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「あー、ライカも呼ばれたのか」
「そうよー。そっちは大変だったみたいね」
「まぁな。タントの方は予定、大丈夫だったのか?」
「あぁ。どっかの誰かが川崎をいきなり完全攻略したのもあって、しばらく様子見だ」
「そうか。にしても、こんな高級レストランに何の用なんだか」
「待ってるのも面倒だし勝手に頼んじゃって良いのかしら?」
川崎ダンジョンを攻略した翌日、俺達が集められたのは、赤坂にある高級ホテル内のフレンチレストランだ。
ドレスコードがあるような店に、多少は慣れた30代が3名に、少々場違いな女子高生が一人。
「……ハル、大丈夫か? 水とか飲むか?」
「だ、だだだ、だいじょうぶです」
「…………そうか」
明らかに大丈夫じゃなさそうだが、まぁ仕方ないか。
女子高生、しかも母子家庭で貧乏生活をしているようなハルが、高級レストランで食事した経験などあるはずもない。ライカから借りた服を着ているが、少々、いや結構胸がキツそうだ。張り裂けないよな?
「この面子集めて、お国は何がしたいと思う?」
「ダンジョンかしらね」
「ダンジョンだろうな」
「だよなぁ……」
川崎ダンジョンを攻略して帰宅した俺を待っていたのは、白いセダンと怪しい男。
男は公安を名乗り、翌日の18時にこのレストランに集まるよう言ってきたのだ。どのような要件か答えず、俺達と話がしたい人が居る、ということだけ教えられた。
「PMCの探索者、歌手に公務員、……もう共通点は、『ライデン』しかないもんな」
「あっ懐かしいね。タント君が先生と一緒に決めたんだっけ?」
「他にまともな選択肢がなかったんだ……」
タントは小さく溜息を吐いて返した。しばらく会わないうちにかなりデカくなってるな。
「あ、あの、『ライデン』って……?」
「昔、ここの3人と、あと2人で組んでたパーティ名だよ」
ハルは「そうなんですね」と返すと、シームレスにテーブルの下でスマホを操作していた。スマホは持ち込んだんだね。ポケット一つなさそうな服だけど何が入るのか分からないほど小さなポーチが膝の上に置かれている。スマホ一つ入れただけで満杯になりそうだ。
「Wikiにはないですね……」
「まぁ当時Wikiなんてなかったからな」
「ネットニュースとかにはなってたんじゃない? でももうアーカイブ残ってないか」
「……17年前だからな。精々掲示板のログくらいじゃないか」
「んー、それにしても出ませんね。」
ハルが首を傾げている。全く出ないのは確かにおかしい気がする。当時はエゴサーチをした経験だってあるからだ。ライカの言う通りもう消えただけなのかもしれないが。
「今から17年前の12月頃までに、多くのサイトに削除申請があったんですよ」
そう言いながら現れたのは、純白のスーツを着た、明らかにうさんくさい男だった。
無言でタントとライカの方を見たが、首を横に振られた。知り合いではなさそうだ。
「はじめまして。公安五課にて異世界折衝を担当している、田中肇と申します。この度はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
目を細め、うさんくさい笑顔で男は頭を下げる。
今の所作だけで、こいつの身長が160cm程度しかないことが分かった。10cm以上のシークレットブーツを履いているのは、身体的特徴を覚えられないためだろうか。
田中を名乗った男の薄茶色の髪は整えられておらず、明らかに乱したセットをしている。まるで、あえてうさんくさい男を演じているようだ。
ポケットに入れていたスマホの通知バイブレーションが鳴ったのでテーブルの下で開くと、ハルからのメッセージ通知だ。『この人見たことがあるような気がします』、と。
手早く返信し、他のメンバーの様子を伺う。
誰も口を開かず、ライカに至っては田中のことなど興味なさそうにテーブルに肘をつき、他のテーブルを眺めていた。
「昨日、川崎ダンジョンが攻略されたのはご存知ですよね?」
田中の視線は俺を向いていた。テレビクルーに映されていたタントは当然として、何故ライカでなく俺を見て言うのか。
「まぁ、その場に居たからな」
「攻略したのがあなた達ということは、探索記録を見たらすぐに分かりました。20年ほど前に活動していた伝説の高校生パーティ『ライデン』のリーダー、キルオさん」
