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40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト
37/43

037

施設奪取作戦・第一棟――


ヴァリド族の戦士たちが、獣のような静けさで建物内部へ散開した。

湿った空気の中、彼らの足音だけが低く響く。


やがて、先頭にいた戦士が手を挙げ、周囲へ合図を送った。


「……やはり、予想通りですね。」


藤堂が建物の入口に立ち、内部を見渡す。


壁は崩れ、天井の一部は落ち、中は暗い。

かつてヤマトたちが目覚めた建物は、今は瓦礫と焦げ跡に覆われ、機能を完全に停止させていた。


「ひとまず全員で手分けして、一通り中を詳しく調べてみましょう。

敵が潜んでいるかもしれません。念のため注意しながら調査をお願いします」


藤堂がそう言うと、ヴァルクス隊も建物の中へと広がっていった。


繭の並ぶ区画に入ると、空気がひどく冷たく感じられた。


「……あらら。」


レンが低く呟く。


繭の多くは破れ、中は空。

しかし、いくつかの一部の繭には、白骨化した遺体が残されていた。

生き残りがいる形跡は、どこにもない。


建物内部にある様々な見たことのない機器も電源が入っていないようで、どれも無反応であった。


建物内を一通り見終わった後、ヴァリド族の兵隊長が藤堂へ報告する。


「敵影なし。生体反応もなし。設備は完全に停止しています。」


藤堂は頷き、繭の列をゆっくりと見渡した。


「……ここに残っていたはずの女性たちも、奥の建物へと移されたようですね。

この建物はもう、これ以上調べても特に得られるものはなさそうですね。」


ヤマトが藤堂に尋ねる。


「なぁ、あの時、俺は気付かなかったが、繭の中には女達も多くいたのか?

なぜ、俺たちとミオだけしか助け出さなかったんだ?」


「……それは、ヴァリド族の予言に沿った形じゃないといけませんでしたからね。

単純にそれだけの理由ですよ。」


「はぁ?予言に沿わないって理由だけで女達を見殺しにしたのか?」


「別に見殺しにはしてませんよ。現に、彼女たちの多くはここには居ない。

おそらく奥の建物に移されて今も尚、繭の中で生存しているはずです。」


「それは見殺しと一体何が違うんだ。

いずれにせよ、やはりお前の考えは俺とは根本的に相容れないな。」


リクもヤマトの言葉に頷く。


「そうですか。しかし、今は私が指揮者です。

考え方が違っているとしても、私の指示には従ってください。」


彼は表情を変えずにそう言うと、そのまま振り返って全員に静かに告げた。


「次の建物へ向かいましょう。ここからが本番です。」


その言葉に、緊張の色が走る。

隊員たちは一呼吸置き、ゆっくりと出口へ向かいだした。


その時だった。


――空間が裂けるような、耳をつんざく轟音。


建物全体が震え、天井の埃がぱらぱらと落ちてくる。


隊員達は反射的に外へ駆け出し、音の鳴る方を見上げた。


「……あ、あれは……!」


灰色の雲を押しのけるように、巨大な影が次々と施設上空に姿を現す。

十隻ほどのステルス船が、空間をねじ曲げるような光をまといながら出現した。


その形状は、以前ヤマトたちが見たエリュシアのステルス船と同じもの。

だが、今回は数が桁違いだった。


「十隻……いや、もっとか……!」


リクが息を呑む。


船は施設を囲むような形で高度を下げ、周囲の開けた地帯へ次々と着陸していく。

大地が揺れ、遠くの沼地でも水面が波紋を広げた。

ダンバ達が身体を出しているのが遠目にも見える。


藤堂が建物の影から姿を現し、空を見上げたまま呟いた。


「……これは、良くない状況になりましたね。」


その声音は驚きよりも、状況を冷静に受け止める者のそれだった。


ヴァリド族の兵隊長が、低く、しかし落ち着いた声で藤堂へ進言する。


「……藤堂様。ひとまず、この建物内に留まり、しばらく様子を伺った方がよいでしょう。

あの船は――オルフェルナ製の船だと思われます。」


「オルフェルナ……?

