてきていたそうだ。
町の者に発見され、保護された形だ。
その時、彼は“碧眼の神から言葉を預かっている”と言い、長老様と謁見した。」
ヤマトは足を止めずに聞いていたが、その表情にはわずかな陰が落ちた。
エルドは続ける。
「その後、この施設に囚われている男たちを助けよ――と、我々は長老様から命じられた。
藤堂さん自身が第2棟で目覚めた、という話は……おそらく、町に来る前のことを指しているんじゃないか」
ヤマトは短く息を吐いた。
その吐息には、拭いきれない違和感が混ざっていた。
「……そうか。じゃあ藤堂は、誰よりも前に目覚めて、一人で町まで歩いて行ったってことか」
「そうだ。町の者たちは、彼を“神の使い”のように扱っている。」
ヤマトは返事をせず、ただ前を見た。
紫の木々の間を抜ける風が、どこか遠い場所の記憶を揺らすようだった。




