ユウバリ 3/5
『ここまで離れれば聞こえないでしょう。それで、イナバ』
『それはユウバリに聞いたほうがいいでしょう。ユウバリ、あなたはどうして私の名前を聞いて戸惑っていたのですか?』
『え、だって……ううん。私も色々と聞きたいですから、言いますね。私の知っている機巧少女と情報体の知識では、機巧少女の人型は変えられないんですよ』
『……そうなのですか?』
『ユウバリ、この程度の反応ですから気にしなくていいですよ。それに従魔という手続きであれば好みの身体を生成できます。ただし元となる完成された情報体が必要ですが』
『じゃあ、私は機巧少女と同じ手続きで召喚されたってことですか?』
『ええ』
『……』
『ところで、ここはどこなのですか? 日本じゃあないみたいですけど、地球上なのですよね?』
『翠が言った通り、ゲーム世界のベアリアスワールドですよ』
『……やっぱり、私達はどこかに記録されたデータを複製された、AIということですか?』
『それは自分で見つけることですね。そうしなければ納得できないでしょう?』
『……うん、そうだと思います。そうします』
『ひとまず1ヶ月以上の時間が残っていますから、焦りすぎないように』
『うん……。そういえば長門さんがいるって聞いたんだけど、イロハさんは連絡が取れたりしませんか?』
『とれますけど、私よりも楓やイナバのほうが楽に取れると思いますよ』
『ほへ? 楓ちゃん、いるんですか?』
『今は別のフィールドで"アリサ"の訓練を受けていますよ。ただ、楓に頼むのならイナバに頼んでください。そのほうがいいでしょう』
『アリサって、アリサちゃんもいるの!?』
『いますよ。ただ、同じ姿をしていても私達のことは知っていません。私達の世界は、無かった世界です』
『……そういうこと、か。私達は漂流者、それでいいのでしょうか?』
『どうでしょうか。四葉も護も弓弦も、楓もあの子も、皆が何かしらを感じとっているみたいですよ』
『え、どういうことですか?』
『区切られた世界ではなく、なにかしら繋がった世界かもしれないということでしょう。イナバや長門は何か知っていそうですが、話してはくれませんので』
『え、なにか知ってるんですか!?』
『あなたには関係のない話です』
『……ごめんなさい。私も言いたくないことはあるし、簡単に聞いていい話ではないということですよね』
『イロハも、聞き出せないからとユウバリをだしにしないでください』
『そうでもしなければ教えてくれないでしょう? あなたと長門と仁淀と。既に召喚されている中で知らないのが私とユウバリなのですから、連携しなければなりません。仲間意識です』
『そもそも、イロハが知らない事実をユウバリが知っていると思いますよ。あなたは自然消滅できた、数少ない機巧少女ですので』
『……どういうことですか? それではまるで――』
『そういえば、そうでしたね』
『……私が消えてから、何があったのですか?』
『人が皆、眠ってしまって、機巧少女だけが残されました。5年を過ぎたところで耐えきれず、私は命を断ちました。その時に残っていた機巧少女はあまり多くなかったと思います』
『どうして、ですか?』
『それがわかれば苦労はしません。誰1人として起きなかったから、希望が見えなかったんですよ。ただマスターを守るために魔物を倒し続け、そんな日が続けば……心も壊れてしまいます』
『イナバ、どうして教えてくれなかったのですか?』
『なぜ知る必要が?』
『……しかし、知っておくべきことでしょう』
『知ってどうするのですか? あなたは幸運だったと、今感じてしまったでしょう?』
『……』
『イナバさんはさ、どこまで耐えられたの?』
『私も、長門も、仁淀も、最後です。他にも大勢いましたよ』
『皆で、終わったってこと?』
『それを、他の子に言ったら許しませんからね。諦めたあなたが、他の子を侮辱することなど許しません』
『……ごめんなさい』
『いえ、言い過ぎました。ですが、それほどに危ういバランスだったのですよ。長門や仁淀、それと……あと少しでも続けば一気に崩壊していたかもしれません』
