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「思ったより早かったな」
エミとの再会から3日後、元『ライデン』にハルを含めた5人は、川崎ダンジョンの前に集合する。
「今日の9時27分が開始時刻だ。あと……5分くらいか。で、ルールを確認する」
エミが説明を始める。今回のルール――異世界で結ばれた協定は、先日説明された5人までというところ以外にもいくつか制限があったらしい。それは、1日の探索制限だ。
「24時間ぶっ通せる体力あるパーティとそうじゃないパーティで差が付くのを避けるために、探索時間は1日12時間までって制限が付けられた」
「わーありがてえ。でもあんまり深層まであると毎日最初からやり直すのダルくないか?」
「ダンジョン構築は10階層固定。各階にはポータルが設置されるから、毎日攻略し直す必要はない。後はここの編纂者がクソ性格悪い奴じゃないことを祈れ。トワレみたいのが編纂者だったら諦めろ」
「そんなヤバいダンジョン、最近あったか?」
「あー、トワレは海外の編纂者だ。日本のダンジョンには関係ない。上海から偽造パスポートで堂々と日本に入国してる」
「……思ったより凄いことしてんだな。ん? 上海って――」
「『魔境』上海、だな。ダンジョンの密集度は日本の比じゃない」
タントが遠くを見て呟いた。上海にも遠征したことがあるのだろう。たしか、狭い都市内に10個以上のダンジョンが犇めく魔境と呼ばれてるんだっけ。
「オレも今日知らされたばっかだから裏取りはないが、今回競争の目的は賭け、らしい」
「ん? 賭けってことか?」
「あぁ。17ダンジョンの攻略される順番を当てる、異世界197か国によるパリミュチュエル方式――競馬と同じヤツだな。トワレは川崎を最初に攻略して欲しい立場ってわけだ」
「俺、ギャンブルしたことないが……」
「誰よりもギャンブル得意そうな顔してそれ言うのかよキルオがよ」
「言うな……」
確かに俺の職業は博徒だが、金をかけて行うギャンブルは麻雀くらいしかしたことない。数年前深見さんにマカオのカジノに連れていかれたこともあったが、うろついてるだけで終わった記憶がある。賭け事はあまり得意ではない。殴らせてくれ。
「時間だ。入るぞ」
「わーい、貸し切りだぁー」
ライカの気の抜けた号令と共に、俺とタントからダンジョンに侵入する。
*
「ハル、もうちょっと気抜いて良いよ」
「は、はいっ!」
「ハルさんは俺が合図したら隠密解除してヘイトを取ってくれるだけで良い。あとは――」
「あとは俺が殴るから。もしヤバそうならエミの指示でライカのサポート回ってくれれば良いよ。正面は全部タントに投げて大丈夫だから」
ハルは大きく2回頷いた。ダンジョンに入って1時間程度、まだ肩に力が入っているようだ。
3人だった時はそこまで緊張した様子はなかったので、はじめてのフルパーティだからだろうか。
まぁエミは俺らが戦闘中だろうが採取してるんだが。いやお前はもうちょっと働け。
「そうそう、何なら俺と一緒に採取でもしてる?」
「……なんかレア素材でもあるのか?」
「いや別に。今回は大したドロップもないだろうし、採取でちょっとでも稼げればーって」
「公安が小金稼ぎかよ……」
「仕事なら何でも経費で落ちるけど、趣味で使える金がマジでねぇんだよ……」
どうやら公安も警察官相応の給料しか貰ってないらしい。ちょっと可哀想に思えてきた。
採取に誘われたハルは一瞬悩んだが、首を横に振って「大丈夫です!」と返す。
「それにしても、速いな」
「最初の階層はこんなもんじゃないのか?」
「いや……まぁ、そうか、昔はそうだったか」
タントが呆れた顔でこちらを見る。なんだようお前。
今のところ、エミが指示したルートを進み敵が出たら殴って倒してを1時間繰り返しているだけだ。情報ゼロ、再構築すぐのダンジョンだろうが、攻略パターンが変わるわけではない。
