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ユウバリ 2/5

「それでは訓練に行ってきます。真下を過ぎても戻らなければ、先に戻っていてください。ただ熱が入っているだけでしょうから」

 

 そう言い残したアリサさんと、苦笑いを浮かべた嬉しそうな2人が消えていく。

 

「あれは熱が入る前提ですね。先に戻ってご飯を作っていてもいいですし、待っていても楽しそうです」

 

 微笑むイナバの口は止まらず

 

「まあ、こちらが終わればの話ですか」

 

 そう言ってにっこりと笑った。

 

「あ、そうだ。ぼくが場所を決めてもいいかな?」

 

「安全であっても少し離れた位置に魔物が出現するような場所ならかまいません」

 

「うん、わかってる」

 

 街中は比較的安全で、外はかなり危険で。

 フィールドをランダムで選んでいた時にたまたま出逢えた、そんな場所を提供しよう。

 

「はいは~い。参加者はこの指とまれ」

 

 そう言って人差し指で天を指せば、ノリが良い皆が指に触れてくれた。

 そして次の瞬間には視界が変わり、コンクリートで彩られた一昔前の住宅街が視界を埋め尽くす。

 さあさあ、何人"増える"かな。

 

「歴史の授業、映像学習で見たことがありますね。たしか20世紀の日本でしたか」

 

 そう言った翠さんだけでなく、皆が興味深そうに周囲を見渡している。

 

「なかなか良い雰囲気だね。たしかに今の街並みにほうがきれいで便利だろうけど、こちらには住んでみたいと思わせる雰囲気があるような気がするよ」

 

「私は、今のほうがいい?」

 

 それぞれの意見が声という媒体によって交差する。

 未知の世界の第一歩、これも魅力の1つなのだろう。

 

「これが魔物のいない世界の街、ってことだよね?」

 

「それは違うよ。ここから少し離れた場所、ところどころ土が抉れてたりする場所には魔物が出てくる」

 

 不思議そうに首を傾げたサリアさんに答えを伝えておく。

 

「異世界との融合? なんか、不思議」

 

 この中の誰が見たことがある光景なのだろうか。

 訓練場のフィールドは、そこに存在していた記憶がなければ選択できない。

 例外はただ1つ。

 

「ユウ、どうやって選びましたか?」

 

「ランダムで引き当てたんだ。なんだか心惹かれる場所でね」

 

 そう言って微笑んでみた。

 判断がつかないといった様子のイナバを見てみたくて。

 

「……まあ、いいでしょう。それよりもさっそく始めましょうか」

 

 そう言ったイナバは白銀の2房を解き、その両方の結び目を使って1つの尻尾を形作る。

 

「イナバのポニテ、初めて見たよ」

 

「初めて見せましたからね」

 

 声音が少しだけ違う。

 雰囲気が少しだけ違う。

 

「とりあえず聞いておきましょうか。あなた達は何が欲しいですか?」

 

 それは皆を見渡したイナバの一言。

 そこにはぼくも含まれているのだろうかと、少しだけ気になった。

 

「難しい質問ですね」

 

「私は……戦う力が欲しい。足手まといになりたくない」

 

「ボクは決まってるからね」

 

 そう言った時雨さんが、ちらりとこちらを向いた。

 

「え、ぼくがほしいの?」

 

「……きみねぇ」

 

 少しだけ顔を赤くした時雨さんは、額に手を当てて呆れた声を出して。

 ちょっとというか、素直すぎるというか。相変わらず時雨さんだと思う。

 

「あはは。イナバ、時雨さんにはぼくから頼み事をしたから、それに必要な魔法から教えてあげてくれるかな?」

 

「ユウが頼み事……ああ、わかりました。必要な魔法を教えましょう」

 

 何も伝えてはいないのだけど、まあイナバなら欲しい魔法をわかってくれるはず。

 そう、漏らしていい情報はここまでだから。

 

「……サリアに翠、迷っているようなら従魔魔法なんてどうですか?」

 

「従魔魔法」

 

「それってユウくんがイナバちゃんを召喚した魔法だよね?」

 

「そうなります。まあ適正と運がありますから、成功するとは限りません。ただとても簡単に実行できるので、迷っているようならばということです」

 

