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40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト
38/43

038

第2棟の影が、ゆっくりと視界の底に沈んでいく。


――前回、この建物に送り込んだ部隊は全滅した。


セレファンの胸には、前回の敗北の残響がまだ燻っていた。

神託を受けて以来一度も神の行いを失敗をしたことのない自分が、初めて失敗した日。

機械神兵の視界越しに見た“あの影”。

神に似た姿を持ちながら、どこか歪んだ存在。


だからこそ、今回は慎重に進めねばならない。


セレファンは数体の機械神兵の斥候機能を起動させた。

空気の振動を読み取り、周囲に残る残響――境界振動を探るため。


境界の神から授かった、神を見分ける周波数。

その周波数をあの存在へ向け照射し、残響の反応によって神族であるかどうかを判別する。


斥候機能の機械神兵はセレファンの指示を受けるとステルス状態となり、姿が見えなくなった。

無音で建物内に侵入し、遠くにいる藤堂クローンに神の周波数を照射する。


「……帰ってきた反応、微弱。

神族の波形とは一致せず……しかし、完全な否定もできない……」


その結果はセレファンを大いに悩ませた。


「もしかすると神の一族かもしれぬ……

単純に神に似た性質を持つ判別不能の異星種族かもしれない……

境界の神が与えた試練という可能性も……」


思考が渦を巻く。

白黒つかない曖昧さは、神官長にとっても不吉な兆しだった。


セレファンは静かに息を吐き、決断した。


「……ならば、結局はこの手段を試すしかない」


彼はサイアレン星から取り寄せた装置を取り出した。

起動すれば、淡い煙が広がり、煙を吸った有機生命体を深い昏睡へと誘う。

神族であれば、この煙は効かないはず。


「もし、あの者にこの煙が効かなかった場合……

これは神を神と見抜けるかどうかの試練なのかもしれない。

思いあがった私を戒めるために……」


斥候機能の機械神兵たちが無音で発煙装置を運び、建物内部へと散布を開始した。

即座に異変に気付いた藤堂クローンが、ステルス状態の機械神兵に向け赤いレーザーを照射する。

レーザー照射を受けた機械神兵はステルス状態が瞬く間に解除され、

別の者の銃撃により次々に破壊されていく。

しかし発煙装置から出る白い煙は、静かに、しかし確実に建物内に広がっていった。


セレファンは建物内部の状態を深く探るため、さらに数体の機械神兵を新たに斥候状態にして中を探らせた。

機械神兵の視界越しに映る映像をモニターで確認する。


煙に包まれた建物内部の状況は視界が悪く、状況は中々掴めなかった。

しかし、ある機械神兵の視界モニターの映像で、すぐ間近にいた藤堂クローンが、意識を失い倒れる姿が確認された。

また、別のモニターでは奥の方でグレイが倒れる姿も映る。

やがて、徐々に煙が収まり視界が晴れてくると、多数の藤堂クローンとグレイが床に倒れている姿が確認された。


セレファンはその光景を見つめ、静かに目を閉じた。


「……ただの杞憂であったか。

彼らは神に姿は似てはいるが、所詮神ではなかった。

名も知れぬ……ただの異星人にすぎない。」


胸の奥に沈んでいた影が、ゆっくりとほどけていく。

彼らは単なる敵対勢力。境界の神の神託を邪魔する存在――そう理解した瞬間だった。


セレファンは機械神兵に命じた。


「制圧せよ。

眠りし者たちを拘束し、外へ運び出せ。」


銀白の機械神兵達が一斉に動き出す。

セレファンはそれに続いて、静かに歩みを進めた。


ヤマトがその様子を見て、眉をひそめる。


「おい、あいつら何やったんだ? 

