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トワレと別れ、何故かそのまま俺の家に集まることになった元『ライデン』一行。
ハルの家のようにワンルームのアパートではないが、流石に5人も集まると狭い。
「おいキルオ、なんでまだこんなボロいアパートに彼女と住んでんの?」
「…………彼女ではないが」
溜息交じりのエミは、もう公安の田中ではなく昔馴染みのエミへと変わっていた。顔は整形でもしたのだろうか。それとも老けただけか? わからん。
ハルが黙って俺の二の腕あたりをぎゅっと握る。痛い痛い。そこは鍛えてても痛いの。
「はぁー、そういう初々しいのやめてくれ腹立つ。つーか女子高生って犯罪だろ。適当に性的暴行あたりで余罪ぶちあげて現逮すんぞ?」
「おいやめろ国家権力」
「俺はぁ! ハニトラ対策で彼女作るのも禁止されてるし知らん女とセックス出来ねえし結婚は偽装結婚オンリーで既にバツナナだぞ!? そんな時に女子高生とイチャコラしやがってキルオテメェこら舐めてんのか!?」
いきなり思いのたけを叫びながら胸倉掴んできたが、残念ながらエミの体格で俺を動かすことは出来ないのだふはははは。
ライカは爆笑してるしハルは若干誇らしげだ。タントは興味なさそうにスマホを弄ってる。おい妻子持ち一人だけ余裕ぶってんじゃねえぞ。
「いや彼女ではないんだが?」
「そうですよ! 婚約者です!」
前からエミが掴みかかってくるのに対抗したのか、ハルは後ろからコアラのようにしがみついてきてそう言った。
「したか!? 婚約!?」
「してます! 18歳になったら結婚しましょうって言いました! 拒否られなかったのであれは婚約です! 指輪とか貰ってないので終わったら買いに行きましょう!!」
背中に揺れる宇宙が当たっている――指輪なんていくつでも――いや戻ってこい俺。
「はー痴話喧嘩やめろ。それ以上俺の目の前で同棲したてのイチャイチャカップルみてぇなの見せられたらなんかの条例違反で現逮したくなる」
「なぁこいつに国家権力持たせんの間違いじゃねえ? つーかいつの間に公安なんかやってんだよ。そんな正義に燃えるようなキャラだったか?」
正直、俺の認識しているエミは軽薄な人間で、正義とは真逆――自分の快楽のために生きているような男だったはずだ。
それが警察官に、よりにもよって公安になってるなんて正直驚いた。両親から親戚から警察官の多い俺だが、エミのような人間は一人も居ない。警察官なんて男も女も大体ゴリラだ。
「公務員試験片っ端から受けたけど警察しか通らなかったんだよ」
「……こんなん警察にして本当に大丈夫なのか我が国は」
「大丈夫だっつーの。むしろ、正義実行! みたいな志望動機で警察になる奴とかイマドキ居ねーよ。警察なんてモンは、自分より弱い奴を棒で殴りたいだけのクソ野郎がなる職業だ」
「偏見酷いな!?」
「そんなわけで弱い奴を棒で殴り続けてたら上に認められて何故か公安になっちまった」
「馬鹿だろ!?」
あ、いやでも思ったより昔のままだった。こんなんでも公安やれてるってすごいな日本。
「……あのエミさん、やっぱり8年前私の家来てましたよね?」
「ん? あー悪い、忘れた。あの頃は公安じゃなかったし日に百軒以上被害者家族に聞き取り行ってたからな」
「……そうですか」
若干ハルがエミを見る視線が敵を見る視線な気がするけど大丈夫だろうか。あの、悪い人だけど敵じゃないよ? うん、まぁいい人ではないと思う。特に女には。
鎌倉事変の被害者家族は被害者の数以上に膨大な数になったから、当時は全国の警察官が集められたなんて聞いたことがある。所轄警察だけでは数万にも上る被害者家族からの聞き取りなんて行えないからだ。
家出や事故、黙って旅行に行ったケースなど、他の行方不明者を鎌倉事変の被害者に含めないためにも正確な情報を調べる必要があったと、両親や太蔵兄さんから聞かされた記憶がある。エミが警察官として聞き取りに行った中に、杼木家もあったということだろう。
「あ、そういえば聞き損ねてたんだけど、なんで召喚石なんてライカが持ってたんだ?」
「え? 一回忌の時だったかな? タント君が自分で持ってきたのよ。いざという時は使え、団長の代わりに俺が助けるーって。だからキルオ君に渡しちゃったんだけど」
「「だから……?」」
思わず俺とタントの声が被った。今の話の流れどうなってんだ?