「……俺はリーダーなんて名乗った記憶はないんだが」
昔も同じようなことを聞かれたことはあったが、リーダーを名乗ったことはない。
他のメンバーが無口なタントと美人なのに何考えてるのかよく分からないライカと騒々しいエミ、妄想癖があって慣れないと何喋ってるかよく分からない先生だったので、俺が矢面に立つことが多かっただけなのだ。
「17年ほどダンジョンに入っていなかったあなたが、近頃ダンジョン攻略に戻っているというのはこちらの調べにより分かっております。そちらの女性――杼木遥さんと同居していることも、勿論調査済です」
「保護条例で引っ張るなんてしょっぱい真似を、公安がするわけないよな?」
「まさか。家出少年の保護は生安の仕事ですし、そもそも遥さんは家出中ではありませんよね。母親から許可を得て交際中の男性の家に泊まっているだけで、そこに未成年淫行が確認されなければ警察にあなたを逮捕する権限はありませんよ」
他人から「交際中」なんて言われたら、いつものハルならノって何か口走るはずなのに、終始無言、無表情のままだ。よほど田中を警戒しているのであろう。
公安なんて、一般人からしたら闇の組織みたいなものだ。その反応も仕方ない。
「それに私、あなたのお父様にはたいへんお世話になっております。息子さんを余罪で逮捕なんてしたら、二度と立ち直れないくらいにボコボコにされてしまいますよ」
「……こんなとこでも親父の話か」
「あぁ、あまり仲がよろしくないというのも事実でしたか」
「まぁな。親らしいことされた記憶ねえし」
術科特別訓練員である父の仕事は、もっぱら警察官の訓練だ。
慣例として機動隊に所属しているが、機動隊として出動することは滅多にないらしい。
公安も訓練対象だったんだなというどうでもいい知見を得たが、この話を膨らませると面倒なので切っておいた。
「親父の話は良いだろ。とっとと要件を言え」
「失礼しました。あなた達『ライデン』に関する情報を今調べようとすると、不自然なほど何も出て来ません。当時活動していた関東圏の探索者なら誰しもが知っているパーティであるにも関わらず、です。そこで追加調査をしたところ、とある人物により『ライデン』に関する掲示板のコメントやニュース記事に削除申請があったことが確認されました」
「……で?」
そんなことをしそうなのは、間違いなく先生だ。生徒達を守るために陰で活躍してるって自称してたからな。いや影で活躍すんなら自慢すんなよと何度突っ込んだことか。
「ですが、人々の印象に残ったものを記憶から消すことは出来ません。総合格闘家の家に生まれたリーダー、切原郁夫ことキルオ。『ライツ・アクス』副団長、丹東至ことタント。更に世界的有名な歌手RIKKAこと嘉手納来夏、江見翼ことエミ、伊賀宏尚ことモモチ。この5名が『ライデン』のメンバーであることを突き止めました」
「……ふぅん?」
そのくらいは市役所の職員であろうと調べられることだ。公安が自慢げに語ることではない。――ただ一人を除いて、だが。
タントの方を見ると、無言で頷いた。どうやらタントも説明に違和感を覚えたようだ。
「で、そこまで調べた公安さんが、俺達に何をさせたいんだ? まさか個人情報を探るのが趣味ってわけじゃないんだろ」
「勿論、ダンジョン探索ですよ」
「……そう言われてもな。学生時代ならともかく、今の俺はただの地方公務員だ。土日くらいしか入れないし、今時俺より強い奴はいくらでも居るだろ」
タントに関して言えば『日本最固の男』なんてニュースやネットで語られているので、このような依頼で呼びかけられるのも当然だ。だが俺やライカは違う。とうに現役を引退しているし、今の最前線を走っている若者の方が絶対に強い。
「いえ、今回の協定に関して言えば、『ライデン』以上に適任のパーティは国内におりません」
そうハッキリ断言されたことで、田中が日本国を代表しているわけではなく、異世界人――編纂者の代理人であることが確定する。
「あぁ、そういうことね」
ずっと黙って他のテーブルを見ていたライカが、田中のことも見ずに呟いた。
ライカの方に目を向けると、ライカが視線を向けていたテーブルにはワイングラス以外置かれておらず、褐色の女性が一人だけ座っていた。
「キルオ君。あそこの女の人、たぶん異世界人だよ」
「は? え、どういうことだ?」
田中の表情が、少しだけ歪んだ。俺には女性が外国人ということしか分からない。