 イナバのその返答に、皆が驚いた様子を見せた。

 まあイナバを召喚した魔法が手軽だとは思っていなかったのだろう。似た魔法である精霊召喚を知っているサリアさんは、特に。

 

「まず情報体を1つ送るので、それを起動してください。これは本来、召喚に関係のない確認作業ですから気軽に行ってかまいません」

 

 なぜかぼくにも送られてきたので、とりあえず起動しておく。

 ……、……、……。

 

「特に何も起こりませんね」

 

「私も~」

 

「私も」

 

「あれ、ボクは何かの羅列が出てきたけど……?」

 

 ……、……、……。

 

「それは必要な情報片が足りているか確かめるためのものです。消費してはいけない情報体があれば説明書通りに範囲から外して、もう1度、確認してください」

 

「え……足りないボクは召喚できないの、かな?」

 

「時雨は吐き出された結果を私に送ってください。必要なものを……そうですね、貸しましょうか」

 

 ……あ、出た。

 というかぼく独自の情報倉庫はほぼ空だから、足りないどころじゃないよね。

 

「え~、くれないの?」

 

「サリアですら同じ期間で集めているのですから、あなただけ優遇するつもりはありません。集めなさい」

 

「はい」

 

 イナバのやや強めの言葉に、時雨さんはしょんぼりとした様子を見せる。

 

「イナバ、ぼくも足りないみたいだけど?」

 

「ユウは私が集めたものを使えばいいのです。そういう約束ですからね」

 

 そう言ってもらえて嬉しい気持ちはあるけど、それでも情報倉庫は分けられた。理由を聞いたけれども濁された。

 

「ありがとう。でも、使って大丈夫かな?」

 

「情報体にそって消費するのなら問題ありません」

 

 つまり加工がだめなのか。

 そういえば最初の頃に、そんな感じのことを言われたような。

 

「それではまず、渡した情報体を返してください」

 

 送り返す程度ならぼくでもできる。

 

「……はい、確認しました。それでは『アクセプト』、と。ただ『アクセプト』、と呟けば完了です」

 

 その過程は知っている。

 皆の口から次々に『アクセプト』と聞こえてくる。様々な思いが乗せられて。

 でも結果は2つにわかれた。

 目の前に光の粒子が集まり形作られ、彩られた者と。

 空虚を見つめるものと。

 同時に「予想が外れましたか?」という、とっても小さな呟きも。

 

 そしてゆっくりと目を開けた少女は動きを止め、口を手で隠しながら涙を流し、堪えきれずといった様子で目の前の少女に抱きついた。

 

「翠!」

 

 その行動に困惑する少女、翠さん。

 揺れる2つの翠の髪は、まるで楽しそうにはしゃいるようにも見えて。

 交差する2つの翠の眼は違う感情を見せながらも、同じ感情を宿していて。

 

「……ん? 翠、ですよね?」

 

 少しだけ視線を落とした翠髪の少女は、困惑気味にそう呟いた。

 そしてぼく達をそれぞれ視界に収めて、その後で周囲を広く遠く見渡し口を開く。

 

「それにどういう集まりですか、これは。街中だというのに人っ子一人いませんが、魔物がいるというわけでもありません」

 

 どう考えても翠さんを知っている様子の反応。

 それでも翠さんを含めて、誰もが知らない存在。

 

「誰にも繋がりませんし……って!? 翠、インベントリが空ですよ! "ついに"没収されましたか!?」

 

「あの、非常に申し上げにくいのですが……誰ですか?」

 

「……え?」

 

 先程までの勢いはどこへやら、翠髪の少女は今にも泣きそうになってしまった。

 これが普通の反応なのだろう。

 

「ユウバリ」

 

「ほへ」「はい」「なに?」

 

 あまりにも自然に名を呼んだことで、3人がそちらへ顔を向けた。

 翠髪の少女と、翠さんと葵さんと。

 

「おや、あなたもユウバリなのですか?」

 

「え……本当に、翠ではないのですか?」

 

 翠髪の少女はひときわ大きな衝撃を受けたような表情を、今にも泣き崩れそうな表情を浮かべて再び問いかける。

 

「いえ、翠ではありますが、あなたの知っている翠とは別人でしょう」

 

