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「あー、キリ良いとこまで進みたかったけど、もうこんな時間か……」
ダンジョンを出て駐車場でスマホを開くと、22時を回っていた。戦闘中に余計なことを考えて集中力が落ちるのを避けるため、時計を見ないようにしていたのだ。
「じゃ、明日だけど」
こっからどうすっかなと考えていると、車内で手早く着替えたライカが窓から顔を出して言う。
――あの、奥で着替えてるハルが見えるから今開けるのはやめてやれ。
「明日? 時間大丈夫なのか?」
「うん、水曜にブランドの打ち合わせがあるからそれは出たいけど、番組の収録は土曜だし、生放送の予定もないし全然空いてるわよ」
「大人気歌手がよ……」
「売上とトレンドは違うのよ。そりゃあイマドキの子よりあたしのが稼いでるけど、それはそうとしてテレビが使いたかったり、ネット番組に呼ばれるのは新しい子なのよね。トレンドに乗れないオバサンは悲しいわ……しくしく……」
「泣き真似やめろ。ま、そういうもんか」
「そういうもんよ。あ、ハルちゃんセクシーアピールもう大丈夫?」
「はい……一瞬も見てくれないのでちょっとショックでした……」
「意気地なし」
「俺は犯罪者になりたくない……」
外から見られないよう窓の前に立ちずっと車に背中を預けていたのでライカに背中をちょいちょいされてくすぐったかったが、明らかに覗けば見えるところでハルが着替えていたので、流石にそちらに視線を向けることは出来なかった。
「ハル、遅くなったけど連絡大丈夫か?」
「ハルちゃん外泊許可貰ってるわよ?」
「は?」
思わずそちらを振り返る。コクリと頷いてるハル――うん、着てた。良かった。
ってそうじゃなくて、外泊許可? いつ? 誰から?
「ハルちゃんのお母さんから、娘を宜しくお願いしますーって、ほら」
ライカが見せてきたスマホには、メッセージアプリでハルの母親と超仲良さそうに話しているログが残されていた。いやお前、どこまで手伸ばしてんだよはえーよ。
「……外泊って、どこで?」
「キルオくん家」
「行きたいです!」
「片付けてないから流石にやめてくれ……」
俺の部屋は、女子を入れられる部屋ではない。いや汚れてるとかそういうのではなく、単純に来客がある想定をされていないのだ。
来客なんて親戚くらいだし、皿や食器どころかカップの一つとして予備がない。男が来る時はコンビニかどっかで何か買ってくので、食器を用意する必要もないからだ。
「えー、見たいわよねー?」
「見たいです!!」
「連れて行かんぞ」
「お父さんに住所聞いて良い?」
「マジでやめろ」
ライカならマジでやりかねん。つーかなんてお前俺の父親の連絡先も持ってんだよ。俺すら滅多なことじゃ連絡しねえのに。
「じゃ、ホテルでいっか」
「ホテル!!」
「ホテル!?」
当たり前のようにスマホで何かを検索しようとしたライカのスマホを窓越しに奪い取り、画面を確認する。
『川崎 ラブホテル かわいい』――うん、止めて良かった。
「おいライカ」
「冗談だって。ちゃんとラブじゃない方のホテル取るわよ」
「分かってないな!?」
「あの、切原さん、母からです」
ライカにスマホを返すと、代わりにハルが新調した自分のスマホを手渡してきた。
どうやら通話状態のようなので、そのまま受け取り耳に当てる。
『切原さん?』
「……はい」
『ラブホテル連れ込んで頂いても全然構いませんよ? そのあたりでオススメなのは――』
「いや紹介しなくて良いですからね? 娘さんをこれから送り届けますね!」
『え? ごめんなさいそれはちょっと。今彼氏連れ込んでるので帰って来られると困ります』
「太蔵兄さん!?」
おいお前何してんだおい。つーか娘帰ってこないからっていきなり家行くか? いや俺は初対面からいきなり家で手料理まで食べたので全然人のこと言えないのだが。
ピコンと自分のスマホに通知が届いたので、ハルのスマホを耳に当てたまま通知を見る。
『TA1ZO:すまんマジで帰って来さすな』――任務了解ッ!!
これで本当にハルを帰らせると、太蔵兄さんはマジでキレる。
100kg超級の柔道家と屋外で戦うのは命懸けだ。道場で武器アリ反則ナシの何でもありならともかく、屋外だと柔道家の攻撃力は2.5倍くらいになる。
本気でコンクリに叩きつけられると受け身とっても骨折れるし、ルール上追撃してこないだけの柔道家は路上戦闘においては受け身した相手に追撃なぞ当たり前である。流石にこんなところで命を賭けて身内と戦いたくはない。
「……分かりました。では、娘さんはお預かりします」
『はい、お願いします。あ、もちろん遥は処――』
慌てて通話を切ってハルにスマホを返すと、ハルとライカは本気で驚いた顔をしていた。
「え、ホントにホテルで良いの?」
「良いんですか?」
「…………あぁ」
家に連れ込むくらいならホテルの方がマシだ。
とある中年カップルの横暴によってハルを家に連れて帰るという選択肢が消滅してしまったことを、二人に説明する気はない。
「……ただし条件がある」
これを吞んでもらえないなら、ハルを連れていく場所がホテルでなくライカの家になる。
俺を守るために提示した条件にはしぶしぶ頷かれたので、結局近場のシティホテルに泊まることになった。
チェックインを担当したフロントの人にどんな関係なんだこいつらって顔で見られたが、もう気にしないでくれ。ギリギリ両親と娘に見えないのか? ……無理か。