全員に視線を向けられ、驚いた様子の女性が立ち上がってこちらに近づいてくる。うーん、近くで見ても中南米の30代って感じだ。異世界人って言われても全然分からん。
「……彼女は異世界テュアルシア連邦共和国所属の編纂者、ドゥチカ・レイ・トワレさんです」
田中に紹介されたその名は、どれが姓でどれが名前かも分からない。
「はじめまして、トワレです。はじめにごめんなさい、にほんごまだべんきょうちゅう、しゃべるのにがてです」
「はいどうも、切原です。いやキルオって自己紹介すべきなのかなここは」
「よろしくでーす、ライカでーす」
「……タントだ」
ハルだけは緊張しているのか無言。トワレに視線を向けられたが、さっと逸らしていた。
「あなたたちには、トゥルヒピカ――えっと、カワサキ? のあたらしいダンジョンを、こうりゃくしてもらいたいです」
「うん、うん、ちょっとこれ、この人に直接話させて良いの? 公安さん」
「……川崎ダンジョンが近いうちに再構築されます。そこを攻略して貰いたいという依頼が編纂者であるトワレ氏から日本国にあり、『ライデン』が適任だと判断しました」
「ん? あれ、じゃあそこのトワレさんは川崎とは関係ないってこと?」
「キルオ君、どういうこと?」
ライカはいつの間にかウェイターから受け取った赤ワインを傾け、聞いてきた。
「いやだって、その人が川崎の編纂者ならあえて俺達に下請けさせる必要ないよな。難易度下げて組合の探索者に攻略させればいいわけだし。それでも俺達が選ばれたってことは、組合だと都合が悪いか、川崎とは関係ないってことになるだろ?」
ライカは「なるほどー」と言うと、ワインを飲みながらトワレをじっと見ている。
「わたしのくに、テュアルシア。カワサキのくに、トゥルヒピカ。ちがうくにです」
「……、じゃあ俺達にそのトゥル――川崎のダンジョンを攻略させて、何がしたいんだ?」
ちょっと質問が意地悪だったか、トワレは首を傾げて田中に補助を求めた。
「意図まではお伝えできません。いえ、正確にはこちらもそれを正しく理解出来ているとは限らないからです。一つ言えることがあるとすれば、日本国とダンジョンの関係を今のままにしたいのであれば、受けて頂く他ありません」
「んー、なら質問を変える。依頼を受けることは自体は別に構わん。だが命懸けでダンジョンに潜る以上、命を賭けるほどのメリットがないなら断る。国家の威信とかそういうのはさ、一市民である俺にとってはどうでもいいんだよ」
タントとライカ、ハルも小さく頷いた。
探索者は元来、自由なものだ。
昨日は偶然遭遇した徘徊ボスの討伐により川崎ダンジョンを攻略したが、俺とハル、ライカはダンジョンの攻略を目標としているわけではない。
なのに命懸けでダンジョンを攻略しろと言われ、はい分かりましたと頷くわけにはいかないのだ。
「あなたたちがほしいもの、なんでもあげる」
トワレが言うと、田中が明らかに「あ」と言いたげな顔になった。
たぶんこれ、公安からは何を条件にするか決めてたんだろうな。でもトワレ本人がそれを言っちゃったから交渉のカードとして使えなくなったのだ。
「なんでも? ならハルの姉を返してもらおうか」
「あね? ……あぁ、おねえちゃん。んんん、ごめんなさい、わからない。そのこのこと、そのこのおねえちゃんのこと、わたしはしらない」
「鎌倉ダンジョンに飲み込まれた被害者の一人だ。公安はそのくらい調べてるだろ?」
「杼木柚さん――鎌倉事変の行方不明者ですね」
ハルが頷くと、田中はトワレに耳打ちした。
小声でほとんど聞き取れなかったが、田中が喋っていたのは日本語でなかったように聞こえた。ひょっとしたら異世界語だろうか。
「カマクラにダンジョンをつくったのは、ウッスゥアーラ。もう、ない」
「ない?」
「せんそうにまけて、ほろんだ。いまはトゥルヒピカとスアンダトロハのりょうど」
「補足すると、鎌倉事変を起こしたウッスゥアーラという国は、重大な協定違反を犯したので解体され、各国の共同領地として運営されています。ただしトワレさんの所属するテュアルシア連邦共和国は運営に携わっていないため、杼木柚さんの捜索の力にはなれない、ということです。同じ大陸だからといって、北朝鮮の拉致被害者をロシア政府に探せと依頼するようなもの――と言えば伝わるでしょうか」
「…………そうですか」
ハルは小さく溜息を吐いて返した。ごめんなハル、変な期待持たせちゃって……。