「そう、ですか。いえ、そうですよね。都合の良い奇跡などあり得ないということですか」

 

 その諦めたような呟きが心にのしかかってくる。

 答えを知っているはずの1人はただ見守っているだけ……ではなく、興味深そうにその成り行きを見守っていた。

 

「……はい、落ち着きました。それでは翠、私に名前をください。その時から、私とあなたはパートナーです」

 

 その過程を経てすらも離されない手がなんとも輝いて見える。

 最高の1つに妥協は許されないと見せつけられているようで。

 

「あなたはユウバリなのでしょう? なぜ新たな名を?」

 

「ユウバリは別の方がつけられた名です。あなたと歩むのなら、あなたの隣を歩むのなら名乗るべきではない名です」

 

 泣きそうな心を笑顔で隠して、気丈に振る舞って。

 

「……それでは、私からも『ユウバリ』という名を。私もユウバリなのですから、ちょうどいいです。それとも嫌でしょうか?」

 

 次の瞬間には崩れさり。

 

「それでは……いえ、たしかに受け取りました。私は『ユウバリ』。今からあなたの隣を歩むパートナーです」

 

 もとの笑顔だけが残ってくれた。

 そこに蓋をしなければならない心はなかった。そこに振る舞わなければならない人形はいなかった。

 

「ところで、どうして人っ子一人いないのですか?」

 

「ここは訓練場のフィールドなので、私達しかいません。街中にも見えますが、訓練のための仮想空間です」

 

「え? 仮想空間にしては管理システムと接続できませんが……」

 

「接続先が間違っているのでは? ほら、ここですよ」

 

「あれ、え……ん?」

 

 2人だけに見える仮想ウィンドウで情報のやり取りをしているのだろう。

 空中を指差したり、示された先を見て首を傾げたり。なんだか面白い。

 

「え……ここはどこですか?」

 

「仮想ゲーム世界『ベアリアス・ワールド』に存在するサカフィ。その訓練場から転送されたフィールドの1つです」

 

「え、日本ではないのですか?」

 

「たしかに私は日本からログインしていますが……これはどういうことでしょう」

 

 翠さんの頭の中では色々な可能性が飛び回っているのだろう。

 召喚されたばかりなのに自分を知っていて、日本の知識を有している。そのうえ知っているはずのこの世界の名称を告げても、そちらは知らないような反応を返してくる。

 

「んん……よくわかりませんが、情報体があるので問題ありませんね。残りはおいおい、知っていけばいいです」

 

 そう言った緑髪の少女『ユウバリ』さんは、迷いを吹き飛ばしたような笑顔を浮かべた。

 

「可愛い子を見た時の凛みたいな顔してる」

 

「あ、やっぱり?」

 

 呆れたような表情の葵さんに、サリアさんが賛同した。

 

「おや、翠にそっくりなあなた。翠とおなじユウバリの名に反応していましたが、もしかして親戚だったり?」

 

「葵は私の双子の妹です」

 

「それはそれは。なんというか……2人ともメロンちゃんですね。さすがユウバリ。本来はこうあるはずだったのかもしれないと思えば笑ってしまいそうです」

 

 どこに視線が向いていたか追いはしなかったが、直後の悲しそうな空の笑顔だけは印象に残るものだった。

 

「ああ、失礼。自己紹介をしますね」

 

 ようやく翠さんの手から自分の手を離したユウバリさんは、少しだけ離れて姿勢を正す。

 

「私はユウバリ。軽巡級で翠のパートナーです。情報体加工になると熱が入ることもあるけど、仲良くしてください」

 

 ニコッとした笑顔を受けた皆が、それぞれに挨拶の言葉を口にする。

 

「よろしく、ユウバリさん」

 

「……もしかして、楓ちゃん?」

 

 ああ、やっぱり知っていたかと思った。

 そのために名前を告げなかったのだから。

 

「ぼくはユウだよ。ちなみに楓ってどんな子? ぼくによく似ているのかな?」

 

「そうですね~……う~ん……君を黒髪にすれば容姿はぴったりです。性格は……お節介焼きでしょうか。なにか違う気がしますが、まあそんなところです」

 

「おっきかった?」

 

「小さかったですよ」

 