あの法衣の異星人、建物の中に入っていったぞ」


「……あそこの通風孔のようなところから煙が漏れていますね。

なにか毒ガスでも散布したのかもしれません。

どうやら、私と似たような作戦を考えていたようです」


藤堂がそう言い終わるかどうかの瞬間、ヤマトがさらに続けた。


「ちょっと待て。おい、あれを見ろ。

……お前が運ばれてるぞ。やつらの船に」


機械神兵が担いでいるのは、藤堂と寸分違わぬ姿の男だった。

ぐったりとして動いていない。


「何度も言いますがあれは私ではありません……が、あまり気分の良いものではありませんね」


Dグループ隊長のガロウが横から口を挟む。


「……あれが藤堂さんの姿をした敵、ですか。

たしかに……見分けが全くつかないな」


「容姿では見分けがつかないので、服装で判断してください。

私が今着ている服以外の私は全て敵です。

ただ、すでに多くがあの者の手によって排除されたようですが。」


Bグループのシンが藤堂に向かい聞く。


「それで、結局これからどうするんだ?ここに留まって船のやつらが去るのを待つのか?」


同じくBグループのカイトが言う。


「俺は戦いたくて来たから、やるんならあの機械たちと戦うのでも全然アリだけど。」


それを横で聞いていたレンが、カイトに尋ねる。


「あ、ごめん。君ってもしかしてさ、殲滅作戦の時に、うちらの右手側の超遠距離のとこからドゥイラス狙って撃ってた人じゃない?

遠目で見て顔まで良くわからなかったけど、あっちにすごい人がいるなって思ってたんだよね。

違う?」


「ん-、それは多分……俺かも。

あなたはレンさんだよね?俺はレンさんの事噂で知ってたよ。

Aグループに射撃ですごい人がいるって。

だからあの時、俺も右手側で見てたけど、確かにすごいなって思ってた。

もう一人うまい人いたけど、そっちは彼かな?」


「あぁ、そう。こっちはリョウって子。センスの塊。」


「俺はそんな、まだまだですよ。

リョウです。カイトさんよろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしく。レンさんもよろしくね。」


「はーい。

あ、話の途中邪魔しちゃったけど、俺もやるならあの機械兵と戦っても全然いいですよ。

機械兵となら戦っても別にいいでしょ?ヤマトさん?」


「……相変わらずだなレンは。

でも、Bグループにも似たような人がいてびっくりした。」


リクがそう言って苦笑した。


「お、あなたのことも遠くから見てましたよ。

ヤマト隊長と一緒に光る刀でズバっとやってるとこ。

あの気持ち悪い奴を間近で倒せる方がよっぽどクールですよ。

カッコよかったです。」


「……そ、そう。ありがとう。俺はリク、よろしくね。」


「はい。よろしくお願いします」


「おいおい、お前ら、小学生かよ。機械兵の数見てただろ。

いくらお前らが凄くてもそのまま戦っても死にに行くだけだぞ。」


ヤマトが口を挟んだ。


「そうですねこのまま無策で戦っても全滅するだけです。かといってこのまま彼らがカプセルを持ち去るのを黙ってみている訳にもいきませんね。どうしたものでしょう。」


藤堂もどうするかを決めかねている時だった。


沈黙を割るように、タクマがそわそわしながら口を開いた。


「……あ、あのさ。全然自信ないんだけど……

藤堂さんが持ってきた、その……ガスを発生させる、……爆弾みたいなやつ。

あ、あれ、中身って“圧縮エネルギー体”ですよね?

