表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40光年  作者: 遊歩人
第一章 ヤマト
PR
33/43

033

各部隊は麓のキャンプへ向けて帰還を始めていた。

ヤマト隊とDグループは、合流した急造部隊の負傷者と亡骸を運び出す手伝いに回る。


助かったという安堵よりも、地面に横たわる仲間たちの無残な姿が胸に刺さり、誰もが言葉少なだった。


ユウトがぽつりと漏らす。


「……もう、この辺でこういう危険な仕事は終わりにしてほしいね」


サトルも重く頷いた。


「そもそも俺たち、ヴァリドの民を守るのが役目でしたよね。

なんで他の星の貴族のために命懸けで宝石探しなんか……」


近くで遺体を担いでいた急造部隊の若い隊員も、震える声で言う。


「こんなことなら……町に残らず、僕も出ていけばよかった……。

こんなの、命がいくつあっても足りないですよ……」


ヤマトは間に入って言った。


「気持ちは分かる。だが、もういまさら言っても仕方がない。

ここを片づければ、あとは採掘だ。ドゥイラスとの戦いも今日で終わりだ。

……とっとと引き上げるぞ」


ユウイチがほっとしたように息を吐く。


「やっと解放される……。正直、僕は虫が苦手で……ドゥイラスの死体を見るのも嫌だったんですよ」


リョウが苦笑する。


「まあ……あんまり好きな人はいなさそうですよね」


奥の方で、セイジとタツヤが急造部隊の生存者二人と共に遺体を担ぎながら叫んだ。


「こっちはオッケーだ! 戻るぞ!」


ヤマトが振り返り、声を張る。


「ありがとうございます。了解しました。では出発します!」


全員が荷物と負傷者、亡くなった仲間を分担して運び、元の配置地点へ戻っていく。

そのまま来た道を辿るルートを目指し、静かに、しかし確かな足取りで帰還を始めた。


Aグループの最初の配置地点を多くの者が通過し、最後尾で遺体を運んでいたセイジとタツヤ、急造部隊の二人がその付近に差しかかったその時だった――。


ゴゴゴゴゴォォ――


地中から、腹の底を揺らすような地鳴りが響いた。


「……なんだ!?」


誰かが小さく漏らした直後。


ズドォンッ!!


地面が裂け、土砂が弾ける。


そこから――これまで見たどの個体よりも巨大な、三倍はあろうかというドゥイラスが、黒い影となって飛び出した。


「うわあっ!!」


タツヤの悲鳴が響き、ヤマトたちが一斉に振り返る。


「くっ……なんでだ……! まだ居やがったのか!!

しかも……なんてでかさだ……!」


レンとリョウが即座に銃を構え、青白い電撃を巨体へ向けて放つ。

だが、その巨躯はまるで意に介さず、動きを止めない。


「セイジさん、危ない!!」


リクが叫ぶより早く、

巨大ドゥイラスの上顎部が、セイジの身体を挟み込んだ。


「……うっ……!」

声にならない、押し潰されたような鈍い声が漏れた。


「ちくしょう! やめろ!!」


ヤマトが叫び、ボルトエッジを握りしめたまま駆け出す。

すぐ後ろでリクも地面を蹴った。


だが、巨大ドゥイラスは巣を荒らされた怒りをぶつけるように、

容赦なくセイジの胸部へ巨大な口吻を突き刺した。


「やめろぉぉ!!」


ヤマトの叫びも届かない。

ドゥイラスはさらに近くで倒れていたタツヤと、急造部隊の生存者の一人を足で踏み押さえ、

セイジの身体を乱暴に放り投げると、続けざまに口吻を突き立てた。


それは吸血のためではなく、ただ殺すためだけの動きだった。

三人の命は、瞬きする間に奪われた。


「やめろって言ってんだろうが!!……ッの野郎!!」


ヤマトが吠え、ボルトエッジを最大出力で展開する。

青白い刃が唸りを上げ、巨大な閃光となって振り下ろされた。


巨大ドゥイラスは瞬間的に身をひねって避けたが、

刃はその巨体の三分の一を一刀両断に切り裂いた。


ギシャァァッ!!