 ちょうど良いタイミングだったともいえる。ぼくに知らせるための機会だったとすら思えてしまう。

 

「そうだ、皆みんな。えっと、そうですね……私と同じ感じで召喚されている人で、長門って人か撫子って人を知りませんか?」

 

 ぼくが質問を続けなかったことで自己紹介を終わりとしたユウバリさんは、思いついたという様子でそう言った。

 

「長門さんなら知っていますよ」

 

「え、ほんと!?」

 

 翠さんの答えに、ユウバリさんは笑顔を咲かせる。

 誰も知る人が"いなくなった"中で、この場所以外に知人がいると知れれば、それは嬉しいだろう。

 

「少し前に参加した領土獲得戦の決勝戦で戦った、秋津島さんという方が召喚されていたのがナガトさんだったと聞いています。黒髪黒目の背の高い方で、なんというか……かっこいい女性でした」

 

「ああ、間違いない。長門さんだ」

 

 ユウバリさんは、思い出すように視線を空に向けた。

 ただ思うのが、本当に彼女が知っている長門さんなのかということ。

 長門さんとイロハさんと、2人がイナバを見る目は明らかに違っていたのだ。両者ともに親しい間柄であったのは間違いないはずなのに、どうしても明確な差が見えてしまった。

 

「……翠、長門さんと会えるように都合がつけられたりしないですか?」

 

 わくわくした雰囲気が見て取れるユウバリさんの言葉に、翠さんは伝え難そうに首を振った。

 

「ごめんなさい。私からは、どうとも」

 

 領土長、総代としてならば姉さんが連絡を取れるが、姉さんはそれを避けている。それを感じ取っているからこそ、その方法を伝えることすらしなかったのだろう。

 

「そう、ですよね。かっこいいということは、そういうことでしょうから」

 

 ユウバリさんは気にしないでと苦笑いを浮かべて、軽く手を振った。

 きっと直接乗り込むのだろう、彼女は。翠さんが眠ったあとにでも。

 

「その必要はないよ」

 

「え?」

 

「もうすぐあなたの不足は解決するから、夜は翠さんと手を繋いで眠ったほうがいい。ついでに、姉さんに写真を送ってくれると嬉しいな」

 

「それは――」

 

「お待たせ」

 

 ユウバリさんの言葉は続かない。

 聞き慣れているであろう声に遮られ、そちらを振り向いたのだから。

 

「あら、もしかしてユウバリですか?」

 

「え、四葉にイロハさん? どうして?」

 

「どうしてって、あなたも従魔魔法で召喚されたのでしょう? 私も四葉に召喚されただけの話です」

 

 なにを当たり前のことを、といった雰囲気でイロハさんはそう言った。

 

「誰? イロハのお知り合い?」

 

「翠さんが召喚したユウバリさんだよ、四葉。なんだか知り合いみたいだから、少し休憩にして話してきてはどうかな?」

 

「ええ、まあ。それではあちらで話しましょうか」

 

 示した先に移動するイロハさんに、ユウバリさんが弾みそうな足でついていく。

 

「イナバ、あなたは来ないのですか?」

 

「え、イナバ?」

 

 ユウバリさんは周囲を見渡すが、目的の人物を見つけられない。

 

「別に私が行く必要はないでしょう?」

 

「やっぱり何も言っていなかったのですね。あなたがいながらこの様子、おかしいとは思ったのですよ」

 

「え、イナバ? あれ、え……どうして?」

 

「イロハも私も、召喚された直後は魔物の姿をしていたのですよ? まあ私は今も兎が本体ですが」

 

 人の姿でいる割合が増えてきたのは言わないでおこう。

 

「どういうことですか?」

 

 しかし問い返したのは頭が空転していそうなユウバリさんではなく、イロハさんだった。

 イロハさんが知らなかった常識を、ユウバリさんは知っていたのだろう。

 

「すぐにユウバリから聞けますよ。それよりも、私は魔法を教えなければいけませんので」

 

「魔法! 魔法もあるの!?」

 

 一転して、ユウバリさんの瞳がきらっきらと輝き始めた。

 それを見たイナバは「変わりませんね」と呟いて

 

「見せてあげますから、あちらで話しましょう。なんというか、残っても進まない気がしてきました」

 