起爆すると一気に解放されるタイプの」


「あぁ、そうだ」


実際に実物を作った技術班のハルタが答える。


「もし……もしもだけどさ、そのエネルギーを“爆発”じゃなくて、信号の上書きに使えたら……

機械兵の同期回線に割り込めたり出来ないかな?」


「同期回線?」


タクマは慌てて手を振った。


「えっと、機械兵だから戦場で誤射しないように、常に周囲の機体と“認識情報”を共有してるかなって。

敵味方の識別コードとか、優先度とか。で、その共有には、た、たぶんだけど……高密度のエネルギー波を使ってるんじゃないかなって思うんだよね。」


「ふむ。そうかもしれませんね」


藤堂が頷く。


「なら、爆弾のエネルギーを“爆発”じゃなくて“パルス”として放出できれば……その瞬間だけ、同期信号に“もっともらしい偽データ”を混ぜ込めたり出来るかもって……」


藤堂は腕を組み、タクマの言葉を吟味するように沈黙した。


「……つ、つまり、機械たちが“互いを味方と認識してる”っていう前提を、こっちで書き換える。

そうすれば、僕たちは“未定義の対象”になって、攻撃優先度が下がる。

ほんの数十秒でも動きが止まれば……カプセルを奪い返す隙ができると思うんだ」


藤堂がゆっくりと頷いた。


「……爆発のエネルギーを、信号干渉に転用する。理論上は不可能ではありませんね。

ただし、同期回線の周波数を正確に拾う必要があります。危険ですが……」


ヤマトが察する。


「つまり、準備の段階で近づく必要があるってことか」


藤堂は短く答えた。


「ええ。生の機械兵に、です」


ハルタが腕を組み、装置のケースを軽く叩いた。


「……藤堂さん。ちょっといいですか」


「どうしました?」


「タクマ氏の言ってる“パルス化”ですが……理屈としては、まあ、出来なくはないです。

この中の圧縮エネルギー体、放出形態を変えるだけなら構造的にはいじれる。

ただし、同期信号の周波数が分からないと、ただの雑音になります」


タクマが小さく肩をすくめた。


「そ、そうなんだよね……。周波数が分かれば、あとは“認識コードの上書き”に近い形で……」


そのとき、藤堂がふと視線を横に向けた。

ヴァリド族の戦士たちが、静かにこちらを見ている。


「……周波数の読み取りなら、彼らに頼めるかもしれませんね」


「そうか、そういえば、ヴァリド族は周波数で会話できるんだったな。」


ガロウが納得したように呟いた。


「機械兵の同期信号は高密度のエネルギー波……つまり、揺らぎの一種。

理論上、ヴァリド族には読み取れるはずです」


藤堂はヴァリド族の兵隊長に歩み寄り、短く事情を説明した。


「できる限りやってみましょう。ただ我らが解読している間に援護が必要です。

援護の方を誰か頼めますか?」


藤堂が振り返る。


「……とのことです。ヴァリド族が機械兵に接近し、同期信号を読み取る。その間、彼らを守る必要があります。レンさん達やってくれますか?」


「もちろん僕はやりますよ。任せてください。」


レンが答えると、カイトも手を挙げた。


「俺も是非行きたいです。」


リクも続く。


「レンが暴走しないように見ておかないといけないから俺もいく。」


「僕も行きます」


リョウもみんなに続いた。


ヤマトは短く息を吐いた。


「……仕方ねぇな。お前らだけだと何かと危なそうだから俺も行かないとだめだな。」


「じゃ、俺も行くかな。一度は死んだような身だしな」


とタイチも続いた。


有志が集まるのを見て、藤堂はハルタに向き直る。


「周波数が取れたら、書き換え信号を作れますか?」


ハルタは装置を開き、中の構造を素早く確認した。


「……やれます。

ただし、出力を“爆発”から“指向性パルス”に変えるには、内部の構造を組み替える必要がある。

時間との勝負になりそうだけど……何とかしてみましょう」


タクマが遠慮がちに付け加える。


「そ、その……書き換え信号の“形”は僕が作るよ。

ヴァリド族が拾った周波数を基準に、認識コードを“未定義”にする波形を……その……頑張ってみる」


「あぁ、そうしてもらえると大分助かる。」


藤堂は静かに頷いた。


「では――この作戦を成立します。

まずは、もっとも手薄な位置にいる機械兵に極力気付かれないよう近づき、彼らの同期信号周波数を解読します。

万が一の際の援護もよろしくお願いします。」


こうして、開始当初とは変更された新たな作戦が、静かに動き始めたのだった。

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