身を裂かれながらも、ドゥイラスは身体を曲げ、

上顎を大きく開いてヤマトを捕えようと迫る。


「ヤマトさん!!かがんで!!」


リクが叫び、ボルトエッジを前方へ伸ばす。

槍のように構えた刃が、ヤマトの頭越しに突き抜け、

巨大ドゥイラスの頭部を貫いた。


「うぅおぉぉ……ッ!」


リクは渾身の力でそのまま左斜め下へ向けて刃を切り下ろす。

グギギギギギ……

軋むような悲鳴とともに、ドゥイラスの頭部が割れた。


それでもなお動こうとする残骸へ、レンたちが電撃銃を浴びせる。

焼け焦げた煙が立ち上り、やがて巨体が地面へ崩れ落ちた。


リクはタツヤと倒れた隊員のもとへ走り、

ヤマトはセイジの方へ駆け寄る。


「セイジさん!! 大丈夫ですか!? セイジさん!!」


しかし、口吻に貫かれた身体はすでに冷たく、返事はなかった。


「……ちくしょう……なんでだ……

共鳴球はどこも鳴らなかった……なのに……なんで……」


ヤマトは歯を食いしばり、ふと気づく。


――最初の穴だけ、共鳴した。

そういえばそのあと、そこに球を入れていない。


「あの穴に……まだ残っていたってことか……

しかも……あれは、おそらく女王個体……

これだけの巣穴に女王がいないはずがない……

なんで……なんで俺はそんなことも気づかなかったんだ……」


拳が震える。


「くそ……俺のせいで……セイジさんも……タツヤも……」


拳を地面に叩きつけ、肩を震わせているヤマトのもとへ、リクが涙を流しながら駆け寄った。


「ヤマトさん……タツヤは……ダメでした。

もう一人の方も……」


ヤマトはゆっくり顔を上げ、苦しげに言った。


「……すまない。すべて俺のせいだ。

俺の甘さが……セイジさんたちを死に追いやった……」


「そんな……ヤマトさんのせいじゃないです!」


リクは即座に否定するが、ヤマトは首を振る。


「何が……”何かあったときはみんなを連れて退避してください”だ……

俺は……何を格好つけて……そんなことセイジさんに言ってんだ……

ちくしょう……」


握った拳が震え、地面に落ちる影が揺れた。


「ヤマトさん、落ち着いてください」


リクは息を整えながら続ける。


「俺は……ヤマトさんがいたからこそ、多くのみんなが救われたと思っています。

ヤマトさんがいなかったら……もっと多くの人が死んでました。

……みんなが待っています。

セイジさんたちを運んで、キャンプに戻りましょう」


ヤマトはしばらく黙ったまま、地面を見つめていた。

その沈黙は、怒りでも悲しみでもなく、ただ深い後悔の色をしていた。


やがて、ゆっくりと息を吐く。


「……そうだったな。みんなが……待っているな。

……取り乱してすまない。

帰ろう」


ヤマトは立ち上がり、セイジの亡骸へと歩み寄った。

その背中には、隊長としての重さと、人としての痛みが同時にのしかかっていた。



東側麓大キャンプ――


キャンプ地に戻ると、医療班がすでに負傷者の手当てに追われていた。

亡くなった者たちは、キャンプ奥の平地に静かに並べられていく。


今回の作戦での戦死者は、全隊合わせて十五名にのぼった。

空気は重く、誰も声を出さなかった。


そのとき、ヤマトの名が呼ばれる。


「ヤマト隊長、すぐに作戦本部へ。」


藤堂からの呼び出しだった。


ヤマトは遺体に手を合わせ一礼すると、

無言のまま本部テントへと向かった。


ヤマトが中に入ると、藤堂がゆっくりと顔を上げた。


「ご苦労様です、ヤマト隊長。巣穴群のドゥイラス殲滅は無事完了しましたか?」


ヤマトは表情を変えずに言う。


「さあな。知りたけりゃ自分で見てくればいい」


「そうですか。その返答は……つまり完了した、と受け取ります。

被害が大きかったと聞きました。どんな状況です?」


「全部で十五名死んだ。負傷者も多数だ。

……作戦自体が無謀だったせいだ」