「なら、あたしの旦那を返して」
「ヒューイさんを」
ライカのタントの要望が、重なった。二人して顔を見合わせ、小さく笑う。
「ヒューイ……嘉手納比由井さんですね」
二人が頷くと、田中は再びトワレに耳打ちする。トワレはハルの時のようにすぐ否定せず、最後まで田中の説明を聞くと、頷いた。
「しんだひとのたましいなら、さがせる。そのひにうまれただれか」
「魂というが、それは前世の記憶もあるものなのか?」
「それはわからない。さがしてきいてみないと」
「なら良いわ。もし覚えてるなら何してでもあっちから来るでしょ」
「……だろうな」
死者を探せなんて無茶ぶりにも程があるが、どうやら行方不明者を探すことよりは簡単らしい。だが二人の求めている答えではなかったのか、やれやれといった様子である。
田中の視線が、最後にはハルに向く。
ハルの姉を探すという要望は、ハルではなく俺から出したからだ。ハル自身にも願いがあれば、と田中は考えたのだろう。
――だが。
「そちらの世界に、行かせてください」
「あー……」
ハルの要望は、予想通りのものであった。姉を探して貰えないのなら、それを選ぶことは分かっていた。――して、トワレの答えは。
「んんん、それならできる。とびらわたりのかごわたす」
「スキルか?」
「そう、スキル。わたしのくにではかごていう。あなたたちにほんじん、かごおおい。にほんのかみさま、テュアルシアよりすごいちからある」
「まぁ八百万の神って言うくらいだしなぁ」
「やおよろず?」
「800万でヤオヨロズだ。厳密には数のことじゃなくて、何にでも神様が居るって概念だな」
「なんにでも!? すごい!」
トワレはこれまでに見たことがないほどぱぁっと明るい笑顔になった。そうか、やっぱ宗教観が違うとこんな風に感じるものなのか。一神教と多神教でも感覚違うって言うしな。
――なんて思ってたら、トワレが空に向けて何かを喋り出した。日本語ではない。
「……なんか話してないか?」
「……話してるわね」
「……話してるな」
「……話してますね」
トワレは、明らかに誰かと会話をしている。会話相手の声など聞こえないが、どこの誰だろう。あれかな、念話とか? 田中も怪訝な顔をしている。
「日本の神様って、伝承だと普通に会話通じたりするよな」
「でもそれ、最近の話じゃないわよね?」
「だが、これは……」
トワレが話している誰かが何を言っているか分からない。だけど俺達は、トワレが誰かと会話を成立させていることを疑っていなかった。
「いた。ほんとにいた。にほん、すごい」
「あー、ほらやっぱりなんかと話してたよ……」
ウキウキ顔のトワレが、ようやく片言の日本語を口にしてくれた。安心する。
「……話が逸れましたが、トワレさんがあなた――杼木遥さんを異世界に招待する、が報酬ということで良いのでしょうか?」
ごほんとわざとらしく咳ばらいをした田中が、そう提案する。
だけどハルは何も言わず俺の方を見た。タントの表情は変わらないが、ライカは指でバツを作っている。
「それはハルの願いだろ。俺達は無償労働か?」
「……では、何を提供すれば受けて頂けるのでしょう?」
「金」
タントが噴き出し、ライカは笑い、ハルはきょとんとした顔をこちらに向ける。
「いや、金があれば大抵のものは何とかなるだろ。だから金だ。勿論日本円で」
「……畏まりました。では、着手金を皆様の口座に振り込ませていただきます」
スマホに銀行アプリから振込通知が届く。いち、じゅう、ひゃく――
「2億5000万か。大盤振る舞いだな」
「に、におく!?」
ハルが狼狽している。ライカとタントの様子を見るに、恐らく同額振り込まれていたのだろう。
ハルは銀行アプリをスマホに入れていないのか通知が届いていないようだが、恐らくハルにも振り込まれている。キリの良い10億を4人で割った金額だからだ。
「でもこれだけじゃスキル買うには足りないから、勿論経費として請求して良いのよね?」
ニコニコ顔のライカが田中を見てそう言った。田中の笑顔は引き攣っている。うん、そうだよね、俺みたいな小市民にとっては違うけど、ライカはそう思うよね。
「……購入前に出品番号を教えて頂ければ、こちらで代理購入致します」
田中から言質を貰い、ライカがぐっと親指を立ててきた。これでスキル買い放題だ。やったぜ流石ライカさん! 2億5000万で喜んでる俺とは違うぜ!
