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『本日、30年間一度も攻略されなかった宇都宮ダンジョンを、歴史上はじめて攻略した『ライツ・アクス』の面々がダンジョンから帰還しました! 凱旋です!!』


 ダンジョンに向かう道すがら、車内で流れていたテレビがそんなニュースを伝える。


「え、マジか」

「すごいねー」


 俺とライカが驚きのあまり声を漏らしたが、ハルは宇都宮ダンジョンを知らないのか、首を傾げている姿がルームミラー越しに映る。


「あの、宇都宮って……?」

「えーと、赤羽と宇都宮、この2ダンジョンは俺の代から一度も攻略されてなかったんだよ。そのうち一つ、赤羽はあと10年くらい攻略にかかる見込みだったんだけど、最深部が何階かも分かってなかった宇都宮が今攻略されたってニュース」

「……なんか、凄いんですね?」

「うん、まぁそんな認識で良いよ」


 時代の変革に関われなかった少しの寂しさを感じたのは、きっと俺だけじゃないはずだ。


「切原さん達は、どこかのダンジョン攻略したりしたんですか?」

「したぞー、八王子と川崎の2か所」

「2か所も! それ、結構簡単――なわけじゃないですよね」

「そうねぇ、ちょっと命懸けだったわ」

「まぁ命懸けは最初からだけどな」


 ライカが「それもそっか」と笑って返すと、ハルはぽかんとした様子であった。

 『帰還』も『送還』もなかった時代は、疲れたから帰る、怪我をしたから帰る――という状況でも気を抜けなかった。

 低レベルの階層すら自分たちのような紙耐久にとっては命懸け、集中力を切らしたら死ぬ、地獄の行軍となるからだ。

 レアスキルを見つけ、ルンルン気分で帰宅中の上級者パーティが中階層で全滅――なんてニュースは、当時別に珍しくなかったものである。


「ところで、今日はいつまで続ける?」

「あー、俺明日から普通に仕事戻るから、夕方くらいには切り上げたいとこだが」

「……ハルちゃん置いて?」

「…………いや、置いてくつもりはないが」

「ねぇねぇハルちゃん、キルオ君おうち泊めてくれるって!」

「えっホントですか!? 色々買ってかないと! あの、私洗面台に彼女用の歯ブラシあるのに憧れてるんですけどもう買っちゃって良いと思いますか!?」

「良いわよ良いわよ! 何なら明らかに女物の化粧ポーチとか置いてくのも良いわね! 威嚇になるわ!」

「威嚇!? 誰への!? つーか人んち泊める前提で話すな! 帰らせるか泊めてもライカの家で良いだろうが!」

「えっ私の家とか無理よ。それにハルちゃんの家今ヤリ部屋になってるんでしょ?」

「そこに居るの片方俺の親戚だし、もう片方ハルの肉親だからそういう生々しい話やめない? つーか普通に拒否られてハル悲しんでるから説明したげて?」


 明らかにしょげた様子のハルが鏡に映ってしまったが、運転中なので残念ながら慰める手がない。

 いやたぶん隣に居ても撫でるとか出来なかったと思うが。男の勘違い行動ナンバースリーあたりに『いきなり女の頭を撫でる』があるの知ってんだぞ俺は。


「あっハルちゃんごめん違うの。あたしのマンション、あのへんで数少ないセキュリティ高いとこだから他にも芸能人何人か住んでて、常にバズーカみたいな望遠レンズついた週刊誌のカメラマンに狙われてるのよ」


 ちょっと想像してない理由に思わずハンドル操作の手が緩む。対向車居なくて良かった。


「こえぇ……。でもカメラマンがライカ狙いじゃないなら、仮に変装バレたとこでハルは女だし大丈夫じゃないのか?」

「…………私が未婚な理由、同性愛者(レズビアン)説あるの知らない?」

「……マジ?」

「マジです。実はちょっと信じてました」


 ライカって高校卒業してすぐ結婚してたから、何なら未婚の設定すら忘れてたが?


「私全然普通にヘテロなんだけど、テレビで出した頃から男の影皆無だし、普段から女の子と絡むことのが多いと、どうしてもそういう噂が立つ時代なのよ。で、そんな女が女子高生家に連れ込んでるの撮られたらどうなると思う?」


 ゴクリと生唾を飲み込んだ。流石にゴシップに詳しくない俺でもどう描かれるか分かる。


「週刊誌発売の翌日にはハルちゃんの学校名もクラスも名前も部活も交友関係も何故か全部事細かにインターネット上に書かれるようになるわよ。キルオ君責任取れる?」

「……ならしゃーない。俺がホテル代出すか。さっきのとこみたいなたっかいとこは無理だけど、ビジホ1か月くらいなら――」

「何言ってるの?」

「何言ってるんですか?」


 後ろから二人分の手が伸びてきて俺の首に絡まる。

 えっ普通に怖いんだが? 抵抗できない運転中の車内で殺人未遂事件起こすのやめない?


「女子高生一人ホテルに泊めるの、危ないと思わない?」

「思います…………」


 保身ばかり考えてハルのことを全く考えていなかった。

 確かに、どう考えてもそれは怖い。キッチンすらない安ホテル泊だと毎食外食することになるし、そんな何度も何度も一人で外を歩いていたらいつ犯罪に合うか分かったもんじゃないし、時間によっては補導される。

 ハルはまだ15歳だし、外見だけならかなり軽薄そうに見える。


 ――あれ、詰みじゃね?


「じゃ、今日は早めに切り上げてそっからキルオ君ち改造しよっか」

「はいっ!」

「あれっ俺の許可は?」

「10年以上前に行ったきりだから場所は覚えてないけど、グラスも箸もお皿も一人分しかなかったのは覚えてるのよね。今もそうでしょ?」

「それはそうだが……あの、俺の許可は?」


 なんか透明人間にでもなった気分だ。つーかライカ、記憶力凄いな。俺の家で集まったのなんて一周忌の時が最初で最後だろ。


「ならそのへん揃えて、うーん流石にベッド置くスペースはないわよね。キルオ君床に落とすとしても新しい布団セットくらい欲しいし……」

「私はベッド一つでも構いませんけど……」

「ねぇ俺の許可は? 俺の声聞こえてる?」

「ハルちゃん。……夫婦でもベッドは二つあった方が良いの。PMSでなんか気分じゃないとか、喧嘩中とか、割と色々あるのよ」

「そ、そうなんですね……参考になります!」

「あのー……」

「だからとりあえす寝具一式、あとたぶん冷蔵庫も男の一人暮らしとか調味料とお酒と痛みかけのじゃがいもくらいしか入ってなさそうだし、買い物もしなきゃね」

「はいっ! お料理得意です!」

「まだ若いのに偉いわぁ。私なんて未だに肉じゃが作れないわよ」

「じゃがいもは痛んでないし、なんなら玉ねぎもあるぞ」

「誤差よ」「誤差ですね」

「誤差かー」


 ――結局、その日のパワーレベリングは昼過ぎには切り上げとなった。


 買い物の前にシャワーを浴びたいとハルが言うので銭湯でも連れて行こうとしたところ、ライカが「家にあるもの確認したいから先に家ね」と言うので俺の家が目的地となった。


 その後は買い物全てを近くのイオンで賄うことが出来たので、車に入らないほど大量に買い込んだ割に帰宅はいつもより早い。まったく、イオン様様だ。

 ライカはタクシーで帰ると言うので、家に二人で残されることとなった。空気読むな未亡人。

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