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「なんつーか、作りが雑なんだよなぁ」
「ディティール凝る時間ないからじゃねえか?」
「あー、今回は異世界側も制限時間あったんだっけ、そういうことなのかねぇ……」
ボスを倒した俺達は、持ち込んだ高カロリー菓子を貪りながら雑談をしていた。
「そいやタント、腕力ステ振ってたのか?」
「ん? 最低限しか振ってないが」
「あ、じゃああれ素の筋力ね……」
支点力点作用点――てこの原理を使えば小さな力でも大きなものを動かせられる。
とはいえ、膝を支点に、力点を自らの腕力のみで数トンあるものを持ち上げるのは俺には不可能だ。
既に持ち上がっているものを押し上げるのと、地に付いたものを床から持ち上げるのとでは必要な筋力が違う。それを戦闘中にかますタントの根性にビビりながらも、そういえばこいつはそういう奴だったなと思い出す。
「あ、あの!」
突然ハルが口を開く。少々難しそうな顔をしている。
「どうかした?」
「い、いえ、その、今回全然役に立てなかったなぁと思いまして……」
そんなことをハルが言い出すので、俺達は全員で顔を見合わせ、小さく笑った。
「な、なんですか! 笑わないで下さいよ!」
「あー、や、何だ、ハルは役に立たないと思ったかもしれないけど、全然そんなことない」
「……お世辞ですか?」
「いやいや、そうじゃない。『ライデン』現役時代の先生がここに居ても、さっきの戦闘じゃハルと同じことしかしてないよ」
「…………そうなんですか?」
ハルは訝しむ目でこちらを見る。これは慰めるための冗談などではない。事実なのだ。
『ライデン』の回避タンクの役割は、通常戦闘では中衛に立ち前後衛のカバー、ボス戦では大技を誘ったりヘイトをリセットする時にターゲットを取るくらいで、スキルを使った立ち回りはほとんどしないものなのだ。
とはいえ、今回戦闘時間が長引いてしまったのは、先生が居なかったからなのだが――
「先生の役割もハルと一緒なんだよ。ただ違うことがあるとすれば、作戦練ったりボスの行動パターン解析したりは先生の役割だった。今回戦闘が長引いたのは、慣れない俺がその代用したからかな。まぁ幸いかなり隙の多い範囲攻撃持ちだったから助かったけど」
「……そう、だったんですね」
「そうそう。だから気にしないで」
「分かり、ました。……じゃあ、先生さんに出来なかったことします」
「え?」
そう言ってハルは俺の背中側に回り込むと、いきなり抱き着いてきた。
背中に巨大な温かいマシュマロのようなものが押し当てられ、意識が宙へと拡散していく――あ、うん、確かにこれは先生には出来んわ。先生、割とヒョロかったし、そもそも男だしな。
タントは溜息交じりに目を逸らし、ライカはけらけらと笑い、エミは「カァーーッ!!」と溜息なのか痰なのかもよくわからん大声を出す。えーと、逃げれば良いのかこれは?
「あの、ハル? 疲れたの俺だけじゃないから――」
「おいやめろ俺は妻帯者だぞ!?」
「ハルちゃーん、こっちは来て良いよー」
タントが慌てて拒否し、ライカが両手を広げてハルを誘うと、ハルは俺の背中から離れライカに正面から抱き着いた。うーん、眼福ですな。
エミは泣きそうな顔をして小さな声で「ちくしょう……」と呟いてる。たぶんこれ「俺が女だったら……」と続くんだろうな。
抱き着くのをやめてライカの膝にすっぽり収まったハルは、こうして見ると小動物に見える。胸の主張は凄いんだけど、身長は低いし動作はどことなくリスかなにかのようだ。
「私、切原さんは何でもワンパンするんだと思ってました」
「そういえばハルと一緒に潜ったとこはどこもそうだったか。徘徊のウーズもダメージ判定は一回だけだったし……まぁ、こんくらいなら割とよくあることだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。バフ全開に盛るとリキャスト重いからそう何度も出来なくてさ。今回はあっさりボス着いちゃったし、このまま連戦になると思ったから温存してたんだよ。まぁでも、時間的には次で一旦帰るかな?」
ライカが腕時計で時間を確かめながら、「んー」と声を漏らす。
「円錐状って予想が正しいとして、毎階層広さが2倍になるくらいになると、頑張れば夜には3階ボスが終わるくらいかな? 大して食料も持ち込んでないし、とっとと撤退するならここで、ギリギリまで粘るなら3階ってとこかなぁ、多数決する?」
ダンジョンに関連することなら覚えられるが学力は下から数えた方がマシだった俺とタントは半笑いで、エミは地面に指でダンジョンの広さを計算している。
「次でやめたい人、手ぇ挙げてー」
上がったのは意外にもエミだけだ。誰よりも急いで攻略して欲しい立場のエミはてっきり出来る限り長く潜る方を選ぶと思っていたのに。
「次の階層の広さ見てからしか分からんが、下の方は数日がかりになりそうなんだよな。まぁ期日からしたら打倒なんだろうけど」
「それでどうして撤退するって話になるんだ?」
「あー、仕事としては急いで貰いたいが、探索者としての俺は出来る限り楽したいし死にたくはないし疲れたくもない。努力賞で充分なんだよ。命賭けるほどじゃねえ」
ハルが割と嫌悪に近い目をエミに向けてるのが分かる。エミもそちらを見ないようにしているがそんな目を向けられていることを察しているのか、頬がピクピク反応している。
「つーか、今回俺達が一位取ったらどうなるんだ?」
「知ーらね」
「え、マジで?」
「大マジだよ。別に一位取ったパーティが豪華景品貰えるわけじゃねえし、俺達を一位で賭けてんのはたぶんトワレの国――テュアルシア連邦共和国だけだ。オッズは凄いことになってるだろうが、それで得すんのも負けて損するのもあっちの国。俺達はただの駒なんだよ。駒って自覚してんのになんで命懸けで急がなきゃいけねえんだよって話だ」
「あー…………」
確かに、今回の俺達はプレイヤーのようでそうではない。プレイヤーはあくまで外で賭けをしている異世界人達で、俺達は将棋の駒とか、競馬の馬と同じである。
「だからこっから先、多数決取るってんなら俺は一番楽で一番安全で一番時間かかるやつを選ぶ。どうしたいかはお前たちで決めろ。パーティの決定には従うから」
大人のこういった二面性には慣れないのか、ライカの膝の上から動かないハルが意外そうな顔でエミのことを見ている。
大人は嫌な仕事でもしなければいけないし、逃げられることからは逃げるが、逃げられなくなったら戦うしかないものなのだ。
「そっちの体力組の意見はたぶん限界まで自分を追い込む方だろ? だから決めんならライカとハル――さんの二人で決めた方が良い」
「あれっなんか俺の扱い雑じゃね?」
「キルオと一緒にするな!」
「お前は全力で拒否んなや!!」
タントにはぶんぶんと顔を横に振られる。お前そんな……そんな奴だったのかよ……妻も子も居るからって調子に乗りやがって……。
「私はまだ全然大丈夫ですけど……」
「あたしも同じー、じゃあとりあえず、3階目標でいこっか」
元からそちら側だったから、俺は頷き、どことなく不満げなタントも頷いた。
エミは「だよなぁ」と声を漏らし、立ち上がって尻を払う。
「っし、行くか」
小休憩も終え、俺達はボス部屋の階段を下りていく。