「じゃあ、最後に条件」
「……他にもあるのでしょうか?」
「ご存知、『ライデン』は5人パーティだ。先生のポジションはハルが代用出来るとして、あと一人足りないんだよなぁ」
田中の表情は変わらない。うさんくさい表情のまま、田中は言う。
「もう一人必要というお話でしたら、皆さんと同じ条件を提示出来ます」
「ふぅん? それは誰でも良いのか?」
「えぇ。とはいえ期日までそこまで時間はありませんが――」
「あぁ、探すつもりはない。――おいエミ、お前も一緒に潜れ馬鹿。いつまで猿芝居してんだ」
公安の田中にそう伝えると、彼はピクリと眉を動かした。
「何を、おっしゃってるのでしょう?」
「あー、まだとぼけんのね。まぁ顔も声も名前も違ったからライカは気付かなかっただろうが、あんたらが先生の探索者IDに書かれた名前を知ってんのはおかしいんだよ」
タントは無言で頷いたが、ライカは首を傾げている。
「確かに『Dan・Co』制定前の情報を探すのに苦労はしましたが――」
「違う違う。先生が死んでるから調べるのが難しいって話をしてるんじゃあない。……あの人が使ってるIDは、別人のものなんだよ。確か弟のだったかな?」
「……どういうことでしょう?」
「先生はなぁ、ダンジョン不適合で審査を弾かれてるんだよ。今だったら他人のIDでダンジョンに入るとかは出来ないだろうが、当時はまだザルだったからな。だからな、後から調べた公安が、先生とモモチを同一人物と断定することは絶対出来ねえ」
「…………」
田中は少しだけ表情を歪めたが、すぐに無表情になる。
しばらく硬直した後、俯いて大きな溜息を吐いた。髪を指でガシガシ掻き上げて、顔を上げた。
「俺そんな話聞いてねーけど?」
表情が変わった。顔も声も違うが、この喋り方は間違いなくエミのものだ。
「だろうな。知ってるのは俺とタントだけだ」
タントは「あぁ」と答えた。ライカは「へぇー」なんて声を漏らしている。
「……クッソ、最後は信頼かよ」
「いや違う。信頼じゃなくて確信だ。友達が居ない俺とタントなら言える相手も居ねえって話だろ。頭まともなら違法行為を生徒に話せねーよ」
「あー、もうそれでいいや。で、なんだった? 人が足りないって話か? そんならライツあたりから一人拾ってこれば良いだろ」
公安の人間とは思えないほどラフな口調になった男――元パーティメンバーのエミは、放置されたトワレが困惑するのもお構いなしに姿勢を崩し、椅子に座って足を組んだ。
「断る」
タントが即答する。
正直な話、エミのポジションは誰でも代用出来る。それは探索者をずっと続けていたタントが一番分かっているだろう。だからこそこう答える。
「死なば諸共だ。お前だけ逃がさねえぞ?」
エミは露骨に頬をピクピクと動かし、何と言えば逃げられるか、何を提示すれば回避出来るか考え――