エミ曰く罠がないダンジョンで良かったとのことなので、恐らく以前の川崎ダンジョンと同じ編纂者であろうという予想だった。
「次ぃ、前方20メートル先、17体かな。反応鈍いからもうちょっと隠れてるかも」
「オッケー、行くぞ」
「あぁ」
「はいっ!」
エミの観測情報を聞いた前衛3人が走り、対象を目視する。人の胴体ほどある昆虫型だ。
ハルが立ち止まり小さな悲鳴を漏らすが、逃げ出したりはせず、ヘイトを取った時いつでも動けるよう両膝に手を当て中腰になる。
膝を曲げ脱力することですぐに動けるよう構え、膝に乗せた両手は上半身に勢いをつけるために使う。
ダンジョンにおけるステータス補正は足だけでなく全身の各部位に反映されるので、外のように足だけで動くより腕や上半身の力も使った方が速く動けるのだ。
とはいえ俺やタントのように元から格闘技をやっているような人間はそんなことしなくても全身の筋肉を意識して身体を動かせるのだが、デビューしたばかりのハルは違う。。
「『叫声』を!」
「は、はい!」
敵が多くタント一人でヘイトを持つと殴りづらくなる場合、ハルに一部のヘイトを取ってもらった方が攻撃しやすくなる。
一瞬全てのモンスターのヘイトがタントからハルに移ったが、タントが即座に対象指定のヘイト上昇スキルを使うことで再び自分の方を向かせた。
「き、切原さんたすけて!」
まだ低層で、モンスターより敏捷値の高いハルの方が速い。
――が、それはそうとして人間サイズの昆虫に襲われるのはパニックホラーでもなければ耐えられないはずだ。
タントに一瞬目配せをすると、頷かれた。とりあえずタントの方を放置し、ハルに向かって壁を這うモンスターを一匹ずつ潰していく。
「――ッ」
壁を蹴り抜く勢いで三日月蹴り。
ムカデのようなモンスターは一撃で頭を潰され絶命し、壁から足を引き抜く勢いで足元を通り過ぎようとしていた蜘蛛型モンスターを踏み潰した。
残りは抜けてしまったので、来た道を逃げるハルを追うモンスターを後ろから一匹ずつ潰していく。
素足の足先には、甲虫の殻を踏み抜き肉体を構成する何らかの液体が飛び散る気色の悪い感覚が残るが、だからといって靴を履いて感覚を鈍らせるわけにもいかない。
手にはキツく巻いたバンテージ。ダンジョン産の布で作られたそれは、生身よりほんの僅かに耐久力を高める。
寸止めなどせず壁ごと殴っても手が痛まない程度には緩衝材になってくれるので、昆虫を潰す感覚はもう気にしないように殴り、蹴り続ける。
「ふぅ……」
ハルに向かっていたモンスターを全て処理し終え、ようやく息を吸う。
肺に限界まで酸素を溜めたら、息を止め反転しタントの方へ。盾や鎧を使い10体以上のモンスターから攻撃を受け続けるタントは、目だけで「遅い」と文句を言っている。
ハルを追っていたモンスターとは違い、思い切り攻撃するとタントごとぶん殴ることになってしまう。
そのため間合いを正確に測り、まずはタントの足元を狙う巨大な芋虫をローで蹴り飛ばした。
芋虫が壁にぶつかるのも見ず、蹴り足を振り上げて次の虫に踵落とし。2体潰し、ジャンプした巨大コオロギに掌底をぶち当てる。
――全て、頭部狙い。
確実にクリティカルヒットを狙いに行くには、常に対象の急所を狙わなければならない。大抵のモンスターは、幸運補正だけでクリティカル率を100%にすることは出来ないのだ。
ウーズのように特定の形状を持たないモンスターには急所判定がなく、幸運補正だけでクリティカルヒットになるが、生物を模したモンスターは大抵予想通りの位置が急所となる。
クリティカルヒットを一度でも逃してしまうと『度重なる幸運』の連続クリティカルヒットカウンターが停止してしまうし、もしも一撃で葬れなかったら、上限の10倍まで上昇している最強クラスのダメージ上昇スキル、『唯一無二の一撃』が初期化されてしまう。
故に、常にクリティカルヒットを出し常に一撃で倒し続けなければならないビルド――それが、掲示板で『ワンターンキルオ』と呼ばれた俺の戦い方である。




