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パーティ会場となっていた大広間を出ると、会場の外でも戦闘が繰り広げられていた。騎士はセドリック王を主とする派閥と、デュークの声に従ったリオノーラ派閥に別れているが、後者はともかく前者は少なくとも敵ではない。
前者の騎士らは逃げる王太子を見ても一瞥するだけなので、王からの命令は敵対勢力の排除といったところだろうか。とはいえ、積極的に保護するほどの余裕もない。
廊下を走り、双方の目がなくなった瞬間、とりあえず休息を取るため近くの部屋に飛び込んだ。
「な、なぁメイベル」
「どうしました。っていうか今はメイベルじゃないんで、ウィリアムかペリドットで呼んでください。人に聞かれてたらどう説明するんですか」
「……それもそうか。いやこの状況でもそれ気にするんだな」
「二重生活ってバレたら後々が面倒なんですよ……」
溜息交じりに呼吸を整えると、ノアが「後、か」と小さく呟く。
「それにしても、騎士なのに魔法なんて使えたんだな」
「ほとんど使えませんよ。あんなの、一回見せたら二度目は通りません」
「そうなのか?」
「他に使える魔法も、花咲かせるとか花粉飛ばすとかそんな程度です。私はもう手札全部見せちゃってるんです。一般の騎士ならなんとかなりますが、次に近衛と当たったら――よっぽど相性良くない限りは負けますね」
魔法と剣の相性は、正直最悪だ。いくら思考と魔法の並列処理が出来るといっても、詠唱する限りは、呼吸する口を開けなければならない。回避に専念している先程のような状況ならばなんとか呼吸の確保は行えるが、こちらも攻撃をしながら――となると詠唱は選択肢から外すこととなる。
何せ、ほとんどの攻撃は呼吸を止め、腹に力を入れて行うものだ。その状態で、詠唱のために息を吐いたり吸ったりする余裕は全くない。
実力差が然程ないのであれば、魔法なんか使うよりそのまま戦った方が勝率は上がる。先程のように実力差がありすぎたら、魔法でも使わないと0%なのだが。
「兄を呼ぶのは、まだやめてくださいね」
窓の外に視線をやったノアを見、止めた。どうやって連絡するのかは分からないが、この状況でも通じる連絡手段があるのだろう。
「……まだ良いのか?」
「えぇ、まだ戦力的にはちょっと不利くらいですからね。私達は、現時点では第三勢力ではありません。セドリック王の勢力にカウントされているんですよ。理由が分かりますか?」
ノアは少し悩んだ表情になったが、すぐに「あぁ、」と口を開く。
「俺が王の座を狙ってることを発表してないからか?」
「というか、公表する必要がありません。あなた、ただの第一王子じゃなくて王太子ですからね。どっかの誰かさんは野心まみれで簒奪するつもりですが、普通、王太子ってのは王が死んだら勝手に王になるもんです」
「…………まぁ、そうだな」
実際は、王になる前に殺されるのが確定しているが――それはそうとして、対外的にノアは王太子であり、王位継承権一位の存在である。
殺される前に王になるには、現王を殺してでも王座に就くしかない――彼はそう考えているのだろう。実情からするとそれは正しいが、政治的には正しくない。
「で、ノア様」
「なんだ」
「一応確認しますが、このままセドリック様を殺しに行きますか? さっき逃げた方向は見たので、今どこに居るかは大体分かりますよ。隠し通路も覚えてますので」
「…………」
一瞬だけ、どうしてそんなことを――と言いたげな表情になったのを、見逃さなかった。
結局この人は、父親殺しにそこまで積極的ではない。野心家というのは先のデュークのように、王族や敵対勢力を皆殺しにしてでも目的を達成しようとする者だ。
とはいえ、ノアが口だけの野心家というわけでもない。死なないための最善策として選んだのが、自ら王になり、逆賊としてリオノーラの一族を追放することなのだろう。
「……メイベル」
「だから……」
「行かない」
ぐっと歯を食いしばったその顔を見れば分かる。それはきっと、苦渋の決断なのだ。
王位の簒奪とは、王を殺すことでしか成し得ない。それを他人に任せるということは、王の座を諦めるに等しいから。
クーデターのどさくさに紛れて目的を達成することより、今は優先すべきことがあると、彼は考えているのだろう。
「では、どうされますか。成り行きに任せますか?」
「仮に、父上が死んでから動くと――どうなる?」
「そうですねぇ……、セドリック様が死んだら、唯一敵対してない勢力が王宮から居なくなりますね。その後この国が帝国になるのかは分かりませんが、直近の問題といえばそれですね。私達は、見つかれば間違いなく殺されます」
「…………」
ここで、彼の思考を誘導するつもりはない。自分で考え、選んで欲しい。その場に流される人でなく、苦難の上、自ら道を選んだ人に嫁ぎたいから。
「なら、のんびりしてる暇はないな」
覚悟を決めた顔で、ノアは言った。あぁ、聞かないでも分かる。彼が何を選んだかを。
「……良いんですか? ちょうどいい機会ですよ?」
「良い。父上には、……これが終わってから王位を譲って貰おう」
「分かりました。では――」
窓の外に視線をやり、周囲に人が居ないのを確認すると――
振り上げた足を――思い切り振り下ろした。
――ドゴンと、轟音。して、すぐに外からは人が集まる音が聞こえてくる。敵か味方か、どちらかは分からないけれど。
「お、お前!? こんなとこで何してんだ!?」
「こっちに王太子様が居ますよー!」
「何してんだよぉおお!?!?」
叫びながら窓を蹴破り、外に飛び出した。
中庭だ。そちらに居た騎士は、突如窓から飛び出したノアを見て血相を変えたので――敵である。
「邪魔です」
すれ違いざまに足首を切り、交差する。
まぁ、普通の騎士なら大体これで終わる。膝から腱も筋肉も骨も切られて普通に動いてた人がおかしいんですよ。どうなってたんですかあれ。
崩れ落ちた騎士を横目に、慌てて追いかけてくるノアの足は――まぁまぁ速いか。毎日走り込んでる騎士ほどではないが、素人にしてはいい線いってると思う。
「遅れないでくださいねー」
「も、目的と! どこに行くか、を、教えろ!!」
「言えませーん」
それだけ返すと、後ろから「クソッ!!」と苛立ち紛れの声が聞こえたが、無視。
三兄弟の思考を誘導するためにも、ここである程度注目を集めておきたいのだ。決して、説明するのが面倒なわけじゃないよ。




