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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」


 息を荒く、座り込もうとしたノアの肩を持ち上げ、無理矢理に立ち上がらせる。

 10分ほど逃げ回りながら辿り着いたのは、庭園だ。お気に入りの薔薇園にはまだ距離があるが、人の高さほどに伸びた生垣が、ちょうど周囲の視線から身を隠してくれる。


「せ、せめて休憩くらい……」

「だらしないですねぇ」

「お前らと一緒にするな!!」

「叫ぶ元気があるなら大丈夫ですね」

「すまん、休ませろ」

「別に良いですけど、立ったまま休んでくださいね。座ると身体が休息状態に入っちゃうんで、もう走れなくなります。まだ全然途中ですから」

「…………な、何分、休める?」

「3分くらいでしょうか。今のとこ私たちは最優先の排除対象じゃないですが、セドリック様が死んだら優先順位が変わります。誰も殺さずに逃げてきてるんで、情報さえ集まれば私たちがどこに向かってるか、分かる人が居ます」

「…………三兄弟か」

「えぇ、普通に向かったらバレちゃいますが、近衛騎士でも隠し通路は知らないでしょう。出来るだけ私たちで引き付けて攪乱すれば、時間稼げますからね」


 ノアは息が荒いまま俯き、「クソッ!」と悪態を吐く。そして振り返り王宮を見ると、向かう先を見る。


「離宮に向かって、どうするつもりなんだ?」

「あ、流石に分かりましたか」


 王宮を出てから、人を避けるため真っ直ぐではないが、離宮のある西に向かっていた。だが、この状況でリオノーラの居城である離宮に向かう理由はそこまで多くない。リオノーラを殺すため――なら分かりやすいが、目的はそれではない。


「母様を――いや違うか、駄目だ頭が回らん、お前から話せ」

「今は上(・)か(・)ら(・)セドリック様を追いかけてます。リオノーラ様はあの場から最速で移動しても間違いなく離宮には辿り着いてはいませんし、この状況だと、彼女が隠し通路に入る必要はありませんから」

「何故だ?」

「あれ、ノア様って通ったことないですか? てっきりセドリック様みたいにちっさい頃から遊んでたものとばかり」

「……教えられてるのは、緊急脱出路くらいだ」

「そうでしたか。失礼しました。えっと、隠し通路って相当入り組んでるんですよ。ちゃんと覚えれば目的地に辿り着けますが、絶対まっすぐには進めないようになってます。一直線にしたら、道を知らない追手がすぐに追っかけてきちゃいますからね」


 思い当たる節があったのか、「あぁ……」と頷いた。

 隠し通路の壁材は画一で、磁力を含むため方位磁石は機能しない。数メートルおきに曲がり角があって今自分がどこに居るか覚えられないようになっているし、十字路は無数にある。どの方向に行っても行き止まりにならないし、そのくせ出入口は少ない。

 地図などなく、それらがすべて地下に沈められているとなると、全ての道を覚えている者はそう多くはないのだ。

 リオノーラが隠し通路を使わないのは、今はまだ自分を守る兵が多いこと、すぐに殺される心配はないこと、更に隠し通路を通ることで安全地帯である離宮への遠回りになるのを避けるためだ。


「セドリック様の行先は絞れます。王宮から離れすぎず、安全を確保出来る場所――となると、まぁ一番可能性が高いのは、墓所でしょうか」

「墓所? いやあそこ……何かあったか?」


 王族墓所――それは王宮の片隅にある、森の中に作られている。

 先代の王族が眠る墓所だが、特に理由がない限り近づくことはない。そこに何があるかまで知っているのはクレアやマイルズのように、長年王宮に勤めている者くらいだ。


「セドリック様は、毎年墓参りに行っているそうですよ。知ってましたか?」

「……いや」


 ノアは首を振って否定した。恐らく、誘われたこともないのだろう。

 ――不可解だと、そんな表情である。

 なにせ、セドリックは前王ドウェインを殺して王位を簒奪している。当然殺された王の葬儀など簡易的にしか行われていないし、親を殺してまで王座を奪った人間に慈しむ心があるのが、たいそう不思議なのだろう。


「そのうち、分かりますよ。じゃ、そろそろ行きましょうか」

「……あぁ」


 呼吸も随分整ったようで、ノアは覚悟を決めた顔で頷いた。

 ――これから、彼は父に会いに行く。そこで何をするべきか、決意を固めたといったところか。


 私は、その選択がどうあろうと――、彼を捨てるつもりは、ない。

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