「仲直りついでにボスまで倒しちゃったっていうから笑っちゃったわ。あー渡しといて良かったなーって」
「俺としてもあんな使い方されるのは想定してなかったんだが……」
そんな大事なもんをあっさり他人に渡すライカはどうかと思うが、それを言えば妻子持ちなのに他の女を命懸けで守ろうとするタントもどうかしてんな。
「で、キルオはまだワンターンキルしてんの? 探索ログ見てたらビビったわ。川崎入った中でボス倒せそうなのキルオくらいしか居ねーんだもん」
「あー、タントに貸してた『金剛体』回収しつつタントの金剛体も借りて、『度重なる幸運』のカウンター進めた」
「……あれ、『金剛体』って制限時間かなり短くなかったか?」
「7秒だな」
「合わせて14秒か。……で、200回殴ったってことか?」
「失敬な。いくら俺でも14秒で200回も殴るのは無理だ。ボスに合うまでにもカウンター進めてたし、何なら30発くらいは蹴りだったぞ」
「「「…………」」」
明らかに変な空気になった。いやでも威力を気にせず殴って良いならそんくらい出せないか? 唯一同意してくれそうなタントも柔道家だからパンチはしないんだよなぁ。
「敏捷補正とか連続攻撃スキル使ったんなら分からなくもないけど、キルオ君ってそのへんのステータス初期値だし攻撃スキル持ってないのよね」
「あぁ。身体の動きが中と外で違うと慣らすの大変なんだよ。その点、攻撃ステータスだけなら上がってもあんまり違和感ないからな」
「そこには同意だが、……いやそこだけだな。キルオの耐久じゃ生身でモンスターと殴り合うことになる。俺には想像も出来ん」
「生半可な耐久値とか回避補正じゃどうせ食らったら死ぬだろ。ならもう気合で避けるか食らわないよう立ち回る方が楽じゃないか?」
タントは溜息で、ライカは「紙装甲仲間だもんねー」と軽く同意してくれた。ちなみにハルも紙装甲仲間だが、何故かそこには同意してくれない。
「つーかタントもタントだ。お前川崎に入ったログねえから誤魔化すの苦労したんだぞ? ちゃんと正面から入ってログ残せよ」
「……それは俺が悪いのか?」
明らかに部屋着で召喚されたままボスと戦うことになったタントが困惑している。それは悪いと思ってるよ、ホントだよ。でもまさか人間出るとは思ってなかったんだ。許せ。
レストランで食事は済んでいたので、コンビニで買ったアルコールを各自飲みながらくだらない話をしていると、紙パックのオレンジジュースを飲みながらそれまで静かにしていたハルが「あの……」と小さく主張する。
「……えっと、新しいダンジョンの話とか、しなくて良いんですか?」
「んーと、実は俺達、こういう再構築後の即攻略は経験あるんだよ」
「そうなんですか?」
「まぁ成功したことないけどなー」
コンビニで買ったやっすいワインをラッパ飲みしながらエミが言う。台無しだよ。
「そ。エミの言う通り即攻略なんてまず成功しない。たしかライツが一度やったんだっけ?」
発泡酒をちびちび飲んでいたタントが、苦そうな顔をして頷く。
「……3年前の荻窪だな。あの時は持ち込み食料もなくなって、あと半日ボスに会えなかったら撤退するところだった。死者も出たし、あれ以来即攻略の話は出なくなった」
「それ何日がかり?」
「12日だ」
「……つまりそういうこと。『ライツ・アクス』規模の探索者がチーム組んでやっても、攻略にはそのくらいかかるものなんだよ。だから俺もこいつらも、一発で入って一発でボスまで行けるとは思ってない」
「……なるほど」
ハルが疑問に思ったのも当然だ。これからダンジョンを貸し切りで攻略することになっているのに、そのダンジョンの話を一切しない理由。
それは単純な話、しても無駄だからだ。
「普通のダンジョンは攻略するのに8年くらいかかる。それも自由入場でそれだから、今回もそう簡単にはいかないと思うけど――」