『そっか、集まって生きてたんだね……って、もしかして誘ってくれたことあります?』
『1年以後に存在していた機巧少女には、漏れなく誰かが声をかけています』
『そっか……』
『それとユウバリ』
『なに?』
『翠は翠です。なにをもって同一とするかはあなたしだいですが、魂ともいうべき箇所は同一の存在です』
『……え?』
『私の能力……昔で言えば第6感覚ですか。それは魂の情報も読み取れます。眠っていた翠の魂も記憶していましたから、間違いありません』
『……うぅ、ぐす。ありがとう、イナバさん』
『だから今を幸せに過ごしてください。今の日本は魔物がいない世界なのですから、昔のことなんて必要ないのです』
『そっか、魔物がいないんだね。私達も、要らないんだね』
『それはあなたが決めてください』
『あの、イナバ……』
『イロハ、あなたはそこで口を閉じるべきです。意味はわかりますよね?』
『ですが……いえ、そうですね。失礼しました』
『ところで仁淀さんも弓弦総理に召喚されたってことでいいの?』
『そうですよ』
『なんであの人は、こっちでも総理をしてるんでしょうね。まあ最高権力者は違うみたいですが』
『天皇様のこと?』
『人の最高位は天皇様みたいですが、そのうえがおられるみたいですよ』
『人の最高位の上って?』
『守護神イザナミ。魔物のいない世界であって私達、機巧少女よりも強大な力を有する、本物の神ではないでしょうか』
『私達よりも……上? ここじゃなくて、現実で?』
『ユウや楓の反応を見る限り、間違いないでしょうね。仮に魔物が出現しても、ユウバリが知る日本で存在が確認されていた魔物ならば、すべて対応できるでしょう』
『あ、あはは……それは凄いです。本当に、私達って要らないんじゃないですか……』
『イナバ、なぜそんなにも不安を煽るような真似をしているのですか?』
『え?』
『事実を並べていっているだけですが……そうですか、不安を煽っていますか。まあ何も思わないところがないわけではないので、それが原因かもしれません』
『……はぁ。ユウバリ、このゲーム世界は異世界からもログインがあるのですが、そちらの世界には普通に魔物がいます』
『い、いせかい……? いつファンタジーものになったの?』
『最初からファンタジーな世界でしょうに。それであの時の日本では確認されていなかった魔物は数多くいまして、むしろ確認されていたのは弱い魔物ばかりだったというありさまです』
『え、あれで弱いの?』
『ドラゴンジェネラルでしたか、あれがランク4程度です。というか、本物の竜がいますからね』
『半分以下か~。ちょっと、ここで生きられる自信がないかもしれません』
『ですが楓と翠はランク6の魔物を倒せたのですよ? あなたは、そこで待っているのですか?』
『……ずるいな~、イナバさんは。そう言われたらさ、諦められないじゃないですか』
『魔法がありますからね、この世界や異世界には。それに情報アクセサリーの性能が段違いですから、あの時までの知識でも余裕で倒せると思いますよ』
『え、性能上がったんですか!?』
『あの時よりも悪い情報体で、あの時よりも良い結果を出せましたので』
『あ、そっか。四葉は覚えていないんでしたね』
『それにしても、情報体好きは相変わらずですね』
『好きっていうか、翠との繋がりがそれだったから。あの子が興味を持てたのがそれだったから』
『……ユウバリ、少し踏み入った話を聞いてもかまいませんか? 私が秘密にすると言った手前、断ってくれてかまいませんが……』
『それは内容を聞いてから決めます。だから、どうぞ』
『葵は見ましたよね。あの子、見たことありましたか?』
『翠の双子の妹ですよね。いえ、翠の兄弟は兄が1人でしたよ。間違いありません』
『そうですか、ありがとうございます。お礼に適当な情報体の詰め合わせを送っておきますから、今夜にでも翠といじってください』
『え、ありがとうございます!』
『ちょろいですね』
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