星間評議会に属する星ですよね?」


「はい、アルタル商盟全域でみられる高度な船の多くは、オルフェルナ星にて製造されています。」


藤堂はゆっくりと視線を上げ、空を見ながら言葉を続けた。


「やはりアルタル商盟の勢力ですか……。

一体商盟のどこの星がこの施設の存在を嗅ぎつけて、ここまでやってきたのでしょう?

狙っているのはおそらく我々と一緒の物。しかし、何のために……

……ひとまずは、兵隊長の言う通り建物内に留まって様子を伺った方が良いでしょう。

彼らの狙いが我々と同じであれば、おそらくこの建物は目標にはならないはずです。」


隊員たちは全員素早く建物の中へと戻り、壁際に身を隠しながら外の様子を伺った。

湿った空気が張り詰め、誰もが息を潜める。


外では、降り立ったステルス船のハッチが次々と開き始めていた。


金属の重い軋み。

続いて、規則正しい足音。


――機械兵たちが、続々と地上へ降りてくる。


銀白色の装甲、無機質な関節音、冷たい光を放つセンサー。

以前、タイチが見た物と同じ物


藤堂が呟く。


「……前にヤマト隊長が報告してきた“機械の兵”というのが、おそらくあれですね。

そういえば、アルタル商盟の中でも機械の兵を使って良い星は限られているとノイ賢老が言ってましたね。

確かオルフェルナ、エリュシア、カリスト、ノマール……この四つの星に絞られると。

となると、最近この星に接近してきたエリュシアかカリストの可能性が高そうですね。」


確認している最中にも機械兵は船から続々と降りてくる。

そして、一つ先の建物入り口前に、集まって整列し始めた。

やがて集まり終わると無機質な光を放ちながら停止し待機状態となった。


その背後で、一回り大きな涙滴型の船のハッチがゆっくりと開く。


金属の階段に、柔らかな布の擦れる音が落ちた。


降りてきたのは、機械兵とは対照的な“生身の影”だった。

銀青の法衣。胸元に刻まれた円環の紋。

人間に近い姿をしているが、どこか異質な静けさをまとっている。


「……誰でしょう、あれは。」


その藤堂の問いに、ヴァリド兵隊長が思い出したかのように答えた。


「藤堂殿……あの服は……おそらく境界の神を崇める神官のものです。」


「境界の神……?」


藤堂はその名を聞いても、すぐには意味を結べなかった。

だが、兵隊長の声には明確な緊張があった。


「アルタル商盟の中で多くの星が信仰している神です。

あの法衣……間違いありません。神官長級の者かと。」


藤堂は視線を再び異星人へ向けた。


セレファンは機械兵の前に立ち、静かに手をかざす。

その仕草は祈りにも似ていたが、次の瞬間、機械兵たちが一斉に動きを変えた。

まるで“彼の意志”をそのまま受け取ったかのように。


「……彼が操作しているのか。」


セレファンは周囲を見渡し、何かを探すように目を細める。

その眼差しは冷たく、揺らぎがない。

まるで“ここにあるものはすべて境界の神の領域に属する”とでも言いたげだった。


藤堂は短く息を吐いた。


「……その境界の神がカプセルを欲しがっているということですか。

碧眼の神の所有物を、境界の神が奪おうとしている。それだけで十分ですね。」


その声には、静かな決意が宿っていた。


「ノスリアだけじゃない。

あの神官も、境界の神も……碧眼の神にとっては災いです。

――いずれこの勢力も排除しなければなりませんね。」


セレファンはまだこちらに気づいていない。

彼は機械兵たちに向かって何かを命じ、何かを始めようとしている。


静かな緊張が、エルヴァ=トゥーンの空気を震わせた。


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