 イナバは何か考えている様子のイロハさんと、うきうきしているユウバリさんの手を取って、ぼく達から離れていく。

 残ったのは召喚する側の者達だけ。

 

「翠。人の情報、持ってたんだね」

 

「いえ、持っていなかったはずなんですが……イナバから教えてもらった通りにしたら人の情報が含まれていないはずの情報片だけを消費して、彼女があの姿で……」

 

 四葉が何気なく聞けば、翠さんは口元に手を当て、だんだんと悩みを深めていった。

 ぼくにはよくわからないけど、人の情報体というのは貴重なものらしい。

 

「ユウは知らない?」

 

「ぼくは知らないよ」

 

 葵さんにそう答えれば

 

「ユウくんはイナバちゃんから情報体禁止令が敷かれてるから、絶対に知らないと思うよ」

 

「そうなの?」「そうなのですか?」

 

 サリアさんの言葉に悩んでいた2人が反応した。

 

「うん、なんでかな」

 

 本当にどうしてだろうかとは思っている。

 1度、イナバが見守っている中で加工した時に倉庫の中身を弾き飛ばしたからだろうか。その時はイナバが珍しく焦っていたから、まずかったのは理解できるけど……それほどなのだろうか。

 まあ口止めされているので、それを伝えるわけにはいかないけど。

 

「……あまり心配しなくてもいいけど、情報体の加工に失敗すると本人に影響が出る可能性があると思う。狙ってやらなければまず起こらないとは思うけど、ユウの加工方法が"狙っている"に近かった可能性がある」

 

「イナバの情報体加工教本通りに進めたんだけど、もしかしたらそうかも」

 

「っ!? それはどんなものでしたか!?」「ほしい」

 

 この反応で情報体、それも加工に関する興味の具合が明確になった。

 既に諦めているのが2人。

 少しだけ興味がありそうなのが1人。

 声を出して行動にまで発展したのが2人。

 

「だめ、秘蔵の書だから。イナバもぼくに加工をさせるのなら、最低限それくらいはしなければって引っ張り出してきたみたいだし」

 

 両手の指でバツを作って拒否しておく。

 おかしいとは思っている。イナバの知っているぼくは普通に加工が下手程度だったはずだけど……まあ、今のぼくと比べてはいけないのだろう。自分でもそれは理解しているから。

 

「イナバちゃんはなんというか……本人達の手で進めてほしいんだと思うよ。周りが相応の知識を持っているなら、それ相応の知識をくれるけど、周りも同じなら無理に進めたくないって感じがするから」

 

 あの2人が黙っている理由も、きっとそれだろう。

 急速に知識を与えても、良いことだけとは限らない。むしろ多くの可能性が消えてしまうことさえあるのだから、時間があるのなら自らの足で進む方がいい。

 

「それは……まあ……そうですね」

 

「たしかに」

 

 ここで納得できる2人だから、少しだけ手を貸したくなるんだろう。

 ……そういえば情報体の加工に関して、イナバが最も手を出しているのはこの2人ではなくて、あの人だった。もしかしたら足並みを揃えたいのかもしれない、イナバは。

 ただ、そちらはついでの可能性が高すぎて……姉さんもよく会っていることを考えると……否定しておきたい可能性が最も高い可能性であると思えてしまう。

 

「2人はさ、どんな情報体を作りたいの?」

 

 引き離された世界ではなく、望みの先の世界で最も有用な情報体だから。

 そうであれば一番、納得できるのだけど。

 

「難しい質問ですね……」

 

「私は守る者のための情報体でいい」

 

 再び口元に手を当てて悩む翠さんと、迷うことのない瞳で答えてくれた四葉と。

 あまり関与したくないから、可能な限り待っているという可能性もあるのだろうか。

 

「四葉」

 

 であれば、ぼくが少しだけ寄せるのは問題ないだろう。

 

「なに?」

 

「ただ造形が凝っているアクセサリー1つでも、人は守れるんだよ?」

 

 首を傾げた四葉に答えは告げない。

 

「……どういうこと?」

 

 聞こえる呟きは無視して後ろを向いて、イナバ達が話している方へと足を進める。

 翠さんの答えはどうせ出ないだろうから、これでいい。

 2人とも答えは出ていなくて、それがいい。

 

 

 

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