少しくらい情報を持ってるであろうエミの方を見て言うと、エミはスマホを弄り「あー」と声を漏らした。
「あんま期待すんな。まぁ今回のルールだとそこまで複雑なダンジョンは組めないはずだ」
「そのルールって何だ?」
「言えねえ。つーかいや、正しくは知らねえ。俺のとこまで来た資料では、8月いっぱいが拘束期間になってる。どんだけ長くても一月ありゃ終わるって上が判断したってことだ」
「そういえば聞いてなかったけど、競争なのか? それともただ攻略するだけか?」
「競争だ。世界17か国で準備整ったら一斉に始まる」
「いや先に言えやそれ」
「言ったところでどうしようもないだろ」
「それはそうだが……」
まぁ、エミの言う通りではある。恐らく『ライツ・アクス』でなく『ライデン』が選ばれたのは、人数の問題、それと未知への慣れであろう。
インターネットでの情報収集が容易になった現代の探索者は、完全に0からダンジョンを攻略するのは稀である。
どこかのダンジョンが完全攻略されると、再構築までに探索に慣れたパーティ、戦闘に慣れたパーティなどが複数集まり大規模なグループを組み、行けるところまで行き情報を集め、それをインターネット上に流すのが主である。
だが、優秀なパーティが集まったところで、そのまま攻略してしまうケースがあるかと言えば、ほぼ不可能だ。
インベントリでダンジョン内での荷物の持ち運びが容易になるとはいえ、インベントリが機能するのはダンジョンに関連するものだけ――つまり、人間が生きるために必要な水や食料は手で持ち運ぶ必要がある。
どこまで長いか分からないダンジョンだ。先遣隊は精々2,3日分だけ食料を持ち込み大まかな情報を調べたら、一般のパーティに後を任せるのが主流となっていた。
「ルール上5人までってことなんだよな?」
「あぁ、途中でメンバー変更するのは問題ないらしいが、同時に入るのは5人までって制限がある。まぁ出入りも可能だし、日本が最下位になった時何があるかは知らん」
「知らんのかい」
「つーか『ライデン』を推薦したのも俺じゃねーんだよ。上は俺が元メンバーってこと知ってるだろうが、交渉人として都合が良さそうだから選ばれただけだと思ってる」
皆が「へー」と声を漏らしていると、絶対外では飲んでなさそうなストロングチューハイの3本目を開けたライカが「ならさ」と口を開く。
「キルオ君、エミ君じゃなかったら受けてた?」
「ん? あー、どうだろうなぁ。人足りんから断るとか言ってたかもな。正直俺のパーティ、慣れてない奴なら居ない方がマシなんだよ」
「キルオのスキル構成を意識すると、どうしてもな」
「えっと、他の人が攻撃しちゃダメだから……ですか?」
俺のスキルを活かすため、通常の壁職とは違った立ち回りをすることになっていたタントが溜息交じりに漏らすと、ハルが疑問を投げかける。
「そうだ。普通はパーティで一人しか攻撃しない方が強いなんてことはないんだ」
「ただ、キルオ君は低層だろうが深層だろうがワンパンするからねー」
「かなり奥まで進んでんのにキルオがミスって火力初期化しちまって泣きながら帰ったりな」
エミに痛いところを突かれ「う」と声を漏らすと、元ライデンの3人が笑う。
一緒に活動していたのはもう17年も前なのに、つい最近のことのようだ。
たった3年とはいえ、命を預けあったメンバーである。探索がエンターテインメントとなった現代では、あまり考えられない感覚なのかもしれない。
少しずつ酔いが回ってきて笑いの沸点が低くなってきた大人達と違い、ジュースしか飲んでないハルは冷静だ。
「えっと、『ライデン』ってパーティは切原さんがアタッカー、ライカさんがサポート、タントさんがタンクで、亡くなった先生が回避タンクですよね?」
「そうそう」
「…………エミさん何してたんですか?」
ハルは上目遣いでエミを見る。どうだキツいだろ。女子高生の視線って結構怖いんだぞ。