藤堂は淡々と頷く。


「そうですか。確かに亡くなった方が多数出たことは、私としても非常に残念です。

しかし殲滅ができた以上、結果的には作戦成功と言えます。

成功した作戦は無謀ではありませんよ」


そして、話を切り上げるように言った。


「ひとまずこの度はお疲れさまでした。ありがとうございました」


その瞬間、ヤマトの堪えていた怒りが弾けた。


「……なにがお疲れさまだ、ふざけんなよ!!」


藤堂は眉一つ動かさず、むしろ思い出したように言った。


「そうでしたね、あなたの隊の隊員も亡くなったらしいですね。

心配しなくても、欠員は補充します」


「……てめぇ、なめてんのか?

俺たちはお前の道具じゃねえぞ。

……はき違えるなよ」


藤堂は静かに立ち上がり、ヤマトの正面に歩み寄った。

口元だけがわずかに歪む。


「勘違いしないでください。

あなたたちは私の道具ではありませんよ。私の所有物でもない」


一拍置き、藤堂は続けた。


「……私も含め、あなた方も“碧眼の神”の道具です。

私はその代理として、あなたたちを率いているだけのこと。

あなたこそ、はき違えないように」


藤堂はさらに小さく笑みを深めた。


「あなたも真実を知れば、私の言っていることが分かるでしょう。

そして……結果的に私と同じことをするかもしれませんよ」


「……真実だ?」


「どのみち、いずれ分かる時が来ます。

この地にいる人間は――私も、あなたも、皆……神の道具だと」


「……それは、俺たちがクローンだからってことか?」


ヤマトは反射的に言い返した。


その瞬間、藤堂の表情が明らかに変わった。

わずかに目が揺れ、声の調子が低くなる。


「……なぜ、そう思うのです?」


ヤマトは内心”しまった”と思い、口を閉ざした。

テントの中に、重い沈黙が落ちる。


しばらくして、藤堂が静かに問い直した。


「あなたは……一体どこまで記憶が戻っているのですか?」


ヤマトは視線をそらし、短く答える。


「さあな。さっぱりだ。

いまだに本名すら思い出せねえ」


そして、逆に問い返した。


「……そういうお前は、何を思い出してんだ?」


藤堂はゆっくりと息を吸い、淡々と語り始めた。


「以前も話しましたが……私はあなた方より半年前に、あの施設から助け出されました。

ただ目覚めたのは、もっと前です」


藤堂の声は、妙に落ち着いていた。


「あなたと私が決定的に違うのは……私は目覚めた時点で“本名”を覚えていたこと。

そして、目覚めてしばらく経った後、

“なぜ自分があの場所で目覚めたのか”も理解したことです」


ヤマトは眉をひそめる。


藤堂は続けた。


「それが、あなたと私の大きな違い。

あなたも理解すれば……私と同じ行動を取る可能性が高い」


その言葉には、確信めいた響きがあった。


「……まぁ、いいでしょう」


藤堂はヤマトを見据える。


「あなたが望んでいた“例の施設”の奪取作戦を、近日中に実施します。

望み通り、あなたも参加するといい」


そして、わずかに口元を歪める。


「そこでもし生き残れたなら……その時、真実を話しましょう。

あなたはすでに、自分たちの正体に気づき始めているようですから……」


藤堂は軽く礼をした。


「では、本日はありがとうございました。

これ以上話すことはありません。……お引き取りください」


退出を促され、ヤマトは無言で背を向けた。

テントの出口へ向かう足音だけが響く。


その背中に、藤堂が最後の一言を投げた。


「最後に、一応、言っておきます。

私としても……ヴァルクス隊の隊員が失われることは辛いことです。

これは嘘ではありません」


その言葉を聞き、ヤマトは振り返らず、テントを出た。


こうしてヤマトの長い一